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【本編完結】お前よりも運命だ【番外編不定期更新中】  作者: アカツキユイ
第一部 第一章 ビンビンなのにガバガバ
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04 少々変わっていらっしゃる

「お話を聞いた限りのこちらでの見立てはそういったところです。おそらく外れてはいないと思います。そこでまずは今回ご提案する製品になるのですが」

「ああ、そうでした」

 話を聞くのに夢中になって、本題をすっかり忘れていた。


「まだ学生のお嬢様がお持ちになるものですので、複数の機能をもつ小型のものにいたしました。通常は貴族の方にご提案するものです。


 まず認識を阻害する。これは見た目で気付かれにくくするものです。シールド状に魔術が発動します。


 次に波長にノイズを乗せる。波長を感知されにくくするための魔道具です。認識阻害は視覚と嗅覚に対する要素が大きいのですが、このノイズは主に聴覚と触覚に作用します。周りには声がいつもと少し違って聞こえるので、その点はご了承ください。


 そして身を護る。これは出回っている護身用と基本は同じですが、上位モデルで有効範囲と襲撃者の何を無効にするかの設定ができます」


「それは便利だね」

 父が感心したような声を上げる。

「はい。主に要人や王侯貴族の方が使われるものです。最低でも半径五メートルは無効にできます」


 無効?

「一体なにを無効にするんでしょうか」


「これも設定によります。意識を刈り取る、神経に作用させて自由を奪う、これが無効にするもの。

 他には拘束魔術を発動させる、言い逃れできない印をつける、などいろいろあります」


「言い逃れできない印って、なんかいいですね」

「ディアマンタ……」


「あとは特注の魔道具だとユジヌではあまりメジャーではないんですが精霊の加護を宿したものもあります。これは本当に強力で、それこそ王侯貴族が使うようなものです」


「なるほど。さすがに特注やカスタマイズをするとなると高額になるだろうが、普及品よりも高性能かつ機能や効果を絞ったものを販売できないだろうか。需要はあると思う」

「ありがとうございます。ぜひ前向きに検討させてください。そのためにも今回ディアマンタ様に使用感や効果について忌憚のないご意見を聞かせていただけると助かります」


「わかりました。現場、メルシエの従業員であることはバレていますが、わたしがメルシエ家の娘であることまではまだ割れていないと思います」

「そうなのですか?」


「うちの商会では、名札を仮名にしているんです。つきまといや犯罪に巻き込まれるといったトラブル防止策として今年から採用したのですが、まさかこんなに早く効果を実感することになるとは思わなかった」

「……警備防犯担当が導入を提案してきた時には、大袈裟じゃないかと思っていたけど」


 わたしとお父様の話を聞いて、ベルサンさんがなるほどとうなずいた。

「ああ、勤務時の名前を仮名にするのは他国でも広がりつつありますね。昨年起きた名札をつけた店員を狙った連続殺人事件が普及の発端になったと記憶しています」

「はい。我が商会も支店を置いている国でしたので、他人事ではなく。幸い従業員に被害はありませんでしたがすぐに導入しました」


「それは良いタイミングでしたね。それであればまず認識阻害の魔道具で最低ラインはクリアできそうです。月並みな対策となりますが、店頭に出るのは少し様子を見ていただけますか」

「はい。基本的にはいずれかの他支店に勤務させるか、本店内での業務に専念させる方向で考えています」

「他店舗の場合も初めは店頭にはお出にならない方が良いと思います。しばらく潜伏して泳がせましょう。しかしそれだけでは魔道具のテストになりませんので、申し訳ありませんがタイミングを見て本人への接近をお願いすることになります。よろしいでしょうか」


「大丈夫です! 楽しみですね、護身用の魔道具にどんな効果のものを使うか今から悩んでしまいそうです!」

 はあ、今から胸が躍る。この小さいけれど高価な魔道具はどれくらいいい仕事をしてくれるんだろう。


「……メルシエ会長、大変申し上げにくいのですが、お嬢様は少々変わっていらっしゃいますね」

「……少々どころか大変な変わり者です。

 まあうちの家系には突飛な人間がいますので、血筋だと諦めています」

 父が心底残念そうな顔でこちらを見た。わたしはともかく、他には誰のことを言っているのかしら、お父様。


 そのほかにも、父や従業員がアマランに接触し魔力サンプルを採取する。これを店舗の入り口に設置した魔力検知の魔道具に登録し、来店した際に店員が特別な対応を取れるようにすることが決まった。


「お話を聞く限り、ディアマンタ様がおっしゃるビンビンでガバガバな方なので、次に運命センサーに引っ掛かる人物が現れれば終わりです」

「……それがいつになるのかが問題ですよねえ」

「そうですね。ただ、魔力サンプルを取れればそこから擬似的な波長を作り出すことはできるので、波長の発生装置を誰かに持たせて誘導することも可能になります。これはどれくらい長引くかによって決めていきましょう」

「はい、よろしくお願いします」





 あっという間に二週間が過ぎた。

 魔道具をつけて今のところ問題なく学園に通えている。

 学園には問い合わせがあっても情報を開示しないようにお願いした。貴族というやつは権威を振りかざしてくることがあるからだ。


 遭遇したのが学園から一番近い店舗だったこともあり、やはり人探しということで問い合わせが入ったらしい。

 店頭で名乗っているエメは接客用の仮名なので、該当する人物はいない。外見も栗色の髪に茶色の瞳なので、わざわざ変える必要もない。なぜなら腐るほどいるからだ。


 また、やはりアマランは早々に店にも現れた。わたしがいないと知ると責任者を呼んだそうだ。

 待ち構えていた父が対応し、あっさり魔力サンプルを回収した。普段から気付かれないようにさり気なくお客様の衣服のゴミを取ったり、落とし物を拾ったりする人なのでなんの苦労もなかっただろう。


 その後も頻繁に来店し、わたしの所在を確認してくるので、ついに父が我慢の限界を迎えた。

 今後の対応次第では侯爵領との今後の取引の停止を検討する、と商会とメルシエ伯爵家の連名でミラヴェール侯爵家に申し入れを行った。父は穏やかそうに見えて沸点が低い人なのでよく我慢したなと思う。


『来て何か買ってくれるならまだしも、彼は来るだけで何も買わないから本当に営業妨害以外の何者でもないんだよ』

 と父がうんざりした表情でぼやいていた。


 申し入れをしたその日のうちにミラヴェール侯爵家の侍従長が来店。平謝りして貴族向け商品のデッドストックを買い込み、逃げるように帰ったそうだ。

 このままでは取引停止はしなくても条件の見直しはあるかもしれない。たぶん結構な痛手だと思う、お気の毒に。

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