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05 反省仲間がいるなら安心

「……そういえば、ベルサンさんの長剣はどこに?」

「私は魔力量も耐性もあるので、収納型の魔道具を使っています」

  細長い指に、キラリとシンプルな金属の指輪が光る。


「面白い! どうやって取り出すの?」

「お見せしたいですが、何事もなく終わった後に種明かししたいものですね。この先が厨房ですか」



 通路を曲がった先が厨房だ。しかし厨房手前で何やら騒がしい。

「厨房のスタッフは一応全員うちが派遣しているはずなんだけど」

 覗き込むと、料理人と別荘村スタッフが揉めている。

「揉めてるのはわかるけど内容が聞こえないわね」

「お待ちくださいね」


 ベルサンさんがポケットから小さな魔道具を取り出す。

 それを指先のコントロールでピッと通路奥に向かって投げると、天井にピタッと貼り付いた。

「顔は覚えました。認識阻害をかけてはいますが、念のため少し移動しましょう」


 少し距離を取って、柱の影に二人で隠れた。

「こちら、耳につけるタイプの受信機です。すみません、まさかこんなに出番が早いとは思わなくて。お耳を失礼しますね」

 肌に近い色の魔道具だ。耳殻の上をまたぐようにかけ、ベルサンさんが顔の横に触れる部品の位置を微調整してくれると、音がクリアに聞こえてきた。


『だから今日のメニューは決まってるって言ってるだろうが!』

『第一、今から魔獣なんて仕入れられねえっつーの』

『うるさい奴らだな、ちゃんと生きの良いのがこれから届くから心配すんなって』

『獲ったやつをそのまま持ってこられても血抜きだなんだって処理が必要なんだぞ!? 誰がやるんだ!

 第一すぐには食えやしねえ!』


「……すごい、耳の穴からじゃなくてもこんなにはっきり聞こえるのね」

 感動のあまりベルサンさんの方を向くと、得意げにベルサンさんがうなずいた。

「頭蓋骨に響かせているんです。お耳が遠くなってきた方の補助には使えないのですが、周りの音もちゃんと聞きながら、構内放送を聞き逃さないよう、中規模以上の病院で主に医師や看護師の方が使用されています」

 ちなみに我々が着けている受信機は有効範囲がありますが、あの魔道具そのものが拾った音声は私達の会話と同様に転送されているはずです、とベルサンさんが付け足した。


「色々なところで魔道具が使われているのね」

「はい。今日は使えそうなものをいくつか持ってきました。それにしても、生きの良い魔獣ですか」

「血抜きや内蔵処理以前に、生きたものがそのまま入り込んでこなければいいけど」


「厨房の方々には今日の事態について共有は?」

「マッシモが説明してる。厨房だけは運営管理が変わってもメルシエが管理責任者になっていて、普段からなにかあった時には厨房のスタッフさんは食品庫を兼ねた厨房奥の地下室に避難してもらうことになってるの。……魔獣が入るって言ってたのはたぶんここのスタッフね」


「そうですか。でもどうして厨房だけはメルシエ商会が?」

「シルヴァロンは郷土料理が売りなのよ。銀灰茸はそのままだと外に流通させられないって話をしたでしょう? 調理にも何かコツが必要みたいで、よそ者が簡単に再現できるものじゃないのよ。ちなみにわたしも無理だった」

 でも不思議なことに、地元の人に聞いてもコツなんてない、わからないって言うのよね。


「だから一度はうちも引き上げたらしいんだけど、泣きつかれたそうよ。

 ただ、刃物を扱うしあまりにも不安要素が多いじゃない? それもあって、厨房の入口は生体認証の魔道具が使われていて、登録してあるスタッフしか入れないようにしたんですって」

「なるほど」

「だから生体情報の登録が済んでいるうちのスタッフも、最悪厨房に逃げ込めばなんとかなるわ」



 続いて、ホールに移動する。

「広いですね……」

「シルヴァロンは確かにいいところだけど、これは少し広すぎなんじゃない?」


『今日の招待客は百人だそうだ』

「はあっ!?」

 唐突に耳に入ってきた伯父からの情報に驚きの声が出る。ちなみに驚いたのは、いきなり聞こえてきたのと、内容と、両方。

 わたしの声に、一緒に給仕として派遣されている人たちが何人か振り返ったが、すぐに準備作業に戻った。認識阻害の魔道具、超優秀。


「百人って、正気? 広いとは言っても、どう見ても六十が良いところだけど!?」

『……お前もそう思うか、ディアマンタ』

「百もいたら給仕が動くスペースがないわ……スタンピード以前にこの中でしっちゃかめっちゃかよ」

『ああ、魔獣が侵入した場合、パニックになって圧死する人間が出る可能性がある』


「……冗談きついわ。給仕のみんなをどうするの伯父様」

『だからもしもの時はなるべく厨房に近付くように指示してある。厨房との通路に転移装置を仕掛けてもらっただろう。反対のホールの端が有効範囲のギリギリだ。そして逆は厨房の入口手前。サロンも八割は有効範囲に収まっている』


 頭の中に迎賓館の間取りを思い浮かべる。確かにこれなら、おおよその範囲はカバーできている。

「つまり、一斉転移にあぶれても厨房に近ければなんとかなる」

『そういうことだ』



「でも、うまく行かない可能性もありますよね」

『……転移装置が起動しないリスクを見越して二つ設置するだろう』

「二度チャンスがあるのは良いことなんですが、今言いたいのはそうではなく、有効範囲に滑り込めない可能性です」

『一度だけ攻撃を弾くことができる機能はある』

「その間に逃げろ、と。伯父様、希望的観測が過ぎます」


 ぐう、と伯父様の唸り声が聞こえる。

『時間がなかったんだ』

「時間がないのはわかってます。どちらかというと問題はスタッフがパニック時に指示通り動けるか、そして定員を超えたホールで思うように動けるかです。緊急時対応の研修、十分でしたか?」



「お二人とも落ち着いてください」

 ベルサンさんが間に入った。

「転移魔道具の設置場所をずらして、なるべく広範囲をカバーできるようにしましょう。一つだけだとサロンの一部と貴賓室が有効範囲から外れるので、二つ目でこの穴を埋めます。転移後の点呼は?」


『……マッシモが取る』

「マッシモさんなら顔を覚えていらっしゃるから大丈夫ですね。一度で全員が転移できなければ二つ目を使いましょう。ディアマンタ様、メルシエ伯爵、これでどうですか」

「……二人ともごめんなさい。ありがとうベルサンさん」


『……つい熱くなってしまった、すまない。この件が終わったら私も反省会をしよう』

 伯父が向こうで笑ったのがわかる。ふう、と肩の力が抜けた。

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