01 extra track 僕にはそれしかできない
お待たせしました!関連作の「君のために僕は人を捨てた」も本編完結しましたので、少しずつ番外編の投稿を始めます。不定期ですがお付き合いいただけると嬉しいです。
こちらは第二部 第三章のこの話の夜のお話になります
・05 とんびにずるいでさらわれる
・06 僕は君の獲物
このお話の背景については、「君のために僕は人を捨てた(きみすて)」を読んでいただけるとより分かります。特にリリス視点の最終章では結婚前のリリスが時に物理でぶっ飛ばしてます……。
ふと真夜中に目が覚めた。
リリスは深く眠っている。
「楽しかったなぁ、今日も」
目の前でドゥメルが波を操れるようになるのを目にして、心が躍った。
精霊魔法を覚えていった頃の自分を、そして魔道具製作を理解して次から次へとアイデアを形にしていった頃の自分を思い出す。
ふと、窓際でとぐろを巻き休んでいたミドガルと目が合う。
「……おいで、ミド」
呼ぶと、ミドガルがしゅるしゅると僕の枕元までやってきた。
頭を撫でると、人差し指をかぷりと甘咬みされる。
「ふふ、怒ってるよね。わかってるよ、あれは僕の罪滅ぼしだ」
意思を持つ魔道具。ドゥメルとは性質が違うが、ミドガルもそういう意味ではあの子に近い。
「君もあんな風に、少しずついろんなことができるようになったんだろう?」
そしてそのそばには、いつもリリスがいた。
本来ならば僕がそばで見守り、鍛えていかなければならなかったのに。
ミドガルは僕を咬んだまま、じっとこちらを見つめている。
「ごめんねミドガル。あの時リリスが言った通り、僕は創りっぱなしでリリスに丸投げした」
武器として剣の形を取るようになったのも。
自分で考え、リリスが望む形を取れるようになったのも。
リリスが、そう意図したから。
――イオルムの心も身体も、護れるようになりたい。
そう、彼女が願ったからだ。
「僕が使い物にならなかった間、リリスを支えてくれて本当にありがとう」
ミドガル、あの時の君は本当に強かった。
『へなちょこイオルムをぶちのめす』というリリスの願いに、これ以上ないほど忠実に応えていた。
「あの時、リリスの手を汚させないと決めてくれて、ありがとう」
声が、震えた。
ミドガルが口を離し、僕の手にすり……と体を寄せる。
あの時リリスは確かに僕を殺そうとしていたし、僕も自分の人生を終わらせようとした。
ミドガルが主であるリリスの意思に逆らったのは、たぶん後にも先にもあの一度だけだろう。
以降、リリスはミドガルで戦うことはあっても、
それは護るためであって殺すためではない。
『僕だけではリリスを護れないから、確実に護れる魔道具を』
そう願って、意図して。その代償として僕は人を捨てた。
今でも後悔はしていない。
でも、その後リリスに合わせる顔がない、人でなくなった僕はリリスに触れる資格がない、と二年間も逃げ続けたことは、今でも後悔しているし、未だに色んな人にからかわれる。
たぶん死ぬまで、いや、死んでも続く、後悔。
「君のご主人様は本当に強いねえ」
と言うと、ミドガルは得意気に身体を広げる。
「僕も頑張るけど、僕がいない時には引き続きよろしくね」
僕の指をぺろりと舐め、ミドガルは定位置であるリリスの右手中指に戻っていった。
「そろそろミドの対になるような子、作ってみようかな」
今の僕は人の理を完全に外れてしまっているから、次を作っても代償はない。それは、この対のイヤーカフを作った時に、確認してる。
眠るリリスに身体を寄せ、目を閉じる。
本当に、君の隣に戻ってくることができて良かった。
もう二度と、君を離さないよ。僕は蛇だからね。しつこいんだ。
もっとも、君はそんなこと、百も承知だろうけれど。
「馬鹿ね、イオルム」
眠りに落ちる瞬間、リリスの声が聞こえた。
うん、僕は馬鹿なんだ。馬鹿だから、一生懸命君に愛を伝えるしか、できない。




