01 メルシエ商会へようこそ!
「お前よりも運命なんだ!」
運命ってなんだ。
お前よりってなんだ。
わたしは、自分の未来は自分で切り開く。
=====
「いらっしゃいませ」
出入口のドアチャイムが鳴り、来客を知らせた。
代々続く商会の跡継ぎになることが決まっているわたしは、週に数回、店に入り接客をしたりバックヤードの仕事をしたりしている。
この日は、事前に来店予約があった学生三人組の接客をしていた。
婚約者へのプレゼントを買いに来た伯爵家の御令息と、そのご友人たち。
ご友人たちは冷やかしに来ただけで、相談に乗るために来たわけではないようだ。
「こんなのいいんじゃねえ?」
と明らかにニヤニヤとした顔と本心でない声とともに指差す商品は、婚約者に渡すにはあまり相応しくないものばかり。
ガラスケースの一点をじっと見つめるメインのお客様に声をかける。
「カステリュ様、何か気になるものはございましたか?」
「あ、ああ。婚約者は文字が上手くて、何か贈り物をくれる時にはカードにメッセージを添えてくれるんだけど、手紙をもらえたら嬉しいなと思って」
「なるほど。それでガラスペンをご覧になっていたんですね。こちらはプレゼントとしても人気があります。カラー展開もありますので、カステリュ様の目や髪の色などを選ばれてはいかがでしょうか」
「僕の色!?」
「ええ。お相手の方の色でも良いですね。お二人の思い出の中に印象的な色があれば、それを選ばれるのも良いかと思います。ペンそのものにご自身の色を選ぶのは恥ずかしい、ということでしたらインクをカステリュ様のお髪や瞳のお色にされてはいかがでしょう。インクは消耗品ですから、ずっと残るわけではございませんし」
「なるほど……」
色とりどりのガラスペンを真剣に眺める御令息の向こうから、ふと視線を感じた。顔を上げると、カップルでいらしている二人組のうち、男性がじっ……とりとした眼差しでこちらを見ている。
連れの女性が「ちょっと、アマラン?」とシャツの袖を引いているが、彼に相手にする様子はない。じっと湿った目でこちらを見られて、薄気味悪さを感じたため御令息のお連れ様に視線を移した。ベテランの女性店員がついてくれているので大丈夫そうだ。
「……決めた、ガラスペンとインクにするよ。ペンを僕の色にするのは恥ずかしいから彼女の瞳の色にして、インクを僕の色……黄土色にしようと思う」
顎に手を当てたり目を閉じたり考え込んだ後、御令息は迷いのない顔でこちらを見た。
「まあ! 素敵ですね。お話をお聞きする限り、細やかな方のように思いますから、きっと色の意味に気付いてくださいますよ」
包装紙やリボンは御令息のお色を使うことにした。お会計が終わり、ラッピングのため品物を持って奥に入ろうとすると、ちょっと、と声をかけられる。
声の主は、さっきわたしをじっと見ていた男性だった。
「お探しのものがございましたでしょうか? 他のスタッフをお呼びしますのでお待ちくださ……」
「いや、君だ」
「……どういうことでしょうか?」
「探していたのは、君だったんだ! 君は僕の運命なんだ!!」