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【本編完結】お前よりも運命だ【番外編不定期更新中】  作者: アカツキユイ
番外編

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76/76

16 extra track サブレは軽やかにさえずる 3

ブックマーク・評価・ご感想ありがとうございます!

 その日からイオルムは一気に魔道具師モードに切り替わった。生活はほとんど変わらないが、食後のティータイムが短くなった。

 イオルムは、仕入れ航海中で不在のディオン叔父様の執務室を借りて、作業をしている。


「殿下ってあんなに真面目にお仕事できるのね……」

 イオルムがサロンを出て行った後、シャルロット叔母様がしみじみと口にした。

「ふふ、意外でしたか?叔母様」

「少しね」


「一般の方が使うものは安全性が大変重要ですので、さすがのイオルムも気を張るのですよ。この期間はわたくしも考え事が捗ります」

「ふふ、それは良かった。いずれお茶会も開くのでしょう?その時に美味しいお菓子がたくさん並ぶように、殿下には頑張っていただかないとね」

「ええ、そうですわね」


 ***


 工房を訪問した一週間後、イオルムとわたくしは商会長のお邸へ向かった。

「殿下、リリス。今日はありがとう」

「こちらこそ色々と急がせてしまってごめんね。オーブンの方向性が定まったから、進めるなら早いほうが良いかなと思って」

「助かります。そうだ、工房長から、オーブンを直してもらったおかげでロスが格段に減り、出荷量が確保できるようになったと、イオルム殿下にくれぐれもよろしく伝えて欲しいという連絡がありました」

「そっかそっかー。良かった。ただあくまで応急修理だからね。やっぱりちゃんと修理はしないと」

「はい。それで、工房移転の計画なのですが」



 候補地は公都の郊外。ユジヌ公国の公都は広く、商会長のお話によると、端の方では酪農や畜産と営むお家が多いらしい。

「うちと直接契約している農家があるから、その近くにしようと思っているんだ。出資してる生乳の加工工場は既にあって、そこで作ったものも工場直送品として出す。

それなりに大きなプロジェクトのひとつなんだよ」


「お菓子の材料も鮮度が大事だもんね。楽しみだなぁ。

そうそう、工房長からはプディングを焼きたいって話を聞いてるから、ちゃんと湯煎焼きもできるやつにする。チーズケーキも湯煎でできるね。夢が膨らむなぁ」



「イオルムったら、随分楽しみにしているのね」

 目をキラキラさせているイオルムにそう語りかけると、子どものように大きくうなずいてみせた。


「うん、だって行ったら色々食べたりするでしょ?さすがに塔のみんなにも手伝いを頼むから、みんなのお仕事でこんなに美味しいものができるよ、って知ってもらわないといけないし!

 ああそうだ、メルシエでまた前の発表会みたいなのやるの?」

「はい、予定はしています」

「それには僕も出たいなあ。規模も大きいし、ゲストも女性に限らないよね」

「はい」


「何かあっても僕とリリスがいれば対応できる。そういう意味でも参加させて欲しいな」

「こちらからお願いしたいくらいです。よろしくお願いします」

「うふふ、メニューのリクエストも考えとこうっと」


 イオルムがウキウキしている。乗っている時のイオルムは失速するまでそのまま走らせるのが最善だ。睡眠も現時点では確保できているし、問題ないだろう。



「大々的に魔道具を入れるの?」

「んー、どの作業を魔道具に切り替えるかはおじさんと相談。体力の衰えとかがあって混ぜるのは大変って話だったから、その辺は切り替えたいよね。あとは焼き上がったお菓子を冷ますクーラーはいいやつを入れたい!

 ただまあ、どちらかというと、何を入れるかも大事だけどキモは工房内の動線だねえ……搬送には工業用の転移箱使うの?」


 イオルムが商会長にたずねた。

「そこはまだ決まってないですね」


「そっか。敷物タイプだと踏むと汚れたりしてこまめに洗わないといけないからおすすめしないね。直接床に描くのがおすすめだけど……床材次第かな。

 床に予算をかけられるなら、直接描くほうが長い目で見て安上がりかもしれない。魔石をはめ込んでグリッドの転移陣を作ってもいいし」


 イオルムの言葉を聞いて、商会長の表情がわずかに険しくなった。

「グリッドは……かなり費用が高くなるのでは」


「うん、それは否定しない。

 ただびっしり埋めなくてもいいんだ。点と点を繋いで線にできれば起動する。あと耐用性はめちゃくちゃ高い。いざという時……そうだね、紛争なんかが起きた時には強い。やろうと思えば同時に広域の結界魔法を常時展開させられるから、シェルター代わりにもなるかな。

 商会長なら、この意味がわかると思うけど」


 それは、おそらく最強の転移陣だろう。

 フェリティカ帝国の転移の間がそのような造りだと聞いたことがある。


「……耐用年数は」

「三百年はもつ。その後も石の入れ替えをしたりメンテをきちんとすれば半永久的に使えると思ってもらっていい。僕が生きている間は僕が見るし、魔道具師塔で管理は引き継ぐよ」


 ……三百年、ね。あなた余裕で生きそうじゃない、イオルム。


「かなり大きな投資になるのは間違いない。さすがに僕もタダでやってあげるとは言えないけど、個人的に使わせてもらえるのであれば四分の一は出そう。魔石の調達も安く請け負うよ。

 あとは、色んなところと緊急時の転移契約を結んで契約料を取る……とかかな。そういう算段は得意でしょ?」


 商会長がううむ、とうなった。

「……なるほど。それなら数十年で回収も可能、か」

「メルシエ商会なら楽勝でしょう?ビッグビジネスだよ」



 ビッグビジネス。

 あなたが言うと胡散臭さが五割増なのよ、イオルム……。

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