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【本編完結】お前よりも運命だ【番外編不定期更新中】  作者: アカツキユイ
第二部 第一章 本物を教えてあげる

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04 半身でありストッパー

「持ってきたぞ」

 商会長が小さな箱を持って戻って来た。

「久しぶりに手にしたが、箱越しでもビリビリくるような気がするな」


 商会長が白手袋をはめ、箱から一センチ半ほどのルースを取り出すと、バレッタの隣にそっと並べた。


「あははは、メルシエ商会、とっておきがあるだろうなとは思ってたけど、海竜の鼓動があるなんてやばいね!!ウルフェルグどころかフェリティカだって国宝級だよ!?」


「海竜の鼓動?」

 ディアマンタが首をかしげる。わたくしも初めて聞く名前だ。


「海竜の心臓から採れるんだよね?」

「そうです。そもそも海竜は海に生息して海から出ない。討伐しても大きすぎて陸へ運べない。海へ還るのがあるべき形だから、本来なら人の手に渡るものではない。つまりこれが陸にある時点で曰く付きなんだよ……」


「ディアマンタが生まれる前に僕らが仕入れて来たんだ」

 叔父が満足そうにうなずく。

「これひとつで小国が買えるよ」


「えええっ!?そんなものを持たされるの!?」

 ディアマンタが小さく悲鳴をあげた。


 イオルムが魔眼を発動して魔石を見る。すぐに眼はいつも通りに戻った。

「うん、魔力容量は竜にしてはそんなに多くないみたい。とはいっても竜だからね。ウルフェルグの中級魔道士くらいの魔力ならまるごと収まりそう。しかも純度は最上級……おそらく幼竜だったんじゃない?」


「仰るとおりです。漁の網に幼体がかかったのを、その島国の王族が飼い慣らそうとして死なせてしまったと」

 商会長が答えた。


「……お父様、その国は……」

「滅びた。海洋魔獣のスタンピードで、島もろとも海に沈んだと聞いている」

「……海洋魔獣は大きいだろう、それが押し寄せたら天災級じゃないのか」


「それって普通に考えたらこの魔石も海に沈むパターンじゃないの?」

「混乱に乗じて持ち出されたらしい。おそらく飛竜か何かに乗って逃れたんだろうな」

「……そういう曰くがついたものなら、呪われているのでは?」

 ノエミ様がイオルムに尋ねる。


「いや、見たところ全然呪いとかはなかったよ。本人?本竜は純粋にお世話してもらったつもりでいるんじゃないかな」

「ええええ……」

「だから呪いとかそういう心配はいらないよ、安心して」


 わーいカイリュウ!

 うみのおはなしきかせてくれてたのにねちゃったの

 おきたらまたたくさんきけるかなー


 精霊たちがくるくると魔石の周りを回る。


「それにしてもこの純度……腕が鳴るよ」

 イオルムが舌なめずりをして、細い舌先が見えた。外ではしないように気をつけているはずだからたぶん無意識ね……後で注意しなくては。


「精霊たちが選んだだけある。ディアマンタちゃんとの相性もいい」

「相性ですか?」

「相性が良くないと本来の力が発揮できないんだ。良い持ち主と巡り会えて良い関係が築けると、ごく稀に精霊化することもある。それこそディアマンタちゃんが着けていたペンダント、あれがそうだ」


「へえ!聖剣みたいだな!」

 メノー様が声を上げた。わかりますわ、冒険心をくすぐられますわよね。

「そうだね、聖剣も聖剣になる過程が何パターンかあるから全部がそうじゃないけど」


「でも、さっき精霊たちは海の話をしてくれたって言ってたよね。たぶんこれには、いや、この子には意思がある」

「なんてこった……」

 叔父様が嘆息した。


「さーて、やってみようか。どうやって起こそうかな」

 イオルムが両手の指の関節を鳴らす。

「あ、イオルム殿下」

 ディアマンタがイオルムに声をかけた。

「なぁに、ディアマンタちゃん」


「この子も、使うことはできますか?」

 恐る恐る差し出されたそれは、先ほど彼女が別れを告げた精霊が宿っていたペンダントトップ。

「また護ると言ってくれたんです」


「うん、いいよやってみよう」

 魔石を受け取るとイオルムが同じトレイに置く。

 わたくしと触れ合う時を除けば、久しぶりにイオのこんなに楽しそうな顔を見る。


「ちょっと考えるから待ってね……」


 口元に笑みを浮かべながら、射るような眼差しでトレイの上の材料を眺めている。


「いつもあんな感じなのですか?」

 マリエル様がわたくしに尋ねる。

「ええ、普段はもう少しまともに擬態できているんですが、メルシエ家の皆様の前で気が緩んでいるのでしょうね」

「……擬態?」

「まともな倫理観、分別を持った人間への擬態です」


「つまり擬態をやめると……?」

「……ディオン叔父様やシャルロット叔母様はご存知ではないですか?彼が悪虐王子イオルムと呼ばれていることを。

 擬態をやめたら即幽閉。魔力量はウルフェルグ随一ですから毒杯は呷りませんが、身体が干からびるまで魔力を国に捧げることになります」


「うわぁ……」

 明らかにディアマンタが引いている。その後ろでメノー様も苦虫を噛み潰したような表情をしていた。

「とんでもない爆弾じゃないか」


「わたくしは、イオルムの半身であると同時に、暴走を防ぐストッパー、お目付け役でもあるのですよ」


 にこりと微笑むと、リリス様すごい……とディアマンタの声が聞こえた。

 危険なのはイオルムに見えますけれど、その実はお互い様なのですよ、ディアマンタ。

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― 新着の感想 ―
ストッパーということは割とリリスもズレてるんだろうなあ
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