03 続・ビンビンなのにガバガバ
「本物の運命、なんてそれらしいことを言いましたけれど、実際には運命なんてありませんのよ」
「ええ……!?なんだか謎掛けみたい」
わたくしの言葉にディアマンタが頭を抱える。
「ミラヴェール様、でしたかしら。あの方はディアマンタに運命だと言った時もあのように比較をなさったの?」
「ああ、そうです!前の恋人とわたしを比べて『君の方がより運命だ!』って言ってました」
「比較するものでもないでしょうに……」
マリエル様がため息を吐く。
「それで、メドゥス製薬で魔道具開発をしているベルサンさんに色々お話を聞いたんです。感度と精度の問題だろうって。合うものを感じとる感度は高いけど、一定基準を超えたものはみんな一緒くたに捉えていて精度は低いんだろうって。だからわたし、ビンビンなのにガバガバなんですね、って……あ……」
口にしてしまった後、ディアマンタが気まずそうにあたりを見回した。
わたくしたちだけでなく、男性陣までディアマンタを見て残念な表情を浮かべている。
「……ディアマンタ……」
「あっはは!ビンビンなのにガバガバ!最高の喩えだね!!」
びんびんなのにがばがばってなに?
よくわかんないねー
あんまりよくないことみたいだねー
でもイオルムたのしそうだよー?
「ごめんなさいごめんなさい、あなた達も蒸し返さないで……」
ディアマンタが頭を抱えた。
「でも比喩としてはこの上なく的確ね」
にやりとマリエル様が笑う。
「……ごめんなさい本当に、あとでよく言い聞かせるわ……」
ノエミ様はがっくりとうなだれた。
「ああ、おかしい!ディアマンタちゃん最高だよ……」
イオルムはまだ面白いらしい。ヒイヒイ言いながら笑っている。
「でも、その邪気のなさが良いんだろうね」
涙を拭いながらイオルムが言った。
「さっきの魔道具作る話だけど、せっかくだからこの場で作ってみようか。精霊もたくさんいるから、とんでもないものができるはずだよ」
それならあのこ!
あのこをつれてこようよ!
かいりゅうのこ!
きらっきらしてたこ!
ずっとねてるけど!
「かいりゅう、カイリュウ……まさか!」
メルシエ商会長が立ち上がった。
「海流?」
ディアマンタの兄、メノー様が会長に尋ねる。
「……うちの全ての在庫の中で一番の曰く付きだ」
いいねーいいねー
とってこようかー
とってこよう!
「いやいや待て待て!私が取ってくる!一緒に来ても良いが運ぶのは私だ!」
金庫に向かう商会長を追って、数体の精霊が飛んでいった。
「なんだか良いのがありそうだねー。じゃああとはどんな形にするかだけど、前につけてたのはペンダントだったよね」
「はい」
「なにか良いのあるかなー、ディオン殿やシャルロット夫人なら、なんか良いの持ってるんじゃない?」
「装飾品か」
「そうねえ……ディディちゃんに合いそうなアクセサリー、あったかしら……」
「……バレッタはどうでしょうか、イオルム殿下」
ノエミ様がイオルムに尋ねた。
「ディアマンタが今回のトラブルに巻き込まれた時、所用で隣国の実家に帰っていたのですけれど、実家に眠っていた銀細工のバレッタを見つけたのです」
「おおー銀細工、良いね、持ってきてみて」
「わかりました」
商会長に続き、ノエミ様がサロンを出ていった。
「だいぶ大事になったな」
メルシエ伯爵が苦笑いする。
「しかしディアマンタは持っていたほうが良いだろう。祝福を受けたことはもちろん外には伏せるが、いつどういう形で周りに知れて狙われるかわからないからな」
「……はい」
とんでもないことになっちゃった、とディアマンタが呟いた。
「何も知らないまま事件に巻き込まれるより良かったじゃない」
イオルムが事も無げに言う。
「それは確かにそうですけど」
ああーそうだディアマンター
ぎんかいたけー
ぎんかいたけのスープのみたーい
「銀灰茸の、スープ?ああ、そういえば馬車の中で騒いでいた子がいたわね」
そうなのぎんかいたけー
ほしてあるやつをぬるまゆでふやかすのー
おだしがとってもおいしいらしいのー
げんきがでるってー
「なるほど、銀灰茸のスープか。精霊はみんな銀灰茸、好きだよ」
「そうなんですか?」
「精霊は基本的に移動しないんだけど、物に棲み着く精霊もいてね。持ち主の移動に付いて原生地に行けた時に食べてくるみたいだよ。銀灰茸は生ではシルヴァロンから持ち出せないだろう?」
「はい。でもわたし、前にシルヴァロンで挑戦した時はできなくて」
だいじょうぶー
いまのディディならつくれるー
シルヴァロンのこたちがオッケーしたー
わたしまいにちのみたーい
「ちなみにそれって、人も飲めるのかしら?」
マリエル様が興味深そうに尋ねた。
のめるー
おいしいー
たぶんおしおとかいれてるー
こしょういれるとちょっとぴりりー
「……ですって、試してみましょう、ディディ」
いつの間にか戻っていたノエミ様がにっこりと笑った。
「僕も久しぶりに飲みたいなぁ。ノエミ夫人、干し銀灰茸はあるの?」
「はい、食用は難しいと思っておりましたのでわずかですが。今日はこのように騒がしいので、次回いらした時にご賞味いただけるようにいたしますね。
イオルム殿下、バレッタはこちらになります」
ベロア張りのトレイをノエミ様がテーブルに置くと、みんなで覗き込んだ。
レースのように細やかな細工が施された、とても手間暇のかかった一品だと一目でわかる。
「これは良い品だな」
叔父様がほうと感嘆の声を漏らした。
「偶然見つけましたの」
ノエミ様がふふふと笑う。
「でも、今日のお話を伺うと、偶然ではなかったのかもしれないとも、少し思うわ」




