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十八 仮想世界で乙な人質

 コロネとのタイマンから時間にして五分と四〇秒。想像以上に彼女は耐え凌いでいた。片手剣しか使っていないとは言え、今のステータスで出せる本気は出しているつもりだ。シールドバッシュを避ける変態を前にしても、取り乱さず穴熊ビルドの形を保っている。


「スラスト」


「タートルバッシュ!!」


 スキルキャンセル。スキル発生直後、各モーションの節目にあるパリィ受付フレームに入る前にキャンセルすることで、行動を取り止めスキル直後の僅かな硬直をなくせる。だが当然ながら後撃ちの相手も同じことが可能なため、先打ち側が損をする事が多い。共に完全に同じタイミングで、片手の通常攻撃による鍔迫り合いの火花が散った。


「「っ…………!」」


「シールドバッシュ!!」


「ちっ……!!コロネ!!なんかお前どんどん俺のタイミング掴むのが上手くなってないか!!」


「凄い先生がいるから!!でもまだ片手剣しか抜かせてない!!」


 幾度なく火花を散らした。スラストと盾、ストライクバッシュとタートルバッシュ、僅かに、ほんの少しずつ彼女のタイミングが俺の弱点フレームへと近づきつつある。意図してタイミングをずらしているというのにだ。


(まじで合わせてきてやがる……!あと数発試されたら完全に合わせてくるぞこれ!!ふへぁ……!!楽しくなってきた!!スタミナ管理も完璧……!ミスガードでスタミナが減った時はすかさずシールドバッシュで弾いて来るし!)


 回避、スキル、強攻撃、これらの使用後にはほんの僅かな硬直が存在する。だがこれらの後隙も見てから技を重ねるのでは遅い。スラストを俺が使うのならば、コロネは盾を押し付けながら既にシールドバッシュを使うか否かの選択を迫られているはずなのだ。


「ストライクバッシ――」

「――ストライクバッシュ!!」


 コロネの真価が発揮された。完全に俺の剣撃軌道ではなく目を見ていた。タイミングをずらしてスタミナと盾の耐久を削ろうとしたのだが、盾を使わずまるでその剣を拾うように同技をぶつけてきたのだ。ガチでやってパリングを取られるとは思わなかった。


「は?まじ?………………」


「タートル……バッシュ!!」


 頭痛すぎワロタ。俺が教えたコンボに俺が当たるとは間抜けである。いや、彼女の優秀さを褒めるべきだろう。冗談抜きで片手剣だけでは無理ゲーになってきた。ひとまず、さきほどストライクバッシュは使ったので確定スタンコンボは無い。だが確実に攻撃は来る。回避か、先読みをしてパリィをねらうか。


 俺は後者だ――


「やぁ!!」

「スラスト!!」


「レイなら……そう来ると思った!!」


「寸止めかぁぁぁぁぁぁぁ!!やるなぁぁぁぁ!!」


 通常寸止め、からのシールドバッシュ。読み負けて吹き飛びながらも上がる口角を抑えられなかった。そしてこの試験の意味合いはもうなくなっていた。俺と戦うコロネの表情が笑顔だったのだ。ここまで来たのならばもうこの試練に意味は無い。が、勝つのは俺だ。そこだけは絶対に譲らない。


「楽しいなぁ!コロネ!!」


「うん……!!でも片手剣しか使わないでね!!それ以外使われたら絶対勝てないから!!」


「おっけー!!行くぞぉぉぉぉ!!」


「ブレイズバースト変式威力型!!ブレイズブラスト!!」


 射程を捨てた変式威力型、ほぼ近接武器と変わらないリーチになるが威力が跳ね上がる。俺を止められないと悟るや否、法撃すら近接武器として使い始めたんですが。むしろ潔い選択かもしれない。これでは俺が先に回避でスタミナを消費させられる。


「悪いコロネ、片手だけじゃ勝てないわ!リベンジマッチはいつでも受けるから許してな!!」


「へ?――」


 バックステップしながらブレイズブラストの範囲外に下がり、イレイザーを展開させる前にアサルトを連射して盾の耐久を削る。ガード体勢に入るもスタミナがきついだろう。コロネ、お前は凄いよ。使わないって決めていた武器を俺に使わせたんだから。俺は試合には勝つけど勝負には負けたとする。だからまたしような。


「ずるい!!!片手以外はなしって言ったのにぃぃぃぃぃぃ!!」

「俺も勝ちたいんだ……!ふへぁ!!ふはははははははは!!」


 勝ち申した。銃撃による連射によってガード体勢のコロネからスタミナをごっそり奪い、完全にスタミナ有利の状態で近接心理戦に持ち込んで勝利を収めてきた。すまない、勝利(これ)だけは譲れないのだ。とりあえずリスポーンしているので、落ちたアイテムを拾って返しに行こう。


(それにしても強かったな。片手剣縛りだったとは言え、あのままなら多分負けてた……こっちの行動を読む力がクッソ尖ってる。あの才能を開花させたら……ゼロでもやりたいな)


 転送で神殿前へと飛んだ。恐らくはリスポーン地点はステラヴォイドの宿なので、すぐにマップを開いて俺も飛ぶ。しばらくベンチに座って待っていたのだが一向に姿を見せなければ連絡も来ない。


(あれぇ……?もしかして意地悪しすぎて拗ねた……?電話してみるか)


 その次の瞬間背後から。


「謝って」


「ごめんなさい」


「あんなのずるじゃん!!レイは強いんだからハンデ位くれたっていいじゃん!!大人気ないと思わないの!?うぅぅ……!」


「そんな分かりやすい地団駄踏む人いるんだ……」


「怒るよ?」


「もう怒ってます。ごめんなさい俺が悪かったです」


「無理、絶対許さない」


「あ……落としていたものを献上させていただきます…………」


「ふん!」


 完全にご立腹である。受け取る素振りすら見せてくれない。取り返すから持っておけば?くらい心の声が聞こえる気がする。どうすれば機嫌をなおしてくれるのだろう。


「…………リアルでスイーツ奢ります」


「………………ほんとに?」


「はい……今回は(わたくし)レイが卑怯であったと全面的に認めております……ですのでどうか怒りをお沈めください……」


「……ふーん?じゃあいいよ。許してあげる!」


 差し出していた装備品一覧、それを受け取ろうとした刹那の事だった。何故か彼女は寸止めしたまましゃがみこみ、膝まづいている俺の顔の近くに寄って笑う。嫌な笑い方だなおい。


「アサルトなしじゃ勝てなかった?」


「…………………………」


「えへへへ……!その反応嬉しいー!!」


「うぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!この野郎調子乗りやがってぇぇぇぇ!!」


「あっ!でも……私もっと強くなりたいから、これからもよろしくね?先生!」


 もうコロネは心配いらないだろう。強くなっていく楽しさも、対戦する楽しさも、未知を知る楽しさも、アストラに秘められたコンテンツの楽しさを完全に理解したと思う。今後は仲間であり、ライバルだ。


「レイ、スイーツ行こ。奢ってくれるんでしょ?」


「それは良いけどさ、俺らタイマンに夢中すぎてチョコからのメッセージに気付いてなかったんじゃね」


「え?……あっ、ほんとだ……電話まで来てた……ごめんね〜 チョコ〜」


『メッセージが一件届きました』


 マサトからだ。妙に緊張感が感じられる。開く指が重たい。俺個人にこいつがメッセージを送ってきたのは初めてだ。コロネの様子を見るに、チョコと通話をしているようであり不自然な点は無い。


(…………神殿周辺の調査をしてみたんだけど、やっぱりどうしても前回のような特殊ダンジョンが出現しないんだ。どこかで時間を作って貰えないだろうか。あの時の再現をしたい。連絡を待っています)


 これがマサトからの全文である。おおかた予想していた通りだが、問題はコロネだ。


「う、うん!分かった。レイが良いって言うなら行くね。バイバイ」


「どうだった?」


「なんか、神殿までレイと私に来て欲しいって。あの……前のあれ(・・)が出ないって……再現したいから時間ある?って言ってた。レイは時間大丈夫?」


「……あぁ、行くか。その前に倉庫でアイテム整理させてください」


 イモータルボックスに触れている間、チラチラとコロネを見ていたが少しご機嫌だった。理由は分からないが、改めて聞いておきたいことがある。それは失われた祭殿を本当にスルーしても良いのかどうかだ。


「コロネ、もし俺達が行くことで失われた祭殿が再出現したらどうする?本音はやっぱやりたいか?」


「今だとやりたいかも……でもレベルが足りないから無理なんだよね?」


「その権限を持つのは利権者だ。俺達を呼び出したって事は、あいつらはまだあのクエストの発生条件を把握出来ていない。いや!そんな難しい話じゃなくて!やりたいか…………どう……か?」


 いかん。ステラヴォイドという人口密度の高い場所で意味深な発言をしすぎた。色々と悪目立ちしているため、これ以上注目されてはまた〝霊峰の御剣〟に巻き込まれかねない。ということでアイテム整理の後、俺達は再び神殿近くへと飛んだ。


「やっぱりな」


「あれ?いつもはなかったのに……」


 半透明なピンク色の境界線。『祭殿への羅針盤』所持者がパーティーにいる時に限り、そのパーティーは運営の設計した特殊フィールドへの侵入が可能になる。確定であり、それとは別に特殊ダンジョンへの突入には『星屑の鍵』が必要となる。


「行くんだよね?レイ――」


「――ストライクバッシュ」


 コロネの死角から足を狙った弓の狙撃。その矢をストライクバッシュによって弾き飛ばす。弾けはしたが手の痺れ方が尋常じゃない。射手のレベルはおおよそ五〇超えといったところか。そしてわらわらと物陰から複数人のプレイヤーが姿を見せ始めた。


「随分と野蛮だな……〝天啓の導〟は」


「マ、マサトさん!?それに……チョコ!!」


「親切にしてあげていたのに、中々隙を見せないから強硬手段に出たまでだよ」


 マサトの傍らには拘束されて首に長剣を当てられたチョコがいた。ゲームの世界で人質とは乙なやつである。だが恐らくはそんな見た目の裏には、リアルにまでどっぷりと関わった何かがあるのかもしれない。そんなマサトが。


「チョコとコロネはリアフレだろう?こうした方が理解が早いと思うんだけど、コロネは知ってるはずだよ。コイツが貧乏な苦学生って」

 

「……そうなのか?コロネ」


「…………」


 静かにコロネは頷く。チョコの表情を見ても嘘ではないのだろう。囚われたその顔が演技だとすれば女優になれる。それこそ貧乏とは程遠いセレブな生活に様変わりできるほどに。ならばその顔が示すは、嘘偽りのない罪悪感だろう。


「手下を使って誘惑したら簡単に食い付いたよ。情報を売れ、金は出すぞってね。けどこいつの持つ鍵は本命のユニーククエストのトリガーじゃあない……お前達のどちらかが持っていることは濃厚。言い値を出すよ?それとも……毎日PKに怯えてマトモなアストラが送れない生活とどっちが良い?」


「…………慣れてるなあんた。その口ぶりじゃあリアルの方でも同じ事をして来そうだが」


運営()には逆らえないよ!そんな物騒なことをしたら垢BANされるじゃないか!!そんなリスクは負えないかな?僕には……ね?」


 上位クランはアストラをビジネスに昇華している事が多い。ユニーククエストの独占と情報の販売。ユニーククエストで手に入るレアな報酬、武器やサブウェポンはそのままプレイヤーの強さに直結する。奪われないための強さ、アストラユーザーが欲する根源がそこにあるのだ。

『曲刀』


鞘と刀を一対に扱う両手持ち武器。納刀時に拳や鞘に収めた武器自体での殴打、パリング、ジャスト回避によって『コンバットチェイン』を稼ぎ、要求されるチェイン数を消費して強力な抜刀スキルを放つことが出来る。


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