表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
メンヘラ彼女との別れ方。  作者: 書峰颯


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

39/56

第三十八話 親の気持ちなんて理解出来ない

※加佐野天音視点

 流星君が目の前で逮捕された。

 そしてすぐ横で二人のお母さんが倒れ、瑠香ちゃんが叫んだ。

 何もない朝だったはずなのに、いきなり世界が変わる。


「加佐野天音さんですね」

「え……あ、はい」

「保護いたします、こちらにどうぞ」


 頭の中が真っ白だった私は、警察官に言われるがまま、外にあった車へと乗り込む。

 乗り込んだ後、お化粧も何もしていないことに気付いて、急に恥ずかしくなった。

 恥ずかしくなったのと同時に、ようやく、頭が回転する。


「あ、あの、私、どこに連れて行かれるんですか?」

「一旦は警察署へと向かい、その後はご両親へと引き渡します」

「え、でも私、保護とか必要ないんですけど」


 私の問いに、警察官は何も答えてくれず。


「流星君だって、無理やり連れて来られてきた訳じゃないんです、彼は何も悪いことをしていません。それに、お母さまが倒れていたじゃないですか、瑠香ちゃんだって一人じゃ何も出来ないですし、私が側にいないと大変なことになってしまうと思うんですが」


 何を言っても、警察官は無反応だった。

 喋っている間に、どんどんアパートが遠くなっていく。


「あの、聞いてますか! 私、家に帰りたいんですけど!」

「君の帰る家はあのアパートじゃない、ご両親が待つ実家だ」

「そんなのお願いしていません! 帰らせてよ! 早く、車から降ろして!」

「暴れないでください、我々は貴方を保護しているのです」

「いらないから! 保護される必要なんてないの!」


 どれだけ暴れても、どれだけ叫んでも、車から降りることが出来ず。

 やがて到着した警察署でも、手錠こそなかったけど、強引に部屋に詰め込まれることに。

 流星君や瑠香ちゃん、お母さんのことが心配で、気が気じゃなかった。


「天音」


 数時間が経過して、ようやく両親が現れてくれた。

 これで警察署から解放されて、二人の下に行ける。


「お母さん、私、流星君のところに行かないと」

「とりあえず、今は車に乗りなさい」

「ダメだよ、急いで彼の逮捕が間違ってるって言わないと」

「天音、いいから、今は言うことを聞いて」


 いつになく、お母さんの言葉が強かった。

 私が登校拒否になった時だって、優しかったのに。

 車にはお父さんもいて、私が車に乗っても無言のまま。


(流星君……) 


 雰囲気を察して、私も何も言わず。

 走り始めた無言の車内で、一人、彼の無事を祈った。




 数時間後、高速道路を降りた後、車が家へと向かっていないことに気付く。


「お母さん、これ、どこに行くの?」

「病院、天音が性病に感染してないか調べに行くの」

「性病? なってる訳ないじゃん。流星君としかしてないし」


 ケラケラと笑ってたんだけど。

 助手席から振り返ったお母さんは、物凄い形相で私を睨みつける。


「……何よ」

「……」

「何か文句あるんでしょ。言ってよ、私バカで分からないから」

「本当……貴方は」

「だから、ちゃんと言って! 分からないって言ってるでしょ!」


 後ろから助手席を蹴りつけるけど、お母さんは前へと向き直り、何も言わず。 

 それでもしばらく蹴り続けていると「やめなさい」とお父さんに言われ、蹴るのを止めた。


(病院行って家に帰って、また抜け出せばいいか)


 警察に逮捕されてしまったのだから、すぐに駆け付けたところで何かが出来るとは思えない。スマートフォンで調べると、逮捕から三日間は弁護士しか会うことが出来ないとあるのだから、しばらくは家にいても問題ないはず。


 瑠香ちゃんも気になったけど、警察がいたんだ、任せても大丈夫だと思う。


 病院に行って性病検査を受けたけど、下半身を知らない人に晒しただけで、特に何の意味もなかった。避妊もしていたのだから、当然の如く妊娠もしていない。いたって健康、ただ、産婦人科の人たちは、私の腕の傷を見て、ちょっと変な顔をしていたけど。


「これで分かった? 私と流星君は、ちゃんと将来を考えてたんだからね?」


 全てが誤解のまま実家まで連れ戻されてしまったのだから、謝罪のひとつもして欲しいくらいだ。なのに、両親は車の中で何も言わず、一言も発しないまま車を運転し続ける。


(ごめんなさいぐらい言えばいいのに)


 何も言わない両親に怒りを覚えた私は、無言のまま助手席を蹴り続ける。 

 お父さんも何も言わないみたいだから、ずっと、家に着くまで延々と蹴り続けた。




「部屋にいるから、来ないでね」


 帰りたくなかった実家、自分の部屋に行き、そのままベッドに横になった。

 無駄に綺麗にされた部屋。

 お母さんが勝手に掃除したんだろうなって思うと、イライラする。

 長距離移動で疲れちゃったのか、物凄く眠い。

 朝早くに起こされたのだから、眠くて当然か。


(あ、そうだ、瑠香ちゃんに連絡しないと)


 いろいろな事が重なり過ぎて、すっかり忘れてた。

 スマートフォンを取り出して、さっそく瑠香ちゃんに連絡しようと思ったのだけど。


(……あれ? 通話が出来ない。電波無し? なにこれ)


 スマートフォンの電波が一本も立っていない。

 家のWi-Fiも全然繋がらない。

 こんなのじゃネットも見れないし、電話も出来ないじゃない。

 ルーターの線でも抜けてるのかな?


「ねぇ、お母さん、スマートフォン使えないんだけど」


 両親二人とも電気屋さんで働いてるくせに、家がこんな状態なんてありえない。

 だから、文句のひとつでも言ってやろうと思ったのだけど。


(ん? 扉が、開かない)


 部屋に鍵なんか付けた記憶ないのに。

 どれだけやってもビクともしない。


「ねぇ、お母さん、扉開かない!」


 叩いても蹴っても何をしても、扉が開く気配がなかった。

 扉が開かないのなら、窓から降りてしまえばいい。

 二階くらいの高さなら、飛び降りても問題はないはず。


 部屋にある窓へと向かい、勢いよく開いた。

 そして、目の前にあるものに驚く。


「なにこれ」


 格子状の金具、溶接されているのか、何をやっても外れない。

 数回蹴りを入れてみたけど、ダメだった、外れる気配がない。


 そこでようやく、私は気づいたんだ。

 これ、監禁されてる、ってことに。


「ちょっと……なにこれ、冗談でしょ?」


 スマートフォンも、きっと勝手に解約したんだ。

 そして家のWi-Fiも切断してしまえば、スマートフォンはただの板に成り下がる。

 部屋にパソコンもないし、インターネットの類が何ひとつとして存在しない。


「天音」


 現状を把握していると、お母さんが扉越しに声を掛けてきた。

 怒りの沸点が一気に上昇して、部屋の扉を殴りつける。


「開けて! ここから出して!」

「ダメ、事が落ち着くまで、天音は部屋の中にいなさい」


「ふざけないでよ! 私には行くところがあるの! 流星君だって助けないといけないし、瑠香ちゃんだってお母さん倒れてたんだよ!? あの子一人じゃ何も出来ないよ!」


「警察が全部対応してるって聞いてる、貴方が行く必要はないの」

「勝手に決めないで! 出してくれないなら私、窓からずっと叫ぶからね!?」


「叫べばいい、この町に住む全員が貴方のことを理解しているから。どれだけ叫んでも、誰も何もしない。全員が、天音のことを思って、何もしないでいてくれるから」


 最悪だった。

 扉から離れて、窓を開けて、絶叫する。


「誰か助けてーー! 閉じ込められてるの、誰でもいいから助けてーー!」


 力の限り叫び続けた。

 でも、誰も何もしてくれない。


「なんでよ……どうして、この町は」


 格子を掴み、頭を押し付ける。

 歯がゆくて、怒りで頭がどうにかなりそうになる。


 小さな町だから、大人たちは全員に繋がりがあるから。

 この家からはショッピングモールだって遠い。

 昔は商店街だったけど、今は開いてるお店なんて一軒もないんだ。

 歩く人もいない、誰もいない町で、私は叫び続ける。




「本当、最低……」


 もう、喉が痛い。

 夕日が眩しい中、人がいない町を眺める。

 昨日までは毎日が楽しかったのに。


 叫ぶことを止めて景色を見ていた、すると。


「え?」


 突然腕を取られて、そのまま後ろ手に手錠が掛けられてしまった。

 振り返ると、そこにはお父さんの姿が。


「な、なに? ……お父さん?」

「すまない、お父さんには、こうする事しか出来ない」

「え、ちょっと待って、手錠とか、なにこれ、外れないよ?」

「高かったからな、警察でも使用している、黒色アルミ合金製だ」

「そうじゃなくて、私、両手が使えないんだけど」


 お父さん、窓を閉めて、そのまま部屋から出ようとしている。


「ま、待って、私も外に」

「ダメだ、天音はこの部屋で反省しなさい」

「反省って、何を?」


 その場にへたり込み、お父さんを見る。

 以前は太っていたお父さん、今は痩せていて、なんだか角ばった感じだ。

 そんなお父さんが、部屋の扉の前に立ち、ため息をついた。


「天音、今、大樹君がどうなっているか、知っているのか?」

「大樹? 別れてから一度も連絡を取ってないから、知らない」

「……大樹君な、死にかけてたんだぞ」

「大樹が? どうして?」

「どうしてって……天音のことが好きだったからに決まっているだろう。あの男が送り付けた動画を見て、大樹君は精神を崩壊させてしまった。発見された時は骨と皮だけになり、人の目も気にせず錯乱していたそうだ。天音だってそうだろう? 彼に会いに行くために、家を強引に出たんじゃなかったのか? 相手が大樹君だから、私達も安心して任せていたのに」


 大樹が死にかけてた?

 私と流星君が送り付けた動画を見て?


「うふふっ」

「何がおかしい」

「大樹もようやく、私の価値を理解したってことね」


 もっと早く、私という価値を見出していれば良かったのに。

 高校の時、向こうから別れを告げてきたんだから、自業自得だ。


 立場が逆転しているからか、大樹がどうなろうと気にもならない。

 それよりも、私が気になるのは流星君、ただ一人だ。


「とにかく、天音をこの部屋から出す訳にはいかない」

「手錠は? ずっとこのままって訳じゃないでしょ?」

「……外すつもりはない」

「は? だって、このままじゃトイレも行けないけど」

「全部私達が手伝う、ご飯もトイレもお風呂も、全部だ」

「ちょ、ちょっと待って、本気?」

「本気だ」


 お父さんはそう言い残すと、そのまま部屋を出ていってしまった。


(手錠……本当に外れない)


 後ろ手になってしまったから、窓を開けることも出来ない。 

 スマートフォンは使えない、部屋にあるのはテレビだけ。

 私の環境から、インターネットが、完全に消えてしまっていた。


(流星君……)


 連絡の取れない彼の無事を、部屋からただひたすらに祈り続ける。

 そしてあわよくば、私をお姫様のように救い出して欲しい。

 私が頼れるのは、流星君しかいないのだから。

次話『知りたくなかった現実を捨て、夢の世界へ』

明日の昼頃、投稿いたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ