表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【本編完結】お前よりも運命だ【番外編不定期更新中】  作者: アカツキユイ
番外編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

71/75

11 extra track 行ってきます!

アクセスありがとうございます!

時系列は本編最終話とほぼ同じになります。ディアマンタの出国前のお話になります。

「嫌だあああ! ディア行かないでえええ」

 わたしの服の裾をつかんで友人がえぐえぐと泣いている。

「ちょっと泣かないでよ。その気になれば転移で戻って来られるんだから。何年も会えないわけじゃないんだし」

「でもフェリティカ帝国は入国審査が厳しいもの!」

「だからわたしが帰ってくるってば! もう!」


 フェリティカに渡るのはいよいよ来週。

 学園の友人たちが壮行会を開いてくれるというので、うちの系列であるティズリーの貸切をお願いした。せっかくだから売上も上げたいものね!

 同級生のほか、メルシエ商会のお客様としてお付き合いがある同年代の方にも声をかけさせてもらった。


 フェリティカ行きについては、商会の業務拡大の一環だということにしている。

 さすがに精霊と契約したから魔法を学びに、とは言えない。

 学園の友人たちは驚いて寂しがってくれたけれど、出入国の制限がないから自由に帰ってくることはできるし、今生の別れでもないからかなり気持ちは楽。


「せっかくたくさんごちそうを用意したんだからたくさん食べてね!特製のケーキもあるわよ!」


 今日はサンドイッチなども出している。学生ばかりだから、質よりも量。もちろん、わたしがおいしいと思うものしか出してないけど。


「クレール! キアラも。来てくれてありがとう」

 子どもの頃からのお得意様であるクレールと、わたしの前の『運命さん』だったご令嬢の妹、キアラも来てくれた。


「こちらこそ、呼んでくれてありがとうディアマンタ」

「私まで呼んでもらって良かったの?」

「もちろんよ。お姉さんは片付いたか聞きたかったし」

「あはは! 片付いたってその言い方! 片付いたわよ!」

「まあ、良かったじゃない! 今日はメルシエ自慢の料理ばかりだから、お祝いだと思って食べていってね!」



「そうだわ、アントン様へのプレゼント、この前渡したの。とても喜んでくれたわ!本当にありがとう」

 クレールがわたしの手を握った。

「喜んでくれたなら良かった! 素敵なお守りよね」

「リリス様にもくれぐれもお礼を伝えてね。一緒に作ってくださるなんて夢にも思わなくて!」

 ほんのり頬が赤くなって、瞳も潤んでいる。本当に嬉しかったのね。


「リリス様……ああ、今留学なさっているイオルム=ウルフェルグ殿下のお妃様?」

 キアラが尋ねてくる。

「そう。ウルフェルグ王国は狩猟が盛んだそうなの」


 クレールに以前頼まれていた、婚約者であるアントン=カステリュ様へのプレゼントは、手作りのお守りになった。

 リリス様とイオルム殿下が魔獣狩りをなさるという話を聞いて相談してみたら、お守りを作って渡すのはどうか、と提案してくださったのだ。


 材料は自国のものが良いだろう、ということで、リリス様がわざわざイオルム殿下と一緒に揃えてくださった。

『その土地のものを使うのが、一番だからね』

 と、獣の角や羽根、魔石をずらりと並べて、使う素材を選ぶところからさせてもらったのだ。お二人が森に入って狩ってきたという話を聞いた時にはさすがにひっくり返りそうになった。


 リリス様とクレールが一生懸命お守りを作るそばで、わたしはイオルム殿下とフェリティカの攻略? について静かに打ち合わせ。

 まずはユークリッド第三皇子殿下に謁見し、文句のひとつやふたつ、いやみっつでも良い、とにかく文句を言いたいだけ言ってくれば良いと言われた。


 本来フェリティカ帝国は入国審査がかなり厳しく、一度出るとなかなか戻れない国。

 出入国が自由になっているのは、イオルム殿下が身元の保証をしてくださっていることと……あとは、ユークリッド殿下の雷でわたしが瀕死の重体になったことに対する、謝罪の意味があるらしい。


『不敬に問われませんか……?』

 思わず尋ねると、ないない、とイオルム殿下は手を振った。

『絶対にないから安心して。なんていうかな……ユークはディオン殿に似てるよ。ディオン殿みたいな品と色気があれば良いんだけど、ユークは残念ながら頭の中身がおこちゃまなんだ』


『おこちゃま』

『そう。馬鹿じゃない、頭は良いよ。いるでしょ? 行動原理が子どものままの人って』

『あー、わかりました。イオルム殿下と同じですね』

『ははは!言うじゃないディアマンタちゃん!その通りだけど。

あ、あとひとつだけ注意がある。ユークとルルは好き合ってるけど、かなり事情が込み入っていて関係を進展させられない。ここについては触れないこと、見守りに徹して』

『……ええ、なんですかそれ……』


『複雑なんだよねえ、これが。うっかり何か言っても怒られたりすることはないんだけど、見守ってあげて』

『よくわからないけどわかりました、そういうものだと思って飲み込みます』

 そう返事をすると、イオルム殿下が苦しそうな、そして切なそうな表情で微笑んだ。

『……ありがとう。ただ見てるとじれったくなってイライラすることもあると思うから、その愚痴は僕や魔道具師塔で吐き出してね』



 ***


「アントン様も、ディアマンタにくれぐれもよろしくと言っていらしたわ」

 クレールの言葉で、はっと現実に引き戻された。

「ありがとうクレール。確かに伝言は受け取ったわ。カステリュ様にもどうぞよろしくと伝えてね」

「わかったわ」


 そこへふわりと、チーズの良い香りが漂ってきた。

「あ、ピザが焼きたて!これも美味しいの。ふたりとも、是非食べていってね」

「そうするわ。ディアマンタもしっかり食べてね」

「ありがとう! 楽しんでね!」


 クレールとキアラが焼き立てピザに引き寄せられていく。

「……みんな楽しんでくれてるかな」

 ぐるりとホールを見回すと、みんなそれぞれ食べたり飲んだりしながら、おしゃべりに花を咲かせていた。

 学園の友達とお得意様が楽しそうに盛り上がっている姿も見える。

「ふふ、良かった」


 たくさんの友人に恵まれた。

 お得意様もたくさんついてくださった。


 わたしがおすすめするものだから、と即決してくれた時は本当に嬉しかった。

 お叱りを受けることももちろんたくさんあった。

 ――全てがあって、今のわたしがある。

 そして今のわたしを作ってくれた中には、今ここに集まってくれた人たちがいる。




 そして最後はデザートの時間、なんだけど……。

「イオルム殿下!?」

 デザートワゴンを押してきたのは、なんとイオルム殿下だった。しっかりティズリーのパティシエの制服を着ている。

「へへへー、来ちゃったぁ」


 来ちゃった、ってそんな軽いノリで来られても!

 お店にいたみんなが目を丸くしている。


「はじめまして、僕はウルフェルグ王国第二王子、イオルム=ウルフェルグ。ディアマンタちゃんがフェリティカ帝国に行くにあたっての後見人をしているよ。

 ユジヌからフェリティカに留学なんて、なかなかないことだから不安だと思うけど、今回最高の条件を引き出したし、僕の仲間や知り合いがフェリティカにはたくさんいるから安心してね。

 今日のパーティーは僕たちにごちそうさせて」


「ええっ!?」

「すごーい」

「イオルム殿下、かっこいい……」


「ふふふ、僕には大切な半身、妃がいるから好きになっちゃダメだよお」

 と言いながらぱちりとウインクをし、きゃぁと店内から悲鳴が上がった。

 なんなんだろうこの人……ダメって言いながら煽りに行くスタイル? 芸風?


 デザートワゴンのセッティングが終わると、殿下はパチンと指を鳴らして服を替えた。

 と同時に、殿下のすぐ隣がキラキラと光り、リリス様が現れた。

「それじゃあみんなごゆっくり。僕はこれからリリスとデートするから」


 みんなが口をぽかんと開けているホール内を見渡し、おっとりとリリス様が微笑んだ。

「はじめましてみなさま。イオルム=ウルフェルグが妻、リリスでございます。

 お楽しみのところを突然驚かせてしまい申し訳ございません。みなさまの楽しい雰囲気を感じながらティズリーのケーキをいただきたいと、わたくしがわがままを申しましたの。端で大人しくしておりますので、どうぞお楽しみになってくださいませ」


 え、端?

 パーティーで使っていない座席に目をやると、いくつかのケーキとティーポットが置かれた席があった。

 全然気付かなかったわ……。


 そのままイオルム殿下がリリス様の手を取って、仲睦まじげにお席へ戻っていった。


「すごいわねえ」

「魔法ってあんなこともできるのね」

「もうちょっと頑張って練習してみようかしら」


 二人が席に戻った後も、ホールはざわめきが収まらない。

 強烈な印象を残すお二人よね。本当に。あれは王族ならではなのかしら。それだけではない気もするけれど。


 ちらりとお二人がいる席を見ると、殿下が雛鳥のように口を開けてリリス様にケーキをおねだり。

 それをリリス様が満面の笑みでかわしているところだった。殿下がむくれている。


 精霊たちがふわふわと飛んできた。

 イオルム殿下について来たのだろう。


 ディディー

 ケーキおいしいー

 たのしいねー


「ふふ、良かった。ところでイオルム殿下はどうしてむくれてるの?」


 ひとまえだからつつしみましょうねーって

 リリスがいったからー


 お二人に改めて目を向けると、イオルム殿下は先ほどと打って変わって満面の笑み。

「あれ、笑ってる」


 あれはねー

 ふたりきりのときにしましょうねーって

 イオルムすてきだったーって

 リリスがイオルムをほめたからー


 イオルム殿下がかなり自由に振る舞っているけれど、しっかりリリス様が手綱を握っていらっしゃるのよね。

 いつでも仲睦まじくて本当に何よりだわ。あれこそ運命のお二人よね!


「さあ、ケーキもたくさんあるから食べて行ってね!」


 ***


 ゲストの見送りはご家族へのお土産にもなるタルトレットを渡しながら。

 みんな幸せそうな顔をしてる。満足してもらえたなら、本当に良かった。



「ディアマンタ、顔つきが変わったわね」

 今回のパーティーを提案、幹事も務めてくれた同級生の言葉に首をかしげる。

「顔つきが?」

「ええ。もともとしっかりしてたけど、なんだかもっと……そうね、頼もしくなったわ」

 頼もしく、か。

「ふふ、そうかしら。フェリティカでもたくさん売りまくって来るわよ!」




 不安が全くないかと言えば嘘になる。

 でも、みんながいてくれればきっと乗り越えられるし、楽しむこともできるだろう。

「頑張ってね、ディアマンタ。行ってらっしゃい」


「ありがとうみんな、行ってきます!」

ディアマンタの物語はおまうめとは別の新作にて続いていく形になります。フェリティカもクセ強キャラクターばかりなので、ものすごいことになりそうです……。

引き続きリリスの番外編はこちらで公開していきますので楽しみにお待ちください!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ