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一〇三 ゲリュンヒルデ


 皆既月食までダメ押しのレベリングをしている時に気が付いたのだが、倉庫で整理をしていたらアストライアから貰った杖が出てきた。そう言えば貰いっぱなしのまま、性能もコロネとの共有も何一つ出来ていなかった事で真顔に。


「……コロネ、実はエンゲージミッションの時に杖を貰ったんだが」


「え?いつ?」


「かくれんぼの時だ。これなんだが……」


 あえて装備する事で可視化させると、全体的に金色の装飾に先端には蒼い宝石が彩られていた。宝石からは片翼の造形に、先端からは揺らめく銀河のベールが漂う。☆七の片手杖、『月詠の星杖(せいじょう)』。


 固有ウェポンスキルはない代わり、パッシブスキルに面白い性能が付与されていた。本来ならば口で発声が必要のある変式法撃が各種その必要がなくなる。詠唱は必要だが、言霊フェイクに変式法撃を組み込めるという代物。


「法撃メインだろうし、コロネが使うか?」


「う〜ん……私はもう両手杖に慣れちゃったからどうしようかな……?レイなら上手く使えるんじゃない?」


「俺だけ星七二本持ちは気が引けるが……アンリに渡すにも流石にエンゲージミッション報酬だしなんか嫌だな……」


「使っちゃいなよ!アンリだって別に怒らないと思うし」


「夫婦の産物……取らない…………よ」


「うぉぉぉぉぉぉぉ!?びっくりしたぁ!!??いたのかよアンリ!!」


 部屋の片隅に陰気なオーラを放ちながら亡霊のようにアンリがいた。今日はゲリュンヒルデ決戦の約束日だが、皆既月食までは時間があるし待ち合わせ時刻よりも遥かに早い。いつからいたんだろうコイツ。


「二人目は……いつ?」


「ま、まままままままままだ一人目も出来てないわ!!」

「そ、そそそそそそそうだよ!?て、ていうかなんで知って……!!」


「え……二人目の…………嫁って……意味…………一人目…………?ん?」


 主語が足りてないやつほんとに嫌い。俺もコロネも天然のトラップにしてやられた訳だ。なんやかんや意思疎通と言うか、なんとなくアンリの伝えたい事は分かってきたつもりでも、こうしてコロネが関わるとどうしても前のめりに反応してしまう。早くクセを治したい。


 ちなみに全員サブ武器も含め、最低でも☆六までは揃えた。チョコとコロネだけは何故か☆五の『水霊の先剣』と『胞子の木壁』引き続き使用している。なんやかんや解放武器をバカにしてたくせに気に入ってる天邪鬼というわけだ。コロネの方は謎である。


「みんな早いわね〜 んん〜!」

「チョコも来たか。お、オレンと……ハザマも来たな」

「おいっす〜!!今日も今日とてアストラーーイフ!!」

「待ちに待った日だ!!!!あ、皆さん……本日はご協力ありがとうございます。心より感謝しております……!!」


「ハザマ……頼むからいつものキャラを貫いてくれ…………温度差で風邪引くし、リアクションに無駄にカロリー使うから……」


 素が出るくらい秋月が欲しいのだろう。待ちきれない様子なのでいざ『月明かりの平原』へ。事前にポータルは開けているため長ったらしい移動もなく、五秒待ちから一転、広大な芝生の広がる夜の平原へと飛んだ。


 皆既月食だと言うのにほとんど人がいない。やはり都市伝説と言われるだけあって確証のない検証に誰もが時間を割く余裕がない事が伺える。が、どうにも嫌な連中が先客にいることに対し、俺はそれが顔に出てしまっていたようだ。


「どしたの?レイ?」


「……〝悠久の暁〟、言葉を選ばないなら悪名高いカスクラン。人の獲物を横取りするハイエナ野郎だ」


「最悪なタイミングで出くわしたわね……どうするのよ?次の皆既月食を待ってたらいつになるか分からないわよ」


「ひとまず完全な皆既月食になるとは分からないし、様子を見て待…………こっち来たァァァァァ!?」


 だがまだ敵意は感じない。こいつらはゼロの頃からいつもこうだ。狩り場に現れてはレアエネミーが弱るのを待ち、消耗したところへ一気に敵ごと刈り取りに来る。エネミーもプレイヤーも、こいつらにとっては餌なのだ。


 プレイヤーネーム『ベニヤ』、短い黒髪と糸目が特徴的なキャラクリをしている。その糸目といやらしく笑う顔が妙にマッチしてて腹立つんだよなぁ。許されるなら助走をつけてぶん殴りたい。


「やぁやぁやぁやぁ!最近なにかとお騒がせな〝非効率の館〟じゃあありませんか〜」


「何の用だ。お前らの悪い噂はアストラじゃあ常識だぞ」


「悪い噂だなんてとんでもない……おたくらもゲリュンヒルデ狙いで?」


「あぁ、一応聞いておくが……共闘する気はあるのか」


「くくく……っ!共闘!ええ!それはもちろん!!ぜひとも共闘しましょう〜!!何せ…………〝非効率の館〟は六人しかいませんしねぇ……?」


 遠巻きにいる〝悠久の暁〟の隊員達も武器を持ちながらニヤニヤとしていた。まだ襲っては来ないあたり、よほど自信がないのだと伺える。できれば正当防衛を唱えたいから向こうから殴ってくれないかな。


「お前らは数がいても個々が弱いじゃん。レベルも七〇まで解禁してるのに六〇前半ばかり、餌を貰う事ばかりに慣れて狩りの仕方も忘れたのか?養豚場の方が適職だぞ……お前ら」


「……随分と口が回るなぁ?お前…………立場が分かっているんですか?」


「効いちゃった?悪い悪い!沸点が低いと生きるの辛そうだな?子豚ちゃん――」


 挑発に乗ったベニヤがサブマシンガンを乱射し、距離を詰めながら右の片手剣を横薙ぎに振るう。昔からコイツは変わらない。弱った相手しか倒したことがないくせに、漁夫の利を狙いすぎて自分が強いと勘違いしてやがる。


 予備動作もキレた顔もバレバレ、事前にコロネへと手首を二回ほど捻って回復法術を頼んでおいた。同時にイレイザーを展開して弾丸を凌ぎつつ、横薙ぎに合わせてこちらも深く溜め込んで誘い受ける。


「――死に晒せ!!ルーキーが!!!!」


「お前ら!!備えろ!!大丈夫だ!!弱いやつしかいない!!」


「は?」


 深い溜めから一閃はフェイクだ。そのまま一回転して遠心力を上乗せした強攻撃を奴の剣撃へと重ねる。パリングの後はかち上げ効果のあるアサルトストライクを選択。コロネが自力で見つけた空中コンボ入門編である。


「アサルトストライク〜 からのシールドバァァァァァァァァァァァッッシュ!!」


「なんで弾かれ……っ!」


「……ブレイズバァァァァァァァストォォォォォォォォォォォォォ!!!!」


「イレイ――」


 残念ハズレ。言霊フェイク、お前がイレイザー貼るよりも早く、俺の中級雷光法撃ライトニングボルトが奴の体を貫いた。落ちてきたらまたシールドバッシュ、人間お手玉状態である。


「チョコ!!そっちの指揮は任せるぞ!!」


「了解」


 四回ほどシールドバッシュによる人間お手玉で遊び、着地させてやったベニヤから強い憎悪を感じ取っていた。僅かに開いた糸目の奥からは鋭い眼光が。


「よくも遊んでくれたなぁ……っ!」


「別に遊んだつもりはない。ゲリュンヒルデが出現してから殺さないと、お前また来るだろ」


「いつでも勝てるような口振り……っ!抜かせ!!」


 突如俺達の動きが止まる。一瞬だけ月明かりが雲に隠れたかと思うと、皆既月食と共に平原の芝生から蛍のように無数の光が宙へと漂う。空の一点へと黒い大気が集結し、輪郭の曖昧な竜を模した。ついにご登場、念願の月影竜ゲリュンヒルデ様だ――


「お前ら走れ!!初手のダイブは確殺だ!!」


 大勢が集まっていたチョコ達の方へとゲリュンヒルデが滑空の姿勢を見せる。輪郭はぐちゃぐちゃに、黒い霧が流れるように大衆を食らう。俺とマカロンがシャドーダイブと呼ぶあれは、ガード不可の初見殺し技だ。だが伝えたようにひこやかメンバーは無事躱せたようだ。


 だがそんな程度で終わるわけが無い。ゲリュンヒルデは自ら体を霧散させ、また違う位置へと点々と移動するのだ。そう、俺がこいつをクソモンスと呼ぶ由縁はその行動パターンにある。シンプルに動きすぎなんだよじっとしてろ。点Pって呼ぶぞカスドラゴンが。


「余所見です……か!!」


「お前も見てるよ、嫉妬すんな」


「パリィが……っ!上手すぎ――」


 俺がベニヤを処してもいいのだが、ぶっちゃけめんどくさいのでゲリュンヒルデの攻撃を利用させてもらう。奴の持つ範囲攻撃の一つ、ランダムに地面へと黒い霧が発生し、そこから針のように影がプレイヤーを貫く。丁度近くに霧が発生したのでベニヤを蹴り飛ばしてやった。


「ぐあぁぁぁ……っ!ひっ!?」


「『カースサイン』」


 シルヴァーナの固有スキルの初撃、それに対してパリィを狙ったようだ。だが無慈悲にも奴の刀身が砕け散る。そのまま脳天から一閃、固有スキルをそこでキャンセルして飛び膝蹴りを顔面へ。流れるようにスラストを首へと滑り込ませる。


「うぐぉ……!!」


「サブマシを咄嗟に首元に挟んだか……!!けど後ろ(そっち)は地獄だぞ」


「なんで……っ!なんで僕と戦いながらゲリュンヒルデとも位置管理が完璧な――」


 プレイヤーへとランダムに行ってくる影の斬撃、それがベニヤを切り裂き力なく倒れた。位置管理が完璧だのなんだの抜かしていたが、お前もゲリュンヒルデも視野に収まる位置で戦うのは普通だ。


 こちらの処理は終わったためチョコ達の方へと合流する。ひこやかメンバーは誰も落ちておらず安堵の息を着いた。対して〝悠久の暁〟の奴らは、リーダーを失い戦意喪失といったところだろうか。


「全員〝悠久の暁〟の残党に警戒しつつ、本格的にゲリュンヒルデをやるぞ。飛んでるせいでヘイトもクソもないからな……狙われた人は全力で逃げるように!!行くぞ!!」


 ワープのように移動しまくるゲリュンヒルデを目で追いながら、法撃をメインに攻撃を繰り返す。発生から着弾までにラグの少ない雷光法撃を主体に、走り回りながら月影竜の後を追う。


「死神の悪戯……!コロネ!!そっち行った!!」


「きゃあ!!危な……!!」


 滑空から足っぽいところで引っ掻く攻撃だ。あの子いまの回避はスキル使ってなかったな。普通に見切りだけで避けるの肝が据わっているだろ。それにしても相変わらずゲリュンヒルデはパーティー連携もクソもない総力戦、個々のプレイヤースキルが試されるが何人が最後まで立っているだろうか。

『適度な休息』


アストラル・モーメントでは肉体的な疲労は発生しませんが、長時間のプレイは頭痛や現実での感覚障害に繋がる恐れがあります。適度な休息を取ってください。


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