07 bonus track 融け合って確かめる
僕の身体は冷たい。
半分人の身体ではないから、人間のそれより、体温が低いのだ。
だから、寝ている時には僕からリリスに抱きつくことはあまりしない。冷たさに驚いて起こしてしまうことがないように。
どうしても抱きつきたくなったら、身体に働きかけて少し体温を上げてからするようにしている。
それでも、僕も寝ぼけている時にはリリスを起こしてしまうことがある。まさに今。
「ひぁっ」
リリスの間の抜けた声で目が覚める。腕の中にはリリスがいて、そして、とても温かい。
「あっ……ごめん、起こしちゃった。冷たかったね。すぐあっためる」
「……冷たいイオに抱きしめられて飛び起きるの、久しぶりね」
リリスが僕の頬に触れた。
「驚きはするけれど、嫌いではないのよ?」
「え、そうなの?」
「それだけ無防備ってことだもの。いつもわたくしのためにありがとう、イオルム」
「リリスのためっていうか……僕がリリスと同じベッドで寝たいから、こうするのは当たり前って思ってる」
「ふふ、ひんやりとしたイオの身体も、好きよ」
胸にリリスが頬を寄せる。
「この身体が、火照っていく様を感じるのも、好き」
「んもう、リリスってばそんなこと言っちゃうの?……これから、火照らせても、良い?」
「良いけれど……もう少しこのまま、冷たさを感じさせて。あなたを温められるのは、わたくしだけの特権ですもの」
その額に、唇を落とす。
「リリス、可愛い」
「イオルムだって、可愛いヘビさんよ?」
リリスの腕が背に回る。温かい手のひらが僕の背を撫で、指が背すじをなぞった。
「……っ」
僕の身体のすべてを知る、たったひとりの最愛。
「明日は、二人で叱られましょうか」
「仕方ないね。僕らには今が一番大切だから」
今日も君は生きている。
今日も、僕は生きている。
笑い合う毎日が当たり前でないことを、僕たちは嫌というほど知っている。
「愛してるわ、イオルム」
「僕も。愛してるよ、リリス」
毒を飲んだり、身体をつくり変えたりしながらも、
しぶとく生きてる僕たちだけど。
日の終わりには、必ず融け合って確かめる。
今日も、君が生きていることを。
今日も、僕たちが生きていることを。
二人が「毒を飲んだり、身体をつくり変えたり」してきた経緯は、番外編02-03で軽く触れているほか、シリーズ作『君のために僕は人を捨てた』にあります。
きみすては婚約者時代の物語なので、
結婚後の二人が描けるのは、おまうめだからこそかな、と思います。
――『夜』は、とても神聖なものなのです。(本編より)




