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一〇四 鬱憤の捌け口


 地面から空へと伸びる黒い針をフレーム回避し、一生空から降りてこないクソモンスこと月影竜へと、怒りのユーピテルボルトをぶち込んでやった。詠唱のため足を止める必要があり、少し怖かったが鬱憤が勝つ。


「めんどくせぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

「全然削れてる気がしないよこれ……!!」

「イライラするわねぇぇぇぇぇぇぇ!!あぁぁぁ!!」


 全員苛立ちが目立つ。それはそう。だってずっっっっっっと空にいて上向いていなきゃダメだし、首も痛くなってくるし、肩も凝ってくる。なのに突発的な攻撃に対して警戒は解いてはならず、そして俺達の隙を伺う〝悠久の暁〟、それら小さなストレスの積み重ねによってついに俺達の我慢がピークへ。


「さっきからコソコソと……!!あんたら目障りなのよ!!」

「俺達なにもしてな――」


 チョコの八つ当たりが〝悠久の暁〟の一人へと向いた。側宙しながらゲリュンヒルデの攻撃をかわし、視界に入り込んだ一人へと羽觴の曲弓のシャープネスアローが頭部を貫く。ちなみにあの弓は空中で撃つと威力が上がる。


 あの温厚なコロネでさえも悠久のやつらが武器を構えた瞬間に睨んでるし、アストラ特有の狩り場の険悪な空気に懐かしさを覚える。この殺伐とした狩り場特有の空気、クソ不味い。さっさとゲリュンヒルデ死なないかな。


「ああああああああぁぁぁ!!!!イライラするぅぅぅぅぅ!!きえええええええ!!!!」


 ヤケクソで曲針をゲリュンヒルデに投げつけてやった。麻痺れ麻痺れ麻痺れ麻痺れ。そろそろ瀕死ラインのはずだし、マジで頼む麻痺ってくれ。なんて神頼みしていると曲針をくらったゲリュンヒルデが静かに降下してきたではないか。様子を見るに麻痺ではないが。


「……すやっすやだな」

「寝てるね」

「殺す」


 チョココロネの瞳から光彩が消えている。殺意を隠す気もなくそれぞれが杖を構えながら、ラッシュに用いるデンジャースキルの名を叫んだ。


 ちなみに睡眠している敵に対して、初撃のみ耐性ががっつりと下がっているため、こちらの威力が跳ね上がる仕様がある。人間だって寝ている時に腹を殴られると腹筋に力を入れられないように、エネミーも隙だらけという事だ。


「「「「「「『不屈の怨恨』」」」」」」


 みんなでせーので上級法撃の詠唱開始。なんなら地面に降りて寝ているためゼロ距離の威力型。六名全員の威力型(ブラスト)法撃によってゲリュンヒルデの体が吹き飛ぶ。寝起きドッキリにしては過激だが、お前だけは絶対に許さない。クソモンスが。


「しゃあ!!くたばれ陰キャが!!」

「ちょっとこの子はうざかったかも……っ!!」

「こいつもそうだけど……周りの奴らがまじで目障りだったのよねぇ……!!」


「ハザマ、残念ハズレ。一応☆七の杖が出たな……!!抽選の前に、だな?」

「ええ……良かったわ〜 リーダーがその気なら心置きなく殺れるわ」


 戦ってる最中ずっと俺達の隙を伺い、牽制しようとしていた〝悠久の暁〟隊員へと全速力で突っ走る。チョコと俺に遅れ、他の四名も駆け出して着いてきた。コイツらのせいで余計な神経を使わされたんだ。ただでさえイライラしていたのだから、その謝礼に首を置いていけ。


「うわぁぁぁぁぁぁぁ!?何もしなかっただろ!?やめ……!!」

「うるさいわよ!!殺人未遂でも捕まるのが日本の法律でしょうがァ!!死ね!!」

「ひぃぃぃぃ!!あっ!!リーダー!!助け……!!うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」


「な、なにが起きて……?うわぁ!?レイ……!!」


「おかえりぃ……!!ベニヤァ!!ちょっとイライラしてるから八つ当たりさせてくれや……!」


 帰ってきたベニヤへと一目散に俺が突っ込み、片手剣同士の鍔迫り合いへ。だがこちらの余りの殺気にタジタジ、すぐに背後からコロネに突き刺されて呆気なくベニヤは逝った。


 完全に八つ当たりだがあいつらだって最初からハイエナする気だったし?あまり褒められた行為ではないがどうでも良い。俺達の精神衛生が一番大事であり、鬱憤の捌け口になってくれてありがとうとだけ言っておく。


「ふぃ〜〜すっきりしたぁ」

「……わ、悪いことしちゃったかな?」

「気にしなくていいわ。あんなゴミ共」

「みんな殺意高くてやばすぎ〜」


「うおおおおおおおおお!!秋月出なかったぁぁぁぁぁぁぁぁ!!うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」


「まぁ元気出せよハザマ。また次の機会があれば……まぁ、またみんなで行こう。秋月は出なかったが☆七が泥したのは熱いぞ」


 『リューナルミナス』


 此度泥した☆七の大杖だ。一応オープンフィールドのため俺に直泥してはいるが、パーティーで攻略したので平等に抽選一択である。その後は好みでなければ好きにトレードなりなんなりと好きにしてもらおう。


「ほい、抽選どーん」


 おなじみのミニチュアサイズのリューナルミナスがクルクルと頭上を舞う。選ばれたのはアンリでした。全体的に黒色に彩られた大杖、先端には三日月の役物があり、それに被さるように黒い霧が翼のようにデザインされていた。初出土なので恒例の披露宴と行こうか。


「おめでとさん」

「おめでとう!」

「着々と☆七装備が増えてきたわね〜」

「(アン)リッチ〜めでと〜!!」

「うおおおおおおおおお!!秋月ぅぅぅぅぅ!!」


「嬉しい……」


「せっかくだから固有スキルを魅せてくれよ」


「……うん」


 アストラの法撃属性は全部で五つある。炎、氷、雷、そして光と闇だ。攻撃手段としては基本的に前の三つしか存在せず、光と闇はバフやデバフ等の効力を持つものがほとんどである。無属性も含むならば六つになるが、アンリが放ったものは間違いなく光属性の攻撃(・・)法術だろう。


「『蒼刃月光波(そうじんげっこうは)』――」


 光の刃が弧月形に十六本飛来、狙った場所で複数回ほど踊るように切り裂く。その軌道は蒼く残像が残り、威力は不明だが固定砲台気味なアンリとは相性の良い固有スキルだと思う。だが☆七にしては演出が地味だ――


 ――十六枚の刃が一定時間後に集結したかと思えば、重なり合い蒼い月のエフェクトが浮かび上がって一閃。大気が震えるほどの衝撃がこちらにまで伝わってくる。前言撤回、バカほど威力が高そうなんですがそれは。


「つ、強そうだなおい……」


「エ、エーテル……半分…………」


「うせやろ?アンデットって魔力多いよね?それを半分?ナンデ?アホ威力なの?気になるなぁ……?」


「なぜ俺を見るのだ!!もうサンドバックはごめんだぞ!!」


「冗談だよ。そのへんの雑魚にでもまた今度ぶつけようぜ」


 クソモンスだのなんだの文句を言いまくってしまったが、☆七ありがとうクソモンス。これでひとまず全員一本は星天級ウェポンを手にしたことになる。『祭殿への羅針盤』、その先にある『失われた祭殿』の攻略には最低ラインまであとレベルを上げるだけだ。レベルシンク六〇、そこまでは絶対に上げておきたい。


「この後は自由行動にすっか?俺はストーリー進めるかなぁ……」

「じゃあみんなでメイさんのユニクエ終わらせない?三つ目のやつ」

「ありよりのあり。お前らももどう?」


 特に異論はなさそうなので自宅に送還。からユーフィーとカブちゃんに挨拶といつものルーティーンを済ませた。美しい角度でお辞儀するメイさんへとユニクエの受付を申請する。


 『家主の留守はメイドの本領、お引き取りくださいお客様』、クエスト内容がここまで読み取れないものは初めてかもしれない。クエストクリア条件は来訪者の撃退とされているが、そもそも何が来るのかすら書いてない。


「メイさん……これって何が来るの?」


「旦那様、私もそこまでは存じておりません。しかし、旦那様や奥様、そのご友人様ならば必ずやクリアできることでしょう。突入なさいますか?」


「……おk、行くか――」


 特殊フィールドへと移行、前回と同じくして非効率の館そのものだ。領地である庭、そしてその少し外側までは可視化されており、加えて当たり前のように俺達の衣装がメイド服にさせられてる。頼むから男キャラにスカートを履かせないでくれ。


 元々装備していた武器や防具は軒並み外されているようであり、代わりに三スロットにはそれぞれホウキ、モップ、バケツが装備されていた。武器じゃないだろこんなの。


『クエストを開始します。敗北条件、蛮族の侵入です』


「メイドごっこかぁ?殺せぇ!!金品を奪いまくれ!!」

「ひゃっはー!!」

「親分〜!良い女は味見しちゃってもいいんすか〜!?」

「馬鹿野郎!!俺が先だ!!」


「こりゃまたテンプレな……」


 モップを片手槍に見立ててクルクルと回して構え、蛮族共へと静かに歩み寄ってやった。殺傷能力の高い刃がついていないだけで、言い換えれば棍棒なため打撃力はある。いや、それどころかこのモップ槍扱いじゃねえか。


「そんな勇ましいメイド見たことないわよ……あら?ホウキは薙刀みたい」

「バケツは盾だよ!!」


「まじか。俺は縛りの都合上使えないじゃん。まぁいいや――」


 ゼロ距離に近づいた蛮族へと放つは『ストームランス』。俺は満遍なく色んな武器を暇な時に使い回しているのでスキルが豊富だ。ちなストームランスとは正中線上に三回ほど突きを叩き込み、その後に回転しながら柄で横殴りを行う技だ。


 モップ糸の方を柄に見立てていたため、蛮族の顔へとムチのような音と共に水が弾け飛ぶ。他のヤツが横から割り込んで来たが見落とす俺では無い。左のホウキの柄を喉元へと押し付け、バランスを崩した所に槍のスキルウェポン『バスターテイル』を叩き込んだ。


「モップどーん!!」


「ぐぁぁぁ!!な、なんだこいつら!!ただのメイドじゃないのかよ!!」


 バスターテイルはこれまた逆手持ちの流れで柄を叩きつける初期技だ。懐に入られた時などに使える貴重なウェポンスキルでもある。そしてなんというか、三つ目が一番簡単なんだが。


 というより俺達がそもそも脳筋すぎたのだ。コロネでさえも「一番簡単じゃない?ちょっとがっかりかも……」と言わせてしまうほどの拍子抜け。否、メイドにとって必要な能力の三つ目は、既に俺達は履修済であり、むしろ蛮族はこちらだったのかもしれない。

『NPCメイド』


有料アイテムの中にはNPCメイドが存在する。これはクランハウスや敷地内の清掃、加えて各所耐久値の減少を緩やかにしてくれる効果を持つ。


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