06 盛るだけ盛ったらぶち壊せ
「招待客を考えたのだけれど、よく鳴く子がいたほうがいいわよね?」
「そうですね。小鳥……二、三羽いれば十分かと」
「あら、一羽ではないの?」
マリエル様が首をかしげる。
「全員が同じ会でなくても良いのです。どれが本当なのか判断できないようにしておいた方が、後が面白いのではないかと思いますの」
「まあ、リリスったら悪い子ね!」
「本気で引っかき回すのね」
お二人が意地の悪い笑みを浮かべた。
「ええ、わたくしと叔母様だってそれぞれの相手と出会った経緯が異なるでしょう? ぼかした方が良いのではないかと」
「なるほどねぇ」
「私たちの場合は、私が見初めた色が強いわね」
「はい。わたくしたちはお互いに、なので。それにしても、昨日うかがった馴れ初めのお話、本当にパンチが効いていて素晴らしいと思いましたの! 差し支えなければ、ぜひお話しいただきたいですわ」
「ああ! ディオンが奴隷にされると思ってその場から逃げ出した話ね!!」
「まあ! 逃げ出したのですか?」
「そうよ、それをシャルがドレスの裾を掴んでものすごい速さで走って捕まえたって話」
「だって、獲物が逃げたら……追うでしょう?」
叔母は何食わぬ顔だ。
「いずれにせよ話すつもりでいたから問題ないわ。……それとも、少し盛る?」
叔母からの提案に、ニタリと笑う。
「ええ、盛りましょう。わたくしは逆にお越しの方々に夢を見ていただけるような盛り方をしようと思うのですが、お二人ともどう思われますか?
「いいんじゃない?」
「盛るだけ盛って、ぶち壊すの?」
「ええ」
なんでもないことのように、紅茶で口を潤す。
「悪い子ねえ!!」
大袈裟に叔母様が驚いて見せた。
「ふふ」
「でもリリス、何らか大公家からのご招待もあるのではなくて?」
「はい、叔母様。夜会にご招待いただいております。二週間後に」
わたくしの回答を聞いて思い出したようにマリエル様が声を上げた。
「ああ! そういえば我が家にも招待状が届いていたわ。……シャル、あなたのところには?」
「来ていた気もするわ……名目はなんなの? リリス、あなたたちの歓迎会?」
「ええ、品評会です」
「品評会、ねぇ」
「それを言ったらユジヌの夜会に出るのは年に一度あるかないかの私たちも、品定めされるんじゃないかしら」
叔母様がホホホと高らかに笑った。
「……するとリリス、照準はそこに?」
「はい、叔母様。運命に浮かれた羽虫も飛んでくるでしょうから、派手に打ち上がっていただこうかと。ついでに……大公家までロゼナスの汚染が進んでいるか、見極める場にもなりましょう?状況次第ではその場で封じてしまえばよろしい」
「シャルも苛烈だと思っていたけれど、リリスはその上をいくわねえ、本当に恐れ多くてリリス様とお呼びしたくなるわ」
「おやめくださいマリエル様。わたくし、リリスと家族のように呼んでいただけることを本当に嬉しく思っているのです」
「ええ、わかっているわリリス。メルシエはあなたの第二?いいえ第三?の家族よ」
「第二、ですわ。ひとつめはウルフェルグ王家の皆様。セス家はわたくしを産み落としただけの肉塊の集まりです」
肉塊、という言葉に二人が固まった。
「……まあ、リリス。あなたイオルム殿下に毒されているのではなくて?」
「……お言葉ですがマリエル様、肉塊と思っておりましたのは幼少の頃からで、殿下とお会いする遥か昔なのですよ」
「ほほほほ! リリスってば本当に苛烈ね!」
叔母様が楽しそうでなによりだ。
「するとお茶会は前哨戦ということね、良いでしょう、腕が鳴るわ」




