表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

105/109

一〇五 レッツハロウィン


 ハロウィンイベントの開催ともあってサーバーに入れない。運営にしては珍しく一時間ほどのアプデを挟んでからとの通知があったが、一斉にみんなが入ろうとするもんだからエラー表示が出やがる。お前ら落ち着け、入れないだろうが。どけ道を開けろ。


『現在回線が込み合っております。お手数お掛け――』


「――入れろ!!アストラがやりたいんじゃァァァァァァ!!」


 入れた。いつものステラヴォイドに華やかな装飾が施され、あちこちにカボチャの頭を被ったプレイヤーが闊歩しているではないか。中にはキョンシーや吸血鬼の装いをした者もおり、軽くコスプレ会場である。


 俺もなんか仮装しようかなと、バザーを覗いてみるがパッとしない。やはり季節イベントが始まるとそれに適した衣装は高騰する傾向にある。当然ながら俺が良いなと思うものは他の人も思うわけで、欲しいものは軒並み高いし無駄遣いはあまりしたくない。


「こんにちは〜 レイさん」


「ンゴ?『セレスト』さん?」


 プレイヤーネーム『セレスト』。この人は比較的温厚で対人戦はあまり好まない優しい女性だ。どちらかと言うと鍛冶や調理、裁縫のようなクラフトスキルを中心に磨くハウジング勢であり、そしてアストラストーリーの考察班でもある。


 淡い金色のセミロングに、衣装である天使の翼が特徴的で、極めつけは天使族のシンボルである頭の上の天輪。ゼロの頃から面識はあるが、趣味嗜好はその時からあまり変わってはいないようだ。


「私のこと知ってくれてるんですね〜 感無量……です!いきなりなんですけどねぇ……私ってば考察大好きマンでして」


「……そ、そうなんですね」


「レイさん率いる〝非効率の館〟の動画を拝見させてもらってからアストラの世界観、その考察の幅というか、ヒントが沢山あったんですよ!!」


「言っても俺はあまりストーリー内容自体は噛み砕けてないんですが……」


「メインシナリオは手抜き……というより、あまりに核心に近づけていないんです。近代兵器を嫌うアストライア様と、混沌と争いによる文明の発達と競争を好むユピテル!!レイさんのバレクアンドラ戦や二枚合わせの鏡……!あれでもう私は妄想と考察が止まりませんでしたよ!!それから……!」


「落ち着け……!考察に対する熱量は十分伝わったから!!それで?他に要件はないんですか?」


 まさか考察オタクをアピールしに来ただけではないだろう。彼女は〝まったり倶楽部〟のリーダーであり、そのクランは俺とはベクトルの違う変態を抱えているのだ。鍛冶士でありながら錬金術士でもあるドワーフがな。


「失礼……私ってば熱くなっちゃいました。まとめるとアストライア様が直々に登場するのってとにかく珍しいし、隠されたアストラの世界観が垣間見える気がするんです!で……何が言いたいのかと、ずばり隠されたグランドクエストの存在が考えられます」


「……なるほど?詳しく」


 隠されたグランドクエストとは面白い考察だ。確かにメインシナリオはアストライアの側近を倒して終わりであり、エンドロールの最後に暗転した視界にてEND?と表記される。ハテナが付いていることに誰もが違和感を覚えるはずだ。


「ロード画面と言いますか、転送やログイン時に一瞬可視化する虚空のあれ、気にした事ってありますか?」


「ロードが早すぎてあんなの見えねぇよ!!え!?あそこになんか伏線あったの!?」


「伏線という程ではないんですが、一つ気になったのがこれです」


「スクショか」


 アストラでは転送等の際に一瞬ほど視界がロード画面へと飛ぶ。中でも彼女が気になったというのは、『奪掠(だつりゃく)』と呼ばれるものだ。現実世界換算で一ヶ月、この期間ずっと他人のアイテムを持ったままだとそれに該当する。


 だがこの世紀末のアストラの世界では奪う行為など当たり前の手段であり、『奪掠』問わずロード画面のものなんて豆知識にもならない常識ばかり。考察班は目の付け所が変態すぎてまるで話しが見えてこないんだが。


「『奪掠』、ここからは私の妄想です。例えば、奪掠者になってしまったら解禁出来ないものの中に、隠されたグランドクエストとか。面白いと思いませんか?」


「仮にそうだとして、奪掠者以外の人しか入れないダンジョンでレアなものが出たらどうする?炎上だ。確かにプレイヤーを煽るアストラ運営だが、流石にそんなマネするとは思えないけどなぁ……」


「あくまで妄想ですってば。それで長くなりましたが本題です……一時期トレンド入りしたレイさん絡みで、『岩封(がんぷう)麦穂(ばくすい)』の解放事件も……もしかしたら条件の一つが『奪掠』と関係してるのかも?なんて」


「……ありえる。霊峰や星浄がこぞって検証したのにまるで判明していなかったし、奪掠しないプレイヤーなんて存在しないレベルで稀だしな。だがその観点で言うと……俺は確かに奪掠行為はしていない」


「やっぱり……!!大騒ぎのエンゲージミッションも……もしかして!」


「ユニークミッションも大いににありえるな……俺の嫁も多分奪掠行為はしてな――」


 背後から大荷物を落とす音にクッソビビった。振り返った先には耳まで真っ赤にしながら顔を覆い隠すコロネとその他ひこやかメンバー。何やらみんな仮装してるし俺も混ぜて欲しい。


「お、おおお俺の嫁……うぅぅ……」


「爆ぜないかしら〜」

「アッツアツだからね〜 ウチのリーダーと嫁っちは!」


「茶化すなよ。悪いなセレストさん、俺は俺でメンバーとハロウィンを楽しむよ」


「ではでは最後に一つ!時間がある時でいいので、一度うちの『マナ』ちゃんに会いに来てくれませんか?なにやら依頼したい事があるようなのでお話だけでもと思いまして」


 プレイヤーネーム『マナ』、先ほど言った変態の鍛冶士、兼錬金術士の事だ。あいつは一生クランハウスに引きこもって剣を打ってやがる。クラフト精製による武器は果てしなく自由度が高く、星六相当ならばそれなりの腕があれば量産できる。


 が、あの変態はなんと希少な鉱石とその組み合わせ、それから加工に伴う炎の熱や角度、それらを追求しまくった結果アストラ界初の人工星七クラフトに成功した先駆者だ。現実世界で新種の生き物を見つけるよりも遥かに難しい偉業であり、その好奇心と熱意は最早変態の領域である。


「分かった。そのうち会いに行ってみる、じゃあな」


「さっきの人は?レイの知り合い?」


「昔のな。レイとは初めましてだよ。クラフトや炭鉱夫、虫取りなんかを主体にやってるまったり勢クランのリーダーだ。てかコロネの魔女仮装可愛すぎだろ」


「えへへ……レイもなんか着る?」


 コロネは魔女、チョコはキョンシー、オレンはゾンビか分からんが顔全体をグルグルに包帯を巻いていた。ハザマは視認性の悪いくり抜いたカボチャを、アンリは素で気味の悪い魔女風衣装だから違和感がない。


 色々と買い漁ったのか大量の仮装があった。何にするか、どうせならば厨二臭いものがいい。ヴァンパイアも悪くは無いが死神にしよう。黒いローブを羽織り、セットのドクロの仮面を手に取る。生憎と視界を塞がれるのは好まないのでフードに斜め付けでいいだろう。


「んじゃまあ、ハロウィンイベントをやりますか〜」


「はーい!」


 イベント時は『星核』を集めるのが主軸、だが街中では戦えない。だが外だってみな一人で出歩かないわけで、故に運営が用意したのは断れない決闘システムだ。バトルオアスター、そう唱えた相手には選択肢を強制する。


 星核を一つ譲渡するか、星核×一〇を賭けた決闘へと移行するのだ。レベルシンクは低いレベルのプレイヤーへと合わせられるため、ルーキーにも不利のないように配慮されているようだ。ただしバトルオアスターの条件は、俺達が着ているようにイベントに適した仮装を表示装備していること。


(適当に遊んだら特殊エネミーとやらも探したいなぁ〜)


「レ、レイ……!!」


「ンゴ?」


 コロネの声に振り返ったら化け物が。


「バトルオアスター、どうもユキナです。合法的に挑戦できるイベントが来るなんて神ゲーすぎますね」


「スタァァァァァァァァ!!一つくらいくれてやる!!なんなんだよ!!レベル七〇まで待てよ!!」


「いえいえ、ステータスなんて飾りなので。私があなたに見せて欲しいのは剣技という名の技術です。あとスターを渡してもあれですよ?一〇分すれば同名の方にもう一度申請出来ますからね」


「ふぁ!?ふざけんなよ……!!げ……!?」


 屋上から飛び降りた女性キャラの特徴的なケモ耳とシッポが揺れる。俺から約二メートルほど離れた位置から歩み寄るはアストラ界の第二席。氷狼の魔女レンカだ。


「バトルオアスタ――」


「――はい重心回避ブリッジ!!悪いお前ら!!俺は逃げるから適当に過ごしててくれ!!」


 この手のプレイヤー同士が接触するイベントは決まって重心の距離が申請権限に設定されているものだ。簡単に言えば至近距離でなければバトルオアスターの問答に引っかからない。故にブリッジする事で重心を僅かに後ろにずらし、そのままカサカサしながら逃亡一択である。


 もちろんそんなふざけた体勢では追いつかれるため即座に地面を押しながら飛び跳ね、身を捻って常人の走りへと移行する。ユキナやレンカといった廃人とPvPなんてカロリーの無駄使いにも程がある。別に楽しくはあるがまた今度な。


(あばよ、転送の雫――)


 転送のラグをゼロ秒に、思いがけない襲撃もあったため先にセレストとマナの用件を済ませようと思う。視界の先に広がるは空中都市アクアリング。上層という土地相場のイカれたところにクランハウスを構える変態の根城へと。


 巨大な洋館に備え付けられた小屋と工房、メインの根城である洋館ではなく小屋の扉を叩く。中から返ってくるのは気の抜けた眠そうな女性の声だ。一声言って扉をこちらから開ける。椅子の背もたれから首だけを垂らし、逆さまの顔でこちらを見つめるは『マナ』。


「俺に用があるって聞いて来たんだが」


「おー、まぁまぁ座りたまえよ……座るとこないねぇ……よっこいしょぉ」


 雑に小さな机の上をブルドーザーの如く腕で落とす。数々の鉱石と設計図、そしておびただしい計算式の記されたメモ、鉱石の中には超希少なものまで混ざっているがそんな雑でいいのか。不知火鉱石なんて火山エリアで採れる超希少鉱石なんだが。


 否、今では一部のプレイヤーは特殊テイムの加護によって未踏破エリアへの侵入が可能だ。コイツが俺をここへと呼び出した理由が見えた気がする。霊峰や天啓と言った古いクランは簡単には情報もアイテムも吐かない。だからこそ俺に目をつけたのだろうか。

『薙刀』


片手剣に継いで近接の三属性を持つ両手持ち武器。長剣にも負けないリーチを誇り、懐に入った敵には柄で叩く打撃攻撃を備えている。


Now loading…

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ