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十五唐突な怪獣バトル

 一週間ほどはインを控えようと思っていたのだが、スマホで連絡を取っていたコロネが言うにはだいぶ落ち着いたらしい。騒ぎから三日、どうやら関心の意中はゼロのようだ。俺のSNSのアイコン右上がとんでもない数字になっているが誰が開けるか。情報過多で卒倒する自信がある。


「久しぶりのアストラただいま!」


『メッセージが一件届きました』


「んあ?コロネか、しもしも〜」


 コアレスからスマホへとリンクし、音声通話をかけた。周りはログインしているキャラクターのボイスで話しているように聞こえるが、当人同士ではリアルの声で通じ合う。詳しい仕組みは知らないので、気になる人は運営に聞いてみると良い。


『レイ!私レベル二十二まで上げたよ!』


「早いな、俺はまだ十八だ。また虚無リングに行くか?」


『そうしたいんだけど……最近ずっとマサトさんが話しかけてくるんだよね。言わないで欲しいんだけど……私ちょっとあの人苦手で……レイが気にしないなら全然いいんだけど』


「ん?苦手?どゆこと?」


『レイとレベリングしてる時の退屈な感じはまだ耐えられるんだけど、あの人とやってるとずっとブレイズレインを連打してるばっかりであんまり楽しくないの。自分でも戦いたいって言ったけど……今はこれで一気に上げた方が良いよって聞いてくれなくて……』


「あー……コロネは強く断れないタイプっぽいもんな。想像着くわ」


『だからその、レイにも同じ退屈な想いさせたくないからどうしようかなって……』


「じゃあ気晴らしにレベリング兼武器掘りとかどうよ?これでも古参勢なんでね…良い場所知ってますよ〜?奥さん〜」


『お主も悪よの〜 じゃあ合流しよ!私は今ステラヴォイドに――』


「――目の前いたわ!!!!」

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?びっくりしたぁ……!ばかばかばか!脅かさないでよ!!」


 悪戯で背後から声をかけたらめっちゃしばかれた。ということで向かう場所はステラヴォイドより北部、神殿とは真逆の方向へと、武器掘り兼レベリングに洒落込むとする。多分コロネも盾を除いて☆一武器しか自力で取得していないはずだ。


「相変わらず貢ぎ魔には追われてんの?」


「親切な人多いかな?でもどれも断ってるよ。あれを受け取っちゃうと……レイと頑張って倒したギガフィネスの喜びが消えちゃいそうで嫌なの」


「もうコロネも俺側のプレイヤーだなぁ!そうなんだよ!!自分の力でぶっ倒して手に入れるのが楽しいんだよ」


「あの感覚をもう一度味わいたいけど……やっぱり私はまだ強い敵には勝てそうになくて、どうやったらレイみたいに動けるんだろうって私なりに勉強してるんだよ!」


「そのためのパーティープレイでもある。ということで、今回はレベリングもかねてお互いの☆五武器を狙おうか」


 人気(ひとけ)が減ってきたところでセイファートを召喚した。爆速移動によって時短一択である。二人乗りして酔いながらも向かうこと数十分、『風切(かざきり)岩層(がんそう)』へと到着した。常に吹き荒れる猛風によって岩と砂以外の物体はなく、岩さえも風によって少しずつ削られて常に地形変化が起きるフィールドだ。


「風に煽られて崖の下に落ちるなよ〜」


「風つよ……!」


「今武器のレアリティって幾つのつけてる?盾は胞子の木壁だよな」


「えっと……コツコツエネミーから落ちたお金集めてたから、大杖と片手剣も☆三をバザーで買ったよ。そ、相談してから買った方が良かったかな?」


「いや、☆三なら全然ありだな。むしろよくやったと褒めてやりたい」


「褒められた〜 わーい」


 ここ『風切の岩層』の最奥地のエネミーレベルは二十三、昔からそこは超人気スポットである。今はどうかは知らないが、アストラの中でも屈指のレアエネミーが低確率で出現するのだ。


 発生条件は昼間であること、そしてレアな天候を引いた状態で極低確率で出現。もちろん今の俺たちのレベルでは到底歯が立たないので、猛者達の戦闘に乗じて落し物を狙おうという作戦だ。ちなみに野良と共通の敵をしばいた時は、一定量のダメージ貢献をしないとドロップアイテムの取得抽選には混ぜて貰えないぞ。


「下降りて最奥地まで辿り着いたら、ひたすら野良と一緒にリポップしたエネミーを狩り尽くす。で、俺達の日頃の行いが良ければ竜様のご登場だ」


「りゅ、竜!?竜ってめちゃくちゃ強いって聞いたけど勝てるの!?」


「いや逆立ちしても無理。猛者とそいつが戦闘になれば、運良く突風竜の鱗が拾えるかもしれない。なんとこの鱗を十枚集めると☆五武器と交換してくれるのだ」


「敵を倒しつつ武器を貰えるってこと!?良いね!レベリングだけだとなんか心が失われていく感じがしてたから……」


「たまにはこういう事もしないとな。任せな、俺の記憶が正しければ道なんて…………」


 マップ開いたら全然地形違くて草。そりゃそうか、常に地形変化してるわけだし、三年前の記憶とかクソゴミにもなりますよね。だがまぁ手探りも面白さのひとつではある。


「あい、すいません調子乗りました……地形変わってて手探りだ。コヨーティアとセイファートを使ってしらみ潰しに人の多いところを探してみよう」


「ん!別々に探す?」


「まったりでもいいだろ?一緒でいいんじゃないか」


「私もその方が良いって思ってた!行こっか」


 そうして走れど走れど人っ子一人いない。☆八の実装でここの竜はお役御免にでもなったと言うのだろうか。一応突風竜メルノアと言えば、☆七のレア武器を落とす人気エネミーのはずなんだが。


「全然人がいねぇ……どうなってんの」


「レイ、なんか曇ってきてない?それに……心無しか風が弱まったような――」


 その刹那、轟く雷鳴と共にマウントから振り飛ばされる程の突風が吹き荒れ、俺とコロネは岩壁へと叩きつけられた。壮絶な風が稲妻を蹴散らし、突如として大空に出現した二匹(・・)の竜が咆哮を上げる。


「うるっせぇぇ……っ!!」


「っ……レイ!!何これ……!」


「分からねぇ!!ただ分かるのは……!本来ならここに出てこない雷鳴竜がいるってことと……!そいつと突風竜が怪獣バトルを始めた事だけだ!!うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


 極太の稲妻が俺の眼前で弾け飛び、その余波で俺は再び壁へと叩きつけられた。そして眼前へと映し出されたランダムクエストの発生。『永久(とこしえ)の雷鳴』、唐突な未知の最前線の始まりである。


「はぁぁぁぁぁ!?そんな前触れもなく情報のないクエスト始まんなよ!!」


「クリア条件……っ!きゃぁぁ!?」


 突風竜メルノアの幼体を奪還せよ。推奨レベル六〇。無理ゲーである。空で怪獣バトルを繰り広げており、雷鳴竜ヴォルディガスの後ろ足にちっちゃいメルノアが掴まれていた。恐らくはマッマのメルノアがブチギレているのだろう。


「レイ……!!赤ちゃんの竜が落ちちゃう!!」


「うぉ……!?受け止められるか!!コロネ!!」


「やってみる!!コヨーティア!!」


 ブチ切れた突風竜の攻撃によって雷鳴竜からヒナが離された。あれをキャッチしたら終わり、そんな甘い条件で推奨レベルが六〇なわけがない。クエスト時間は一〇分、雷鳴竜を倒すか、時間いっぱいまで逃げ切れといったところだろうか――


「っ……!!君、大丈夫?怪我してる……!」


「ナイスキャッチコロネ!!そのまま走り抜けろ!!二匹とも来てる!!」


「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」


 ブチ切れ突風竜と誘拐雷鳴竜との鬼ごっこ開幕である。どう考えてもセイファート並の速さで飛行する竜から逃げ切れるわけがなく、怪獣同士の攻防、その流れ弾と直接攻撃を避けながらの超高難易度クエスト。と、思っていたら絶望の知らせが届いた。


『時間延長、残り十九分と五十六秒』


「はぁ!?ふざけんなよ!!」


「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


「コロネ!?うお……っ!」


 数多の稲妻があちこちの岩を砕き、吹き荒れた突風が殺人級のつぶてを撒き散らす。その風に攫われたコロネがヒナと共に空を舞ってしまった。雷鳴竜ヴォルディガスがコロネに照準を合わせて滑空するも、そこへと突撃したメルノアによって再びコロネが衝撃で飛んでいく。


「セイファートぉぉぉぉぉ!!」


「っ……レイ!!」


「手を伸ばせ!!よいっしょぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 ほぼ投げられたような弾道のコロネを追いかけ、速度を合わせながらお姫様抱っこした。ちゃんとその手には抱えあげる程のヒナがいる。すぐにコロネを前側に座らせて思考を張り巡らせた。これは誘拐犯を仕留めなければクリア不可能なのかと。


「どうすりゃいいんだよこんなのぉぉぉぉぉ!!」


「レイ……!クエストが変化した!!」


『ユニーククエスト、『星竜の裁き』に派生します。クリア条件変更、星零竜(せいれいりゅう)が来るまで幼体とプレイヤーの生存、に変更です』


(星零竜……?また聞いたことねぇ単語が……!あっぶねぇぇぇぇぇぇぇぇ!?)


「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 降り注ぐ稲妻が幾度となく岩を砕き、間髪入れずに突風が殺人級のつぶてを無限に撒き散らしてくる。まるで目の荒いミキサーの中を走っているようなものだ。まじで生きた心地がしない。


「なんかよく分からんが……!コロネ!俺の方に向き直って思いっきり俺に捕まってろ!!」


「え……ぇぇぇ…………その……それは少し恥ずか――」

 

「――早く!!まじで振り落とされるからぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!いぇぁぁぁぁぁぁぁ!?」


「うわっ……とと……!じゃ、じゃあ……し、失礼します……」


「おう!絶対に落ちるなよ?振りじゃないからな!?」


「う、うん……!」


 しっかりとヒナを挟んでコアラのようにコロネが捕まったのを確認後、セイファートを本気の疾走に切り替えた。まじで息が出来ないほど早い。俺はしばらく止められるがコロネは慣れていないだろうし、こうでもしないと窒息する。


(まじで喋れないぃぃぃぃぃぃ!!おっかないよぉぉぉぉぉ!!うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!お父さァァァァァァァァん!!)


 だがそれでも甘くは無い。竜と言えばアストラの世界で最強格のエネミーなのだ。当時のカンスト六〇が三〇人〜六〇人集まってようやく倒せるかどうかといった強さであり、最早ランダムで発生するレイドボスのような扱いだ。


 そんな馬鹿みたいな強さの竜の放つ魔法は、本気で狙いに来たのならばセイファートを持ってしても避けられはしないだろう。現に、俺は背後から近づく雷光に気付けなかった。


『コンボ数』


攻撃を間髪入れずに与えるとその数が可視化される。コンボ数が集えば敵の体勢を崩し、渾身の一撃を打ち込む狭間を見つけられるだろう。


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