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【本編完結】お前よりも運命だ【番外編不定期更新中】  作者: アカツキユイ
第二部 第一章 本物を教えてあげる

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01 運命たり得る者は

同時刻にディアマンタ編の最終話を投稿しています。

また、ここから主人公と物語の毛色がだいぶ変わってきます……タグには既存のいくつかと入れ替えでこちらのいくつか(もしくは全て)が入ります「いっそ清々しい共依存」「突き抜けた純愛」「本物以外眼中になし」

この言葉に引っかかりを覚えた方はご注意ください。

 運命を軽々しく()()()な。

 溺れる愛などただの喜劇。


 『運命』それは、忠愛よりも苦く

 偏愛よりも甘美なーー毒。


 ======


「お前にはもう用はない!彼女の方がお前よりも運命だ!!黒髪麗しいあなた、あなたこそ僕の運命、お名前を教えてください!」


 目の前で喜色を浮かべた男の問いかけに、貼り付けた笑みで答える。

「わたくしですか?リリス=ウルフェルグと申します」


「リリスちゃん!君が僕の運命だ!僕の愛を受け止めて!」


 こちらを見たディアマンタが、これ以上ないくらい慌てている。

 絶望の魔女ルルティアンヌ様と、シルヴァロンの精霊の祝福を受けた『高潔のメルシエ』。

 今日初めてお会いしたけれど、とても気高くお茶目でチャーミング。祝福を受けるに相応しい方。


 それにしたって、そう、この男が運命をかたるの……ふふふ、おかしな話。

 たかだか見目が整っているだけの、凡庸な男。

 あなたがディアマンタと釣り合うわけがないでしょう。


 狼狽えているディアマンタの手を握る。

「ディアマンタ、大丈夫ですわ。ここはわたくしに。いざとなればイオルムもおります」

 そう、幼少よりわたくしが愛してやまない唯一の男、イオルム=ウルフェルグが。


 そう告げると、ディアマンタは表情を和らげ、力強くうなずいた。


「見目だけは麗しいお殿方、ひとつお伺いしたいのですが」

「なんだい、リリスちゃん!その美しい言葉遣いも素敵だね!」

「女性に愛を乞う時に、女性から名乗らせるのがユジヌ公国の礼儀なのですか?」


「は」

 目の前の小者が固まった。


 店内の空気が凍りつく。ディアマンタは一瞬硬直したものの、すぐに我に返りぷっと吹き出した。

 他の買い物客も、こちらを見ないように顔を背けながら肩を震わせている。


「ぼっ!僕はアマラン=ミラヴェール、ミラヴェール侯爵家の長男でユジヌ城でレグルス公子様の側近を務めております」

 慌てて名乗ったこの男は、名乗り終えると調子を取り戻したのか、表情を整えてわたくしの前にひざまずいた。


「だからリリスちゃん、君は僕の運命だ!僕の愛を受け止めて!!」


「お断りいたします」

 あらいやだ、思っていた以上に冷たい声が出てしまった。

「え、僕が愛を乞うているのに?」

 ぽかんと開いたその口に金平糖でも放り込んで差し上げようかしら、いいえ、時間をかけてあの可愛らしい形になった金平糖がもったいない、ならば豆菓子……いいえ、豆菓子に失礼だわ。


「誰に愛を乞われてもわたくしの心は変わりません。わたくしの運命たり得る者は、夫であるイオルム=ウルフェルグ、ただひとりです」


 参りましょう、とディアマンタを促す。ディアマンタはにっこり笑ってわたくしの手を取った。反対の手にはカゴに入った色とりどりの金平糖の瓶がある。

「り、リリスちゃん?」


「二度とお目にかからないことを願っておりますわ、アマラン=ミラヴェール様」



「リリス様すごいわ!わたし感動しました!」

 メルシエ家に戻りながら、ディアマンタが思い出して笑っている。

「あのいなし方はさすがにわたしじゃできないです。身分もあるので」

「そうですわね。第一、あの勢いで迫られたら、とても気味が悪い」



 ああうん、わかった。そうそう。

 視えるようになったとわかって、精霊たちがどんどん話しかけてくるのだろう。歩きながらディアマンタが相槌を打っている。


 わたくしには精霊は視えないし言葉も聴こえない。気配は感じることができる。

 先ほどディアマンタに対してかかっていた、精霊を視認できない制限魔法を解除したけれど、あれはイオルムに解除方法を教わっているからできたことだし、第一わたくしには詠唱せずに複雑な魔法を発動することができない。


 でも何も問題はない。

 わたくしが自分に対し求めるものはそれではないからだ。


 対してイオルムは天才だ。何をやるにも平均どころか最高峰に位置づけられる結果を叩き出す。

 能力だけなら国を統べるに相応しい。

 ……そう、能力だけなら。



 わたくしはリリス=ウルフェルグ。

 ウルフェルグ王国第二王子であるイオルム=ウルフェルグの半身であり妃。そしてウルフェルグ王国の筆頭公爵家であるセス家の長女でもある。

 七歳でイオルムの婚約者となり、十歳で王城に移り住んだ。ずっと婚約者であった「悪虐王子イオルムのお目付け役」として暮らしている。



「それにしてもリリス様ってすごいですね」

「どうしたのですか、急に」

「イオルム殿下のお妃様って、大変そうじゃないですか」

 何度も何度も言われた言葉。

「そうね、なかなか骨が折れますわ。でも、」

 ディアマンタがわたくしの顔を見る。

「イオルムにやられてばかりではございませんのよ、わたくしも」


 きっと今のわたくしは、なかなかに意地の悪い顔をしているだろう。

ディアマンタ編からリリス編に変わりました「お前よりも運命だ」。実はここからが本番です。最後までお楽しみいただけますと幸いです。

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