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一〇七 自ら死を選ぶ細胞


 アストラでは空中にいる時、強攻撃を含むほとんどのウェポンスキルが使用出来ない。何故ならば地面にいなければ、ムーブアシストを解除したエネルギー補完が困難なためだ。斧を除く全てのウェポンスキルは地面から始まるのだから。


 故にユキナの着地のギリギリ、ここへと助走とスタミナ消費の伴う強攻撃を全力で振るう。弾かれる恐れがないため着地狩りはアストラの基本。防御に構えた長剣へとわざと強攻撃を振り抜く。


「っ……!」


「構えさせねぇよ!!スラスト!!アサルトスラッシュ!!」


 ユキナではなく長剣へと一回転してスラストを叩き込む。追撃でさらに一回転、切り返してから逆回転で二回、計四回の剣撃によってユキナのエターナルカイザーがついに手から吹き飛んだ。システム的なパリィではなく、力技で武器を吹き飛ばす強引なパリングである。


「スキルリンク、シャープネスストライク――」


 離さまいと長剣を必死に掴んでいた事が仇となったな。大きく体勢を崩したユキナへとトドメの突きを放つ。だがユキナから剣を離させただけでも勝ちだろう。殺すまでもなく、奴の心が折れたはずだ。


 寸止めしたことによってユキナの髪が風圧で靡く。なぜ殺さないのかと言いたげな、目を見開いた表情には驚きが見える。


「なぜ殺さないのですか。あなたの勝ちです……」


「なんで二本目三本目を抜かないんだよ?エターナルカイザーしかセットしてなかったのか?」


「同じ結果だったと思います。あなたも片手剣一本しか使っていませんでしたし、完敗ですね。お見事でした……降参です」


「良い試合だった」


「……まるでゼロのような突撃回避に神がかった反応速度と高精度な予測、また超えるべき目標が増えちゃいました。今度はぜひ闘技場にもいらしてください」


「気が向いたらな〜」


 バトルオアスターの効力によってユキナの星核が俺へと加算された。侵入不可エリアの消失と共に、レンカが指をクイクイしながら歩み寄ってくる。勘弁してくれ、バケモンと連戦とか過労死する。


「疲れたからまた今度にしてくれ……」


「ひよったんか……負けるん怖くて…………震えとんのか…………」


「シンプルに疲労で足が震えてんだよ。なんでお前はキジルとやり合って元気……お前も足ガックガクじゃねえか」


「アシュオンコラボで…………イレイザーなしなら……風穴って…………だからなしで……スクラップにしてやった…………鉄クズらしい最後……」


 流石のレンカと言えど、精密な射撃の腕と避け上手なキジルを相手では高カロリーな戦闘を強いられたようだ。心の勇ましさに体というか、脳が追いついていない。猛者との対人戦なんて連続してやるもんじゃないし、仲間をこれ以上置いてけぼりにしたくもないのでパーティーを組んで転送一択である。


 ハロウィンイベント時、オープンフィールドには従来のエネミーに加えて限定のものも出現する。従来のエネミーがハロウィン仮装しているものであったり、新しく限定でデザインされたものであったり、共通して言えるのは限定泥で星核等イベントマネーを落とすことが多い。


「新エネミー鑑賞会でもする気かしら」

「楽しみ〜!PVにいたカボチャの頭を抱えてるハムスターが可愛かったんだよね〜!」


「もちろん鑑賞会はする。他のクランも結構外出してんなぁ〜 やっぱPVのあの影絵の奴探しだろうか」


「でしょうね」


 PVには恐ろしい音声字幕と共に限定レアエネミーがシルエットと名前のみ公開されていた。『ジャック・王・ダンサー』、アンデットのレアエネミー『ソードダンサー』とハロウィンを掛け合わせたものだろう。


 一対三組、六本の腕には武器のようなシルエット、そして頭部に当たる部分は明らかにカボチャ。全体的に骨格はソードダンサーと変わらず骨っぽい印象だったが、『あなたが奴を見ている頃、それは奴も貴方を見ている……』とやたらナレーションの人がいい声で言っていたが強いんだろうか。


「深淵を覗く時は深淵もまたなんとやらってか!HAHAHA!!」


「見た瞬間強制的にヘイトが向くとかそんな仕様だったら死ぬほどダルいし恐怖よ」


「そんな理不尽な設定を神運営がするわけ。エイプリルフールでさえもアクティブ反応が逆転程度のドッキリだぞ?目が合っただけで襲ってくるわけ――」


 ソードダンサーは全エリアでランダムポップとされている。噂ではエネミーを狩りまくると恨みを持った魂が集結し、それがソードダンサーポップに繋がるとかなんとか。何が言いたいって、たった今目の前にソードダンサーが現れやがった。


 しかも連続して落雷がソードダンサーに落ち、お化けなんかの演出でよく聞くSE、「ひゅ〜どろどろ」みたいな音と共にカボチャの頭を被った二階建てサイズの骸骨が目の前に。結構距離はあるね。危ない危ない、危うくフラグ回収するところだった。


「――なんかこっちきてるぅぅぅぅぅぅぅ!!」


「あんたフラグ回収早すぎでしょ!!二度と喋んじゃないわよ!!」


「でも野良もいっぱい集まってきてるよ!!」


 コロネの言葉に辺りを見渡すと確かにその通りだ。大勢の野良が駆け付け、我先にとイベント限定の未知へと切りかかる。だが何か様子がおかしい。法、貫、斬、打、攻撃の基本となる四属性全てがまるで効いてない。ダメージエフェクトすら出てないんですがそれは。


「稲刈りじゃねえんだぞ……!あぁ、野良が次々と死んでいくぅぅぅぅぅぅ!!」


 遠方だがジャック・王・ダンサーからリズミカルに一対三組の腕が交互に振るわれる。雑草でも狩るようにプレイヤー達が次々と吹き飛ばされながらデスポーンしており、高レベルな奴も絶対にいるだろうにその光景に思わず恐怖を覚えたものだ。


 高レベルという事はアストラの過酷な中堅時代を乗り越えた上位層という事だ。何が言いたいかと、奴らは防具までもが一流の可能性が高く、それがワンパン。そう、多分あのハロウィンダンサーは火力がアホみたいな数値に設定されている可能性が非常に高――


「きちゃぁぁぁぁぁぁぁぁあ!?」


「ウッソでしょ!?ここら一帯のプレイヤーが全滅!?ものの数秒で……!!転送の雫は!!」


「さっきレンカから逃げる時に使っちまった!!在庫はゼロ個ぉ!!危ねぇぇぇぇぇ!!!!いぃ!?」


 リズミカルななぎ払いを繰り返すため、横に避けようが後ろに避けようが轢き殺されることは明白。故に前に自らステップを踏み、さらに回避スキルを繋いで距離を稼いだ。股の間を潜るようにして攻撃を凌いだわけだが、剣を握るハロウィンダンサーの拳がほんっっっっっっとにミリ掠った。


 掠っただけで体力が八割ほど吹き飛び、アホ火力という仮説を確信する。負けイベでもここまでやらないぞバカ運営が。PVの最後にて綴られた『祝福を穿つ恐怖にあなたは耐えられるか?』の意味が分かった気がした。


「やっばぁぁい……!!お前ら!!俺が五秒稼ぐ!!転送して逃げろ!!無理ゲーすぎる!!」


「きゃぁぁぁぁぁ!!??」


「ナイス回避コロネ……!!ランダムヘイト……?いや、凝視してる奴に来んのかぁぁぁ!?ひええええええ!!」


 ちょっと視線を切ったらコロネに、観察してたら次はこっちに、ノールックでほぼ確殺レベルの剣を振り回してくる。プレイヤーが倒せないタイプの恐怖を象徴としたテーマだろうか。いや、決めつけるな。何か手は――


「ト、トリックオア……トリート…………」

「コロネ!!そんなん通用するわけないでしょ!!」

「いや待てチョコ……!!ハロウィンダンサーの動きが……」


 コロネの差し出した左手には袋詰めされたお菓子。問いかけに対してハロウィンダンサーはカボチャの頭を近づけ傾げる。むしろ理不尽の塊の骨が喋りやがった。


『カロロロロロロロロ……?トリ、トトトリ……トリック…………アア?……トリート?』


「……コロネ、トリートって答えてみてくれないか」


「ト、トリート!」


『カロロロロロ……!』


 六本の剣を地面へと突き刺し、コロネの持っていた袋詰めされたお菓子を摘むようにひったくりやがった。そしてくり抜かれたカボチャの頭、その口にあたる切り抜き部分から袋ごと放り込む。咀嚼から約二秒、跪いたハロウィンダンサーから未知のエフェクトが。


『あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!!!!!!!!!』


「何だ急に……!!」


 跪いた地面と全身から吹き出すように黒い光のようなエフェクトが絶え間なく走り抜け、悲鳴のようなハロウィンダンサーの雄叫びに俺達は咆哮と同様に硬直を喰らった。しかもクソ長いしうるせぇ。なんなんだ一体全体これは。


『ああ……ああああ!くっそ不味いわァァァァァァァァァァァァァァ!!!!あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!?未練よりも……!!我はぁ!?死を望むという…………のかぁ……!!うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!』


 なんかよくわかんないけど成仏した。一応アストラ一般常識として、アンデット系統に理性はない。が、恐らくはコロネの壊滅的な料理センスによってそれを貫通した。不味すぎて感想を言わないと気が狂うというか、それでもなお余韻のような後味に自ら死を選んだっぽい。知らんけど。


「ひ、酷い……!不味くないもん!!レイは私の料理を美味しく食べてくれたもん!!帰ってきて!!リベンジマッチ!!次は美味しいって言わせてみせるんだから!!」


「……あんたよく生きてたわね」

「……絶望って多分ああいう感情なんだろうな。チョコがコロネを台所に立たせなかった理由がいまなら痛いほどわかる」

「ね?知らない方が幸せなこともあるのよ」


「なに!二人ともなにひそひそ話してるの!!この骨みたいなやつ酷いと思わない!?私のお菓子食べて死ぬとか失礼にも程があるよ!!!!」


 それはしゃーない。だってあなたの作ったオムライスにスプーン入れたら黒板引っ掻く音したんだぜ。多分原子を組み替えるレベルの錬金術でも使ったのだろう。だがひとまずそれは置いておき、ハロウィンダンサーから落ちた素材の方も興味があるなぁ。

『調理』


食材と道具、炎があればどこでも調理して食事を作ることが可能だ。練度に依存するが、中には特別なステータス恩恵のあるバフを得ることも可能であり、上手く活用することで戦闘を有利に運ぶことが出来る。


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