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一一四 エラー


 ハロウィンイベントの真っ只中、とある大事件が発生した。それぞれ欲しい景品に必要な星核の数は手にしたため、コロネとの約束であるタイマンのリベンジマッチを庭で行っていた時のことだ。


 決闘フィールドにて全部ありの対戦で、何回目かは数え忘れたが俺のカースサインがコロネの『胞子の木壁』を粉々に砕いてしまったのだ。盾持ちとやる場合にはかなり有効打なため、気にせず詰めたら彼女は絶望したように跪いてしまったという経緯があり、今ここ。


「ああああ……っ!戦いに夢中で…………耐久値見てなか……ったぁ…………」


「……えっと?コロネさん?盾は壊されやすさナンバーワンの武器種だからあまり気にしなくても大丈夫だぞ」


 観戦していたチョコが。


「そうよー 胞子の木壁が気に入ってたなら、バザーにもあるから買い直せばいいのよ」


「そんなんじゃない!!これは……私が初めてレイと手に入れた思い出の盾だったの……装備が強くなって使わなくなっても…………大事に残しておこうと思ってたのに……」


 戦闘中だと言うのに元盾の木片を抱きしめたままメソメソと泣き出したコロネに哀愁が漂う。まさかそこまでギガフィネスとの共闘とその結果を大事にしてくれているとは、驚き半分嬉しさが半分、だが武器にも出会いがあれば別れがあるものだ。


「じゃあもう一度俺と共闘して新たな思い出を作るか」


「え……」


「少しコロネと館を離れる。チョコ達は好きにしててくれ〜」


「や、館を離れるって今から何を……?」


「その木片はゲーム上ではただの木だ。でも俺やコロネにとってはその限りじゃないし、新しい盾を手にするにも、木壁の意志みたいなものを引き継げたらエモいと思わないか?」


「そ、そんなこと出来るの!?」


 当然俺には無理。だがプルートーンを持ち込んだことで俺はマナに一目置かれ、加えてダークマターという未知を見せつけたコロネもその対象だ。故に目新しい鉱石探しのついでに、木片もクラフトに混ぜてもらい星七相当の盾を作ってもらおうという作戦である。


(許可は取ってないけど、何度か話した感じ欲しいものは物やお金じゃないっぽいし)


 未知の鉱石と手探りの加工技術によって新たな発見を楽しむ輩だ。こちらから未知の材料を提供すれば喜んで作ってもらえるだろう。知らんけど。多分新しい玩具を買い与えられた子供のように、好奇心旺盛な反応をするのだと偏見一〇〇パーセントで妄想する。


「でも珍しい鉱石ってどこにあるんだろう?」

「ま、見かけたら掘ってみるくらいの気楽さで、適当にワールドツアーでも楽しもうぜ」

「わーい!可愛い子見つかったらいいな〜」

「俺は火山があれば入ってみたさある」


 そうしてもう何度目か分からないワールドツアーである。だが今までとは明確に違う事がある。俺コロネの関係性だ。二人して何も言ってないがこれは完全にアストラデートというゲーマーの中でも勝ち組のコンテンツである。リア充楽しすぎワロタ。という事でまずは深海デートに洒落込むとする。


「コロネ、今だけ頭の防具外せるか?」


「大丈夫だよ。どうしたの?わっ……」


「たまたまレベリングの時に泥した頭装備だ。暗視の効果があるから使っていいぞ〜」


「ありがと〜」


 俺は海中にぶちまけないよう暗視の法液を使う。何故かって、裸縛りだから。デートの時くらいいいだろと言われるかもしれないが、裸縛りとは鉄の掟であり例外は無い。この緊張感をぜひ共感して頂きたいものである。


 そんなこんなで暗視の法液を頼りに未開の深海へと漂う。いや飛翔してるばりに速いが、とにかく目新しい光景ばかりで心が踊る。不思議と深海に行けば行くほど現実でも存在する魚類が増えているのは気のせいだろうか。


「海溝かよ。深すぎだろここ……」

「ちょっと怖いけど……ドキドキしてる。期待と不安って言うのかな?行ってみたい気持ちと引き返したい気持ちが半々みたいな……!」

「分かる〜 もう少しだけ行ってみ――」


 ドン、と顔面が見えない壁に当たった。それと同時に眼前へと『To Be Continued…』の文字が。まさかのアプデ確定演出に目を見開いたものだ。新天地の制作が追いついておらず、今はまだ立ち入れない世界の最果てという事だ。


「まじか……!!アプデが来たらワンチャン真っ先に入れるぞここ!!絶対こんな辺鄙な深海なんて誰も知らないだろ!!」


「そ、そそそそそそうだよね!?あっ……!レイ!!あそこ見て!!」


「ん?」


 侵入不可エリアの境界線ギリギリ、V字型に切り込まれた海溝の岸壁に蒼い鉱石が妖しく点滅していた。侵入出来ないエリアの壁に張り付いており、丸みを帯びた先端しか掴めないが滑って仕方がない。


 試行錯誤すること三〇分。押したり引いたり、思い切り蹴り飛ばしてみたり、なんだかんだしているうちに抜けかけの歯のようにぐらいついてきた。落っこちたら海底まっしぐらなため慎重に、それはもう本当に慎重に持ち上げた。


「なんだこれぇ!?」

「見せて見せて!」


 ゲームテキストが文字化けしている。またもやマナ案件かと、二人して首を傾げながらもイモータルポーチに入れようとしたらまたもや謎が。眼前にエラーコード403が出てきて入れられない。コロネが言うには『星屑の鍵』とはまた違う文言らしい。


 つまりは運営が意図してイモータルポーチに入れられないように設定した『星屑の鍵』とは違い、こちらは完全に理解不能と言うことだ。403エラーと言うと、アクセスに対してその権限が無かったり、システムそのものに不備があり、そもそもありえないとゲームが悲鳴を上げていることが多い。


「どうする?このまま手持ちでマナさんに聞いてみる?」


「いや、そもそもアストラ様が何それ?って言ってるんだとしたら、母体の上で成り立つ鑑定のスキルも役に立たない可能性が高い……これは…………アギトさんだな」


「運営の人?でも……アストラって意地悪な部分もあるし、素直に教えてくれるかなぁ?」


「俺の予想が正しければ、多分またお前かって顔されると思う……」









 アクアリング上層、〝天窮使節団〟の扉をノックして入室した時の事だ。アギトさんを含む他のメンバーも今回は揃っており、その中の一人が俺の顔を見るなり短い悲鳴を上げやがった。失礼にも程があるだろ。バケモノを見たような反応しやがって。


「ひぃ……っ!残業はもう嫌だァァァァァァァァァァ!!!!!」


「うるさいよ。その節はどうも、どうかしたのかな?レイさんとコロネさん」


「ちわっす。深海で遊んでたら変なもの拾ってさ〜 これなんだけ――」


 蒼く点滅する鉱石を見た瞬間の事だった。あの温厚で優しくもあり、全てを見透かしているかのような冷静で知的なアギトさんが大声を上げた。それは怒り、明らかに実名の苗字を吠え、それに連動して奥の一人がビクリと顔を上げる。


「サワムラァッッ!!!!!!新エリアの境界設定をミスったなぁ!!!!」


「そ、そそそそそそそそんなはずは!?あえええええええええええええ!?」


「……えっと?ドユコト……?」


「はぁ…………すいませんレイさん。そちらのアイテムはまだ実装していない新鉱石としか伝えられません…………うちのバカが手の届く範囲にポップ設定を…………しかもよりによってこれを……っ!おいサワムラァ!!」


「そ、そそそそそそそんなはずは!?」


「お前それしか言えないのかァっ!!!!ログアウトして待ってろ!!あぁ、申し訳ありませんレイさん……お見苦しいところを。さてどうしたものですかね……?こちらの不備に対して理不尽に取り上げるのは世界観的にも美しくありませんし……」


「頼む、言える範囲で説明よろしく……」


 言うには新年に予定されていた新エリア追加のアップデートによって解禁されるアイテムらしい。詳細は未実装の今伝えることは出来ないらしく、しかし取ってしまった俺達に批はないため協力を申し込まれた。


 一、同等価値の実装アイテムと交換。二、実装まで運営が預かりアプデ後に譲渡。三、実装後の想定される価値に見合ったゲーム内通貨とトレード。共通して言えるのは、今は没収ということだ。


「こちらの不備にも関わらず勝手な申し付けをお許しください……」


「いやでもねぇぇぇぇ?めっっっっっっっっちゃ苦労して手に入れたんだよなぁァァァ?」

「え……レイ?そんなことな――」


「――ええ!?まさか神運営が理不尽な事要求するわけないよなぁ!?ユーザーに不利なバグは知らんぷり、逆に有利なバグには全力疾走で駆けつけるような神運営がなぁ!?まさかァァァ!!」


 〝天窮使節団〟の一人が。


「またお前かよ……デスアンドライフと二枚合わせの鏡だけじゃなく…………こんな抜け穴まで……」


「なんか言ったかぁ!?こちとら許された範囲で必死に遊んでんだ!!文句を言われる筋合いはねぇぞゴレィ!」


「……分かりましたよ。素直にお話ししよう。そちらの蒼い鉱石は、我々の定める最上位の種族……神に関係ある鉱石になるんだ。君の持つプルートーンと同等、もしくはそれ以上のレアリティと物語が予定されている」


 観念したようなアギトさんが言う。どうやら薄々感じていたように、アストラにおいて神とは崇高な存在であると同時に、プレイヤーの望む高水準な装備に繋がることが多いようだ。


「アプデ前の情報になるし、本当にこれ以上は言えない。その鉱石は……未実装である日本神話にまつわる神様関係のアイテムだ。他言無用にしてもらいたいし、先程の三つのどれかに加えて世界初のアイテムを付け加えても良いから、どうか要求を受け入れて欲しい」 


「……ま、ガチャガチャいって垢BANされたくもないしな。その辺で手を打つか」


「はぁぁぁぁ……ありがとう」


 とは言えネタバレはあまり好まないし、かと言って運営に没収だけされるのも癪である。なので大量のゲーム内通貨に加えて、運営が世界初とまで言うアイテムと引き換えに蒼い鉱石を手放した。


 対価として手渡されたものは『アテナの守心』。砕け散った何かであり、武器でもなければ防具でもない。ゲーム内テキストにあるのはただ、『武具が砕けても彼女の意思と心は折れない。砕けてもなおこの素材は、彼女の心の在り方を強く刻み込まれている』と。

『耐久値』


全ての武器や防具、アイテムには耐久値が設けられている。使用による摩耗、攻撃による破損、経年劣化等で減少する。耐久値がゼロになるとそのアイテムはロストしてしまうため注意が必要だ。


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