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【本編完結】お前よりも運命だ【番外編不定期更新中】  作者: アカツキユイ
第二部 第一章 本物を教えてあげる

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07 本物を教えてあげる

「じゃあ方向性は決まり! ドゥメル、さっき消滅したって言ったけど、この魔石にはきっとこれから新しく精霊が宿る。それまでは僕の魔法を込めておくから、君も力を分けてね」


〈わかったあ〉

 ドゥメルがひらりと回った。


「それじゃあ仕上げといこう。ドゥメルも一度石に戻って」

 イオルムが銀のバレッタと海竜の鼓動、そして先程ディアマンタがロシェットと名付けた魔石を、トレイの上にそれぞれを結ぶ三角形を描くよう配置した。


「このスケールの魔道具作製は僕も初めてだからドキドキしちゃうなぁ」

 なんて言いながらも、表情はとても生き生きとしている。


 そうだーこれつかってー


 ぷちん。

 一体の精霊が自分の羽をむしり取るとトレイの上に置いた。


「えっ!?」

 ディアマンタが驚きに目を見開く。


 あーいいねぇー

 ぼくたちのはねー

 つかってつかってー


 たくさんの精霊が羽をひとつずつ置いていく。

「大丈夫!? 痛くないの!? 飛べなくならない!?」


 だいじょうぶー

 またはえるー

 ぼくたちのほうがディディがすきー

 シルヴァロンのこたちにまけなーい


「ふふふ、対抗心、いいねぇ」

 イオルムがますます楽しそうだ。

 気がつくと、三角の中心に精霊の羽がこんもりと山を作っていた。


「これはとびっきりのやつができるかもよー」

 イオルムが舌なめずりをした。見えていてよ、舌先が。



 トレイを内包する球状の結界が展開される。

「……爆発はしないと思うけど、みんなもう二歩くらい下がっておいてね……」


 結界の表面に両手で触れたイオルムの瞳が光り、瞳孔が縦長に開く。


 楽しそうなおもちゃを、自らの手で作り上げることに全神経を注ぎ込んでいる。

 魔力を中で循環させ、魔力を強く圧縮させることで、ひとつの魔道具に仕立てあげるのだ。


「……っく、強烈…っ!」

 歯をくいしばり楽しそうに目の前の難解なパズルに立ち向かうような。

 イオルムの額に汗が浮かぶところを、わたくしは……閨以外で久しぶりに見ている。



 結界が小さくなり、消滅する。

 トレイの上に乗っていたのは、銀細工の上に青とグレーの魔石がはめ込まれた、キラキラと光る銀のバレッタだった。

 精霊の羽がレース上の銀細工を本物のレースのように見せる。


「これは素晴らしい……!」

 メルシエ商会長が目を輝かせ嘆息した。

「博物館に展示されててもおかしくないぞ」

「バレッタそのものも輝きを増しているわね」

 マリエル様がうっとりと呟いた。


「ははは、とんでもないものが出来上がったな」

叔父様は嬉しそうだ。自らが仕入れたものがこんな形になるのであれば、バイヤー冥利に尽きるだろう。


「……素敵よ、ドゥメル。すごく頼もしいわ、よろしくね」

〈うん、まかせて〉

「みんなも助けてくれてありがとう」


 いいよー

 がんばったー

 おなかすいたー

 こんぺいとうたべよー

 こんぺーとー!


〈こんぺいとう?〉


 おいしいよー

 ドゥメルもたべよー


〈でぃでぃ、ぼくも、こんぺいとう〉

「もちろん、みんなで食べましょ」


 ディアマンタと精霊たちは、サンルームへ移動する。その後を精霊たちが運ぶ金平糖の瓶がフワフワと浮かんでついて行った。



 彼らを見送ると、しん……と空気が静まり返った。

「イオルム殿下、あれは少々過剰なのでは……」

  メルシエ商会長が重々しく口を開く。


「いや、私はあれでも足りないと思っている」

 メルシエ伯爵が言葉を返した。

あの最前線(シルヴァロン)に居合わせたら、あれは決してやりすぎだとは思わん」

「レイモン」

「俺も記録を見たが、あれはまだ序の口だと思った方がいい」

 叔父様が加わった。

「どうせ中央は魔獣の大量発生に毛が生えたくらいのものとしか思っていないんだろう? メノー」

「……はい」


「メルシエらしさを一番受け継いでいる次代はディアマンタだ。ディディを通じて我々が認められたのだと思えば光栄なことじゃないか」

 叔父様が笑った。


 伯爵がこちらを見てはっきりと告げた。

「……加護についても精霊に聞いてみた。間違いないとのことだ」

「高潔のメルシエ、か。悪くはない響きだな」

「大公家とやり合う気はさらさらないんだがなぁ」

「メノー、お前はどう思った?」

「上が腐ってきてるのは事実だよ。……それが悪魔の仕業で片付けられてしまうとしたら納得いかないな。元々の怠惰が問題だろ」


 ノエミ様がため息をつく。

「……運命にかぶれているのはやはりロマンティックなお話が好きな女性の方が多そうね」

「囀るのが女よ」

 マリエル様がにこやかに言い捨てた。

 叔母様が苦笑いを浮かべる。

「他の国でも聞くのよ、運命とか真実の愛とか。単純にそういうブームなのかと思っていたけど、そうじゃなかったのね……」


「流行は作り出すものじゃないか」

 はははと叔父様が笑う。

「そうだろう? シャル」

「……いいえ、その通りだわ、ディオン。

 それで、リリス。先ほどの話の続きだけれど、お茶会、開いてもらいましょうか。二人で仲良く隣り合って座ると、色々面白いものが見られそうじゃない?」


「今のお話の流れでいくと、叔母様とわたくしでムーブメントでも作ろうか、ってことでしょうか?」

「それも良いけれど、炙り出して叩きのめすのよ」

 ホホホホホ、と高らかに叔母様が笑った。


「本物の運命がいかに苛烈か、教えて差し上げないとね」

執筆のモチベーションにつながりますので、ぜひ評価やブックマーク(&通知オン)、ご感想お待ちしてます……!


次話からいろんな意味でギアが一段上がっておりますので、是非!

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