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【本編完結】お前よりも運命だ【番外編不定期更新中】  作者: アカツキユイ
第二部 第一章 本物を教えてあげる

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05 あそぼう、ドゥメル

「よーし方向性は決まった!まずは海竜の鼓動を起こそうか」


 おもしろそうー

 やるー

 やろやろー!!


 精霊たちがテンション高く飛び回っている。

「力を貸してくれる?君たちの大切なディアマンタを護るためのものだよ。ルルティアンヌとシルヴァロンの精霊たちの祝福に、みんなの気持ちが負けないことを見せてやろう」


 わかったー

 がんばるぞー


「じゃあ、眠っている海竜を優しく、優しくだよ?みんなで起こそう。

 ディアマンタちゃん、こっちに来て両手を貸して」


 ローテーブルの前まで来て跪いたディアマンタが、イオルムに向かって両手を差し出す。

 左手の上にイオルムが魔石を置くと、右手でふたをするように包みこませた。


「祈って。これは君を護るものだから」

「わかりました」


 ディアマンタが目を閉じた。

 精霊たちが手の周りにたかっている。


 イオルムが開いた両手をディアマンタの手に向け、魔力を注ぐ。


 カイリュウおきてー

 おはようー

 きみのおはなしききたいよー

 ぼくらのディディをまもろうよー

 カイリュウーおきてー


 わたくしは、イオルムが魔法を使う姿を見るのが好きだ。

 人間関係以外の全てのことをそつなくこなすイオルムは、嬉々として魔術や魔法を編み出し、形にする瞬間にひときわ輝いている。


 わたくしだけのものであって欲しいけれど。

 魔法をきっかけに人の心を少しずつ知っていくイオルムが、生き生きと楽しくしているところを見るのは、密かな楽しみなのだ。


 メルシエ家の人々が固唾を飲んで見守っている。


 おきてー

 カイリュウー

 おはようー

 あさだよー


 精霊たちの呼びかけに応えて、ディアマンタの手の隙間から淡く光が漏れ出した。


〈あさなの?〉


 そうだよー

 あさだよー


〈まだ、ねむたい〉


 おきてー

 でばんだよー


〈でばん?〉


 でばんがきたよー

 きみのでばんー

 ディディをまもろうー

 ぼくたちのディディをいっしょにさー


 ……少しずつ光が強くなっていく。

「……綺麗ね……」

 叔母が呟いた。


「ディアマンタちゃん、手を開いて」

「はい」


 ディアマンタが手を開くと、魔石の光が揺れている。

 光り方も、強くなったり弱くなったり、まだ不安定だ。


 魔力を注ぎ続けるイオルムを見ると、少し苦しそうな表情の中に、まるで子どものような悪戯な笑みを浮かべていた。


「さあ、君は何を望む……?」

 イオルムが幼い命に問いかける。


〈ぼく?ぼくは、みんなたのしくしてほしい……〉


 ディアマンタが話して良いのかとイオルムを見た。イオルムはこくりとうなずく。

「楽しく?」


〈ぼくをたすけてくれたひと、ぼくをたすけたこと、せめられてしんだ〉


「……」

 ディアマンタが強く口を結んだ。


〈ぼくをそだてようとしたひと、いろんなごはんくれた、うみのおみずにいれてくれた。でも、ぼくしんだ〉


「うん」


〈だれもわるくないよ?わるくないのに、ぼくがいたから?ぼくがいたから、みんなしんだの?〉

「違う」


〈ぼくがわるいの?〉

 ディアマンタが間髪入れずに否定する。

「それは違う!あなたは悪くない」


〈でもこのおうち、ぼくのはなしきいてくれるこ、たくさんいた。おはなししてたら、きもちよくて。いごこちも、よくて〉


「ここは、メルシエ家よ」


〈めるしえ?〉


「わたし、ディアマンタ。あなたの力を貸して欲しいの」


 ディアマンタだよー

 ディディはおもしろいよー

 よくおこられてるよー


〈おこられるの?わるいことしたの?〉


 普段のディアマンタなら、余計なことを言うなと精霊に言うのだろう。

 しかし今の彼女は、真剣に海竜の鼓動を見つめていた。


 ほんにんはほんきでまじめー

 そんなにわるいことしてないー

 ちょっとおくちがわるいけどー

 でもすごくいいこー!!


〈そうなの?〉


 イオルムが場をガイドしていた両手を下ろし、ソファに深く座った。

 後は精霊たちに任せることにしたのだろう、柔らかい表情をしている。


 ぼくたちのことみえるよー

 おはなしもできるー

 カイリュウはディディをまもるのー

 たくさんいろんなとこにいけるよー


〈いろんな、とこ?でぃでぃ?〉


 ディアマンタだよー

 きみとおなじでぴかぴかきらきら

 いっしょにいるとたのしいよー


〈ぼくも、たのしくしたい〉


 ぼくらもいっしょでたのしいよー!!

 あそぼー!

 あそぼうよー!

 あーそーぼ!


〈ぼく、でぃでぃとあそぶ〉


 その瞬間、魔石が自らの力で力強く浮かびあがり、強く光った。

 内側から強い光の筋がいくつも溢れ出す。


「きゃあっ!」

 ディアマンタが手を離しうずくまった。肩を激しく上下させて、手で胸を押さえている。


 過呼吸だ。おそらく光で雷が落ちた時のことが蘇ったのだろう。

「ディディ!」

 ノエミ様が近寄ろうとするのを、イオルムが手で制した。

「あの子たちに任せて」


 見ると、精霊たちがわっとディアマンタの元に集まっていた。


 ディディー

 だいじょうぶー?

 おちついてー


〈ぼくの、せい?〉


 まっすぐに放たれていた光が揺らぐ。


「ちが……うよ……っごめん、い、まちょ……から……」

 

 おどろいたのー

 ぴっくりしただけー

 カイリュウのせいじゃないよー

 ディディこのまえたいへんだったのーだからー


〈そうなの……?〉


 そうー!

 だからカイリュウもいっしょにきてー

 ディディをいっしょにまもろうー

 まもろー


 ディアマンタが顔を上げて、魔石を見た。苦しそうな中、必死に表情を繕っている。

「びっくり……させて、ごめ、っね?……いっしょ、に……たくさ……っ、あそ、んで……お、おでかけ……っしよう、ね」


〈おでかけ?〉


 がっこうとかー

 かふぇとかー!

 カフェいいねー

 ディディといっしょ!

 どこでもいけるよー!!


〈おでかけ、したい〉


 しよしよー!

 おでかけー!

 もうだいじょうぶだよー

 さみしくないよー!


〈わかった、ぼく、でぃでぃといる、まもる〉


  強い光が収束していき、海竜の鼓動の上に、小さな精霊が現れた。

「…………!」

 周りで見ていたメルシエ家の面々が息を呑む。


〈でぃでぃ、ぼくをよんで〉


「……『ドゥメル』……っ、よろしく、ね」

〈うん、ぼくどぅめる、でぃでぃのそばにいる〉


 ふわふわと浮かんでいた精霊が、ディアマンタの鼻先に、自分の顔を寄せた。

 ディアマンタの目から、一筋涙がこぼれた。

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