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十二 星雲狼セイファート

 サブクエストの内容は至って簡単である。ここバストラルアークは主に農業と炭鉱に勤しむ田舎であり、シナリオ的には、仕事に関わる鉱山にエネミーが住み着いているから駆除してこいというところだ。


「敵を倒すだけ?」


「ああ、俺らはどちらも未クリアだからパーティー組んで同時に受ければ一回で済む。でもそうだな……コロネは戦術とか興味あるか?」


「戦術……?」


「エネミーにも、プレイヤーにも、戦いに勝つとはいずれも決まった流れを作ることが大切で……って小難しい事言いかけた。まぁあれだ、こうすれば勝てることが多い、そんなルーティーン的なスキル回しって言えばいいのかな」


「んんんんんん?」


「わ、悪い……難しいか。ほら、コロネって初期装備が杖、盾、剣だったろ?射線修正について教えてもらったって言ってたから、穴熊(・・)も聞いてるもんかと」


「穴熊……チョコが言ってた気がする」


 穴熊。


 何を隠そう、この戦術は俺が流行らせた法撃戦術である。流行りすぎて闘技場に入る度にこればっかり相手してた時期があるくらいだ。ただまぁ、今このビルドを組むには一つ入手が困難なサブウェポンがあるため、劣化版にはなるがそれでも使い物になる。


「法撃は吹き飛ばしに始まり吹き飛ばしに終わるって教えたろ?だがプレイヤーやエネミーとやってるとどうしても詰められる時がある」


「はい先生!シールドバッシュですよね」


「そう、出も早いし回避も難しい。だからこそ、どうせシールドバッシュだ〜 って甘えた敵を沈めるための剣と盾だ」


 法撃士を沈めるためには近接武器でイレイザーを割るのが手っ取り早い。故に甘えた攻撃に来た近接マンへと、盾と片手剣を使って一瞬でスタンを取る。その後は大型の法撃を唱えてWINという流れが理想である。中々うまく事は運ばないが、そのコンボがあるだけで対戦相手は迂闊に近寄れなくなるのだ。


「盾は他の武器と違ってパリングの受付時間がやや長いから弾きやすい。難しい話はこの辺にして、俺を信じてくれるなら、せっかくだし穴熊に向けてコロネのパリィ練習をしよう」


「はい先生!」


「じゃあ盾構えて」


「……………………え?」


 優しい笑顔を浮かべたつもりだったのだが、何故かコロネが顔面蒼白で震え出した。右手に取り出した片手剣がダメだったのだろうか。でもこれないと練習できないし。


「俺が切りつけるから、当たりそうだな〜ってタイミングで思いっきり剣に盾をぶつけてくるんだ。おk?」


「こ、こここここここわいよ!?だ、だだだだだだだってレイさん上手だし……っ!」


「俺が本気でやったらパリィなんかさせる訳……って違う違う!練習!これは練習!!いきなりエネミー相手だとビビるだろ!?」


「そ、それは確かに……」


「んじゃ、ゆっくりやるから」


「は、はい!」


 一発目は失敗。俺の剣は『胞子の木壁』を撫でるように剣撃を残す。そう、これこそが盾の持つ特徴の一つ。パリングに失敗しても反撃が入らない。が、この場合は盾の耐久値とスタミナがまあまあ減る。


「盾はパリングに失敗しても弾かれないから気にすんな。これが実戦ならすかさずシールドバッ――」


「シールドバッシュ!!」


 まじでこの小娘一発どつき回してやろうか。物凄い衝撃とともに三半規管が揺れた。ひっくり返りながらも腕で地面を押し出し、受け身を取りながら流れるように立ち上がった。飲み込みの早い生徒な事で。


「優秀な生徒だなぁ〜!!もう少し速度上げよっか……っ!」


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいぃぃぃ!!」


 七回目くらいだろうか、びびりながらもちゃんと俺の剣を見て――


(――剣じゃない。俺の目を見てやがる)


「ここ!!」


「っ……!」


 弾かれた。こいつ今、剣じゃなく俺の目を見ながら軌道を先読みしたと言うのだろうか。刀身の軌道など幾らでも変えられる。それこそフェイントにだって出来るのだから。だが目は誤魔化せない。言うまでもなく次のフェーズに自ら入りやがった。


「すかさず俺の頭に『タートルバッシュ』!!」


「タ、タートルバッシュ!!」


 前方向へとステップしながら盾で叩くウェポンスキルだ。ストライクバッシュ同様に打撃特性を持っており、斧と変わらない程に怯み値と気絶蓄積を与える性能を持つ。


「がっ……!す、すかさず…ストライク……バッシュ…………だ!頭に!!」


「う……でも、なんか殴るの嫌……」


「練習だって!?なんでちょっと泣きそうになってんの!?」


「ゲームでも友達を傷つけるのは……なんか嫌なの!!」


「聖母か……?分かったよ。じゃあさっきまでの通り、盾でパリングの感覚を掴んでいくか」


 さっきのコンボだがあそこでストライクバッシュは確定では入らない。やろうと思えばこちらは回避ができる。だが回避後の僅かな硬直に重ねてシールドバッシュを打ち込めば、当初の法撃士としての理想の距離感を取り戻せる。これこそが穴熊と呼ばれるビルドの一角だ。


 そうして一時間ほど練習して形になってきたところで、サクッとサブクエストを終わらせてきた。コロネはエネミー相手にはあまり容赦はなく、タートルバッシュからのストライクバッシュ、スタンからのシールドバッシュに繋げてイグニションバーストという鬼畜コンボをゴブリンに叩き込んでいた。しかも笑いながら。


「コロコロと武器を変えて戦うのも良くね?」


「楽しい!なんか戦ってる感が増して猛者?みたいな感じがする!」


 人を攻撃する事に慣れたなら、多分この子は将来闘技場にもハマること間違いなし。将来有望なプレイヤーである。何よりもアクションゲームが初めてだと聞いたのに、飲み込みが早いので教えていて楽しい。ついこちらの指導力が高いと勘違いしてしまいそうだ。


「こういう風に戦い方自体を考えるのも楽しいんだ。いつか穴熊に飽きたらやってみても良いかもな」


「それはまだちょっと難しそうかなぁ?そういえばレイは何の武器が得意なの?片手剣を使ってるところよく見るけど、そうなの?」


「俺は……そうだなぁ?強いて言えば全部使えるけど……使っていて楽しいのは曲刀だな」


「えぇ……?チョコが言ってたよ?曲刀は変態が使うって」


「なんでだよかっこいいだろ!!男の子はみんな日本刀大好きなんだよ!!知らんけど!」


 曲刀。


 片手で扱える武器ながらに、鞘と一対の両手持ち武器である。納刀と抜刀状態を使い分けるため、少々クセが強い。それだけなのに変態とは酷い言われようである。一時期はアストラで曲刀ブームが発生したほどなのに。


「話してたら帰ってきたなー おーいおっさん〜 倒してきたぞ〜」


「きたぞ〜」


 ということで無事にマウントテイムもゲット。そしてここからがコロネの拘りタイムの始まりでもあった。結論から言うと、ワールドツアーである。尋常ではないほどに歩きまくった。


「んじゃ早速捕まえにいくか」


「レイ!私あそこ行きたい!前にね、森の中でピンク色の兎がいたの!!」


「あー、いるなぁ。んじゃ行くかー」


 かと思っていたら。


「レイ!!あっちも行きたい!!オットセイみたいなやつがいたの!!」


「あー、あいつか。行くかー」


 そしたら。


「レイ!!」


「だぁぁぁぁぁぁ!!?どこまで行くんじゃい!!」


「だって選べないよ!!みんな可愛いもん!!」


「こうなりゃとことん付き合ってやるよぉぉぉぉぉ!!」


 そうして脅威の三時間デートである。途中からエネミー鑑賞みたいになってた。俺とコロネのスクショフォルダーが一気に増え、たまに変顔で二人と一匹の写真とか撮ってやった。気が付けば周囲の推奨レベルが七〇の所にいるとは知らずに。


「……………………」

「……………………」


 動けない。メニュー画面開いて飛ぶしかない。敵レベル高すぎ笑えない。転送には五秒かかる。その間殴られたら転送失敗。二人してテイムリンクはイモータルポーチに入れているため、最悪死に戻りしかない。


「んあ?レアエネミーだ……」


「白い狼?」


「白ベースの毛並みだが、蒼のメッシュが走っててオシャレだな」


「それになんか周囲がたまにキラキラしてるね」


「…………なんかこっち歩いてきてね?」


「レイ……っ!助けてくれるよね!?」


「無理無理無理無理無理無理!?ここ敵レベルカンストだろぉ!?あいつアクティブエネミーなのぉぉぉ!?」


 蛇に睨まれた蛙の気持ちが今ならよく分かる。逃げなきゃ死ぬ事なんて本能が分かっているのに、歩み寄る絶対的な強者の威圧がそれを許さない。そしてその白い狼は止まった。俺の目の前で品定めをするかのように見下しながら。


「コ、コンニチハー」

「ケ、ケガキレイデスネ」


 エネミー名『星雲狼(せいうんろう)セイファート』。当然ながら俺のいない間に追加したであろうフィールドとエネミーであり、攻撃パターンも知らなければ強さも知らない。だがどういうわけかこいつは目の前で頭を下げて体を丸め出した。


「なんか……ワンチャンみたいに寝始めたね……」


「なんだぁ……?こいつ……」


「テイムしてみたら?」


「十中八九ブチ切れて死ぬぞ、俺ら」


「最悪死に戻りしよ?」


「……まぁコロネは転送で帰りな。なんか無防備だしやってみるだけやってみるわ」


 テイムリンクは一定範囲内に近付いた後、キーホルダーのようなそれを掲げて起動すれば使用できる。体力の多さにテイム確率は関係なく、レベル差は大きく関係する。そもそもこいつがマウント可能なエネミーかすら分からない。つまりは本当にただの気まぐれ検証なのだ。


「……オ、オハヨウゴザイマス」


「…………っ」


「……えぇぇぇぇぇぇ!?テイム成功したんだけどぉぉぉぉぉぉぉ!?」


「おめでとうぅぅぅぅぅ!?」


 紋様が光ってテイム成功した。それしか言えない。だって俺も何が起きているのか分かってないのだ。レベル差五十四だよ?捕まえられるとか微塵も思うわけないじゃん。どんな攻撃モーション持ってるんだろ〜くらいしか考えてなかったわ。


「い、一応二人までは乗れるから、乗って帰ってみる……?」


「いいの!?やったー!!その子触ってみたかったんだよね!!」


 その後俺達二人は状態異常『昏倒』を食らう。何故ならばありえないくらいセイファートが早かったから。毛並みを堪能する余裕などあるわけもなく、コアラの赤ちゃんのように背中にしがみつく他に為す術なかったのだった。

『盾』


片手で扱う事ができる防御向けの武器種。攻撃を弾くことは当然ながら、万が一パリングに失敗しても被弾しない性質を持つ。


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