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メンヘラ彼女との別れ方。  作者: 書峰颯


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第三十五話 終わりの始まり

※渡会流星視点

 人間、根っこの部分は変えられないものだ。

 そこら辺にゴミを捨てる奴は、いくら注意したところでいつかまたゴミを捨てる。


 逆に、しない奴は生涯ゴミを捨てることは無い。

 浮気も同じ、しない奴はしないし、する奴は何があったって繰り返す。


 加佐野天音は、過去に浮気をしている。

 この女は、浮気が出来る女だ。


 今は神山に申し訳ないとか言っているけど、その建前を崩しちまえばいい。

 (もっと)もらしい理由と、それなりの建前と正義を用意しておけば、あっという間に落ちるはず。


 その予想は、見事に的中した。

 天音は一度俺に身体を許すと、その後は簡単に股を開くようになった。


 でも、事を済ませた後、罪悪感から涙を流すんだ。

 誰も聞いていない場所で謝罪し、それを聞いてやることで満足する。 


 ――どう? 私、とても可哀想でしょ?

 ――ああ、そうだな。

 ――こんなに可哀想なんだから、きっと大樹も許してくれるよね?


 イカレた思考回路に、心の中で反吐が出る。

 こういう女を、メンヘラ女って言うんだろうな。

 腕に残る傷だって、コイツ等からしたら勲章のようなものだ。


「大樹、泣いちゃうかな」

「泣くだろうな、でも、それも必要なことだ」


 メンヘラ女との離別方法は、他に男を用意するしかない。

 基本、コイツ等は男に依存する生き物だ。

 誰かが生贄にならないといけない。


 幸い、俺は他に好きな女もいないし、付き合っていた彼女もいない。

 聞けば、神山とはセックス出来ていないみたいだし、アイツとは穴兄弟にならずに済む。


 それに、メンヘラの割には、天音は綺麗な体をしていた。

 性行為に及んだ形跡がほとんどない、それが逆に怖いと思える。


 この女は、どれだけ一途に神山を想い続けていたのか。

 それだけ深い愛を持ちながらも、浮気が出来る理由は何なのか。


 俺が大学生で教授とかを目指していたのなら、研究対象にしていた可能性だってある。

 それぐらい、理解に苦しむ存在だった。


「ただいま、瑠香、ちょっとお客さん入るぞ」

「え? また? 連絡くらい頂戴って言ってるじゃん」


 天音を連れて家に帰ると、さっそく瑠香が下着姿で出迎えてくれた。 

 高校生になり、それなりに見れる体つきになってきたのに、瑠香はまだまだ幼稚だ。


「普段から服くらい着とけ」

「あれ? お兄ちゃん、その人は?」

「ん? ああ、今日から一緒に住むことになった、加佐野天音さんだ」

「へ? 今日から一緒? この家に住むの? こんなに狭いのに?」


 二部屋しかない我が家、ひとつは母さんだし、残るは俺たち兄妹の部屋だ。

 ここに天音も一緒となると、窮屈になるのは必須。


「あー、そうだな、瑠香、一泊二千円で友達の家に行くんだっけ?」

「え?」

「じゃあ六万渡すから、一か月宜しくな」

「いやいやいや! さすがにそんなに泊まれないから! バカじゃないの!?」

「冗談だよ。そんなに長くないと思うから、しばらく我慢してくれや」


 なんて、いつも通りのやり取りをしていると。


「ふふっ……流星君の家、面白いんだね」


 天音が口元に手を当てながら、笑いやがったんだ。

 その仕草とか微笑み方が、なんていうか、楚乃芽にそっくりで驚く。


「お兄ちゃん……この人、どこで拾ってきたの」

「お前、拾うとか言うなよな」

「だって、めちゃくちゃ綺麗じゃない?」


 何も知らなければ、天音は可愛いし綺麗な女だ。

 伸びた髪は艶があるし、スタイルだってグラビア並みに良い。

 少なくとも、床で下着姿で寝そべってる妹の瑠香じゃ、一生かかったって勝てない相手だ。


「ともかくだ、これから一緒に住むから、宜しく頼むわ」


 こうして、俺は神山から天音を奪うことに、無事成功した。

 その後、天音と二人でラブホテルへと行き、撮影まで敢行した。

 乗り気じゃなかった天音だったけど、説得し、無事動画を撮ることにも成功する。


 ここまでしたんだ、この後、何が起こったって天音が神山の所に戻ることは無い。

 いや、戻りたくても戻れないと言った方が正しい。 


 撮影し、神山に送り付けまでしたんだ。

 向こうが受け入れられるはずがない。




「瑠香、この家、引っ越してもいいか?」

「え、マジで?」

「だって、狭すぎるだろ?」


 2Kに四人、というか、一部屋に三人は、さすがに狭すぎる。


「私、自分の部屋が欲しい!」

「母さんと天音の部屋も必要だから、四部屋は欲しいところか」

「私の部屋は、流星君と一緒でいいよ」


 天音の言葉を聞き、瑠香がニヤケながら肘で突いてきた。


「……じゃあ、3LDKで検索するか」


 物件が決まると、そこからの引っ越しはあっという間だった。

 就職して稼ぎがある、それだけで世間は俺という存在を認めてくれる。


 車に可能な限りの荷物を積み込んで、それを五往復くらいして、ようやく元の家が空っぽになった。


「お世話になりました」


 空っぽになった我が家へと、瑠香が頭を下げる。

 その日の内に引っ越しの挨拶を済ませ、夜になってようやく落ち着くことが出来た。


「流星君」


 そして、二人きりの部屋を手に入れた途端、天音は俺の身体を求める。

 ずっと我慢させていたのだろう、その日の夜は、いつもよりも激しかった。



 

 秋になり、俺が天音を寝取ってから二か月が経過した。

 楚乃芽と神山がどうなったのか、気になっていたのだけど。


「……繋がらないか」


 楚乃芽が電話に出ることは、一度もなかった。

 俺がしたことを考えれば、それも当然だろう。


 でも、これで神山から天音は離れたんだ。

 楚乃芽も大手を振って、神山の側にいるに違いない。


 遠くから彼女の幸せを願う。

 それだけで、俺は充分だ。



 ――――ピンポーン――――



 朝早くに、突然、家のインターフォンが鳴った。

 俺も天音もまだベッドの中、一体誰が来たのかと、疑問を顔に浮かべる。


 その後も数回鳴らされると「渡会さん、いますよね?」と、男の声が聞こえてきた。

 声の感じからして大人、それも年配な感じだ。


「ちょっと、出てくるわ」


 ベッドに天音を残して廊下へと出て、玄関へと向かう。

 見ると、瑠香も不安そうな顔を、部屋から覗かせていた。


 つまり、瑠香の知り合いでもない、ということ。

 一体誰が来たのか、まだ眠いのを起こされたという若干の怒りと共に、玄関を開けた。


「おはようございます、何か用ですか?」

「ああ、アンタ、渡会流星さん、本人で間違いないですか?」


 ぶっきらぼうな言い方の中に、無理やり丁寧語を混ぜた感じ。

 威圧を感じながらも、俺も素直に応える。


「そうですけど、アンタ達は?」


 見れば、男は複数人いる。

 只事ではない何かを感じ取りながら待っていると。


「私達、こういう者でして」


 男は、縦に開いた手帳を俺に見せつけてきた。

 ドラマとかで見たことがある、警察手帳だ。


「法定代理人である加佐野天音さんのご両親から被害届が出されてるんだ。これが逮捕状、読めるよな?」

「な、ちょっと待って、俺たちは」

「渡会流星、私事性的画像記録の提供罪、名誉棄損罪、公表目的提供罪、撮影罪により、〇六時十三分、通常逮捕します。貴方には黙秘する権利があります。言いたくない事は無理に言う必要はありませんし、話したくないことは一切話さなくても構いません」


 凄い力だった、抵抗なんか出来ないレベルで、俺の両手に手錠が掛けられる。


「ちょっと待ってくれ! 俺たちは恋人同士なんだ!」


 天音には何度か家に連絡をした方がいいんじゃないかって、聞いたことがある。

 その都度、天音は「後で連絡するから大丈夫」と言っていたのに。

 俺自身が天音にあまり関心がなかったことが、今の状況を招いちまったのか。


「加佐野さんのご両親から、加佐野天音さんは精神的に問題がある状態だったと証言を出されている。彼女の中学校、高校からも、不登校だった事実を把握済みだ。精神病院に通院した履歴もあり、彼女は精神障害者二級を取得している。基本的に、成年の家出に対して警察は動くことはしないが、相手の精神に問題がある場合は別だ。加佐野天音さんの保護は、最優先される」


 天音が精神障害者だった、それは言葉にされなくても納得できる部分だ。


「だからって、逮捕は」

「言ったろう? 逮捕は加佐野さんの保護とは別だ。お前さんが撮影した動画を、加佐野さんのご両親も視聴し、こうして警察が動いた」


 天音の両親が、あの動画を。


「言いたいことがあれば署で聞かさせてもらう、さ、車に乗るんだ」


 神山に送りつけたんだ、アイツが天音の両親に見せる可能性は、ゼロじゃない。


「お兄ちゃん!」


 瑠香が寝巻姿のまま、大声で俺を呼んだ。

 そりゃそうか、実の兄が逮捕とか、洒落にならねぇ。

 だが、瑠香は俺の予想に無い言葉を発した。


「お兄ちゃん、お母さんが!」


 母さん? 

 見れば、開け放たれた玄関の先、部屋の扉を開けて、倒れている母さんの姿があった。

 なんで、部屋で寝ているはずの母さんがそこにいる?

 どうして、瑠香の腕に抱かれて倒れているんだ?

 母さんの全身が震えて、口から泡が。


「お母さん、息してない!」


 ――――――――!


「ちょ、ちょっと待ってくれよ、母さん、母さん!」

「ダメだ! お前はこれから警察に行くんだ!」

「離せよ! 後で全部言うこと聞くから、今は離してくれよ!」

「救急車の手配はした! 後のことは警察がやる! お前は車に乗るんだ!」


 警察官の力は、俺なんかが抵抗しても、全然通用しなかった。

 警察署へと連行された後、取り調べを受け、その後留置所へと拘留される。


 数時間前まで部屋で天音と寝ていたのに、今や冷たい壁の中だ。

 すぐさまやってきたのは、家族ではなく会社が雇った弁護士だった。


「これは提案にしか過ぎませんが、自主退職することをお勧めします」

「自主退職……」

「はい、その方が渡会さん個人にとって、有益であるかと」


 たった一枚の紙、そこに名前を書くだけで、俺の会社勤めの人生が終了した。

 ここまで早く会社が動いたってことは、間違いなく俺は処罰されるのだろう。


 だが、まだ、逆転の一手は存在する。


 天音が両親を説得し、被害届を取り消せば、俺はすぐさま解放されるはず。

 そうすれば、倒れた母さんの介護も出来るし、また働くことだって出来る。

 そうじゃねぇと、瑠香が完全に一人になっちまう。

 父さんがいなくなって、母さんが倒れ、俺までいなくなっちまったら。


「俺、何やってんだよ……」


 一番大事にしなくちゃいけないのは、誰でもない瑠香だったんじゃないのか。

 今頃それに気づいたところで、もう、どうにもならない。


 そして、唯一の望みは。


「渡会さん、起訴状が届きました」


 見事に打ち砕かれ、終わっちまった。

次話『一番信頼出来る人』

明日の昼頃、投稿いたします。

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