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第一話 告白

 小学校も中学校も一クラスしか存在しない。そんな現状に母さんたちは子供が減ったと口にするけど、当人である僕たちは、特にそれを多いとも少ないとも思わなかった。ただ、毎日同じ面子と顔を合わせ、大体が同じ話題で、同じような日々を過ごしているからか、面白みが少ない、とは感じていたけれども。


 そんな義務教育な日々に色が付いたのは、彼女が転校して来てからだった。

 中学二年、夏休み前の冷房が効いた教室にて、教壇前にて静かにお辞儀をする。

 揺れるおさげ、他とは違う雰囲気に、クラスメイトも息を飲んだ。


「東京から転校してきた、綺月(きづき)楚乃芽(そのか)です。宜しくお願いします」


 艶めく髪からして地元の女子とは違う、制服も白がベースの、とても可愛らしいもの。

 まるでスマートフォンやテレビ画面から出てきたような、二次元のような存在。

 アイドルっていう言葉がぴったりの彼女は、空いていた僕の隣へと、着席したんだ。


「お父さんの仕事の都合でね、引っ越ししてきたんだ」


 休み時間になった途端、クラスの女子が綺月さんの席へと集まり、質問攻めをする。

 隣に座る僕は眠ったフリをしつつも、聞き耳だけはしっかりと立てていた。


「えー? じゃあ、またすぐに転校しちゃうかもしれないの?」

「今回はしばらく時間かかるって言ってたけど、早い時は一か月もいなかったんだよ?」

「え、何それ、それじゃあ友達も出来ないよね」

「さすがにね、自己紹介して終わっちゃった感じだよ」

「ウチの学校には長くいられるといいね」

「うん、出来る限り、長くいられたらいいな」


 聞く限り、綺月さんの交友関係は、どこまでも広く、どこまでも浅い感じだった。

 深く付き合ったとしても、いつかは別れの時が来る。


 ウチの学校の女子たちもそれを何となく感じたのか、初日こそ綺月さんの席に集まっていたけど、次第にいつもの面子だけで話し合うようになり、綺月さんもそれを察したのか、一人で過ごす時間が次第に増えていった。


「それ、シャドモンでしょ?」


 そんな彼女が突然、僕へと話しかけてきたんだ。


「私も前の学校の友達に誘われてね、結構ちゃんと遊んできたんだ」


 話し相手がいなくてつまらないから、という理由ではなさそう。


「ランクは? 私、これでもハイパー級だよ?」

「そうなんだ。僕はマスター級だけどね」

「え、マスター? 嘘でしょ? マスターって、動画配信の人が何十時間と掛けてやっとたどり着くランクでしょ? そんな噓ついたって、対戦すればすぐに分かる……わ、本当だ!」


 見栄を張る必要もないし、僕は素直にスマートフォンの画面を彼女へと見せる。嘘だと思っていたのか、綺月さんは僕からスマートフォンを奪い取ると、食い入るように画面を注視した。


 彼女が画面に注視している間、僕は間近に迫る彼女の顔に見入る。


(睫毛、長いな。それに何か、良い匂いがする)


 転校初日からずっと思っていたけど、やっぱり綺月さんは可愛い。

 近くに来てくれただけでドキドキするし、なんか嬉しいと思う。

 視線が顔から下に行きそうになった瞬間、彼女が画面から目を離した。

 僕もあわてて視線を外し、どこも見てませんアピールをする。


「戦歴、二千戦以上もしてるんだね、デッキとか見てもいい?」

「それは、戦って味わった方がいいと思わない?」

「それはそうかも。種を知った手品じゃつまらないものね」


 彼女は自分のスマートフォンを取り出すと、シャドモンを起動した。

 デジタルカードアプリ、シャドモン。

 流行りの物に手を出しておいて良かったと思ったのは、これが初めてだ。


 遊び始めたのは彼女と同じ、友達に誘われたから。でも、誘った友達は早々に飽きたのか別のゲームを遊び始め、結局、僕は一人で黙々と、オンラインバトルに精を出してきた。


「うわ、コイントスえぐっ」

「こればっかりは運だからね」

「それにしても強すぎじゃない? チートを疑っちゃうな」


 最初は飽きた友達を恨みもしたけど、こうして綺月さんとの二人だけの時間を堪能できるのだから、むしろ感謝だ。


「はぁ、負けすぎちゃった。それなりに自信あったのにな」

「攻略情報に頼りすぎだからじゃない?」

「結果を出した環境デッキだよ?」

「環境デッキは情報出尽くしてるから、対策されてると思った方がいいよ」

「むぅ……まぁいいや、とりあえずフレンド登録しておこっか」


 当たり前のように、僕たちはゲーム内にてフレンドになった。

 綺月さんのプレイヤーネーム、KIZUって書くんだ。

 なんてことを思っていたら、彼女の方も僕の名前を見て、ぼそっとつぶやく。


「大樹って書いて、たいじゅって読むんだ」

「うん、僕の本名。神山(かみやま)大樹(たいじゅ)

「へぇ……普通に大樹(だいき)だったら、大ちゃんって呼ばれるのにね」

「違うからね。その呼び方じゃ僕は振り向かないよ」

「ふふっ、分かった、気を付けるね」


 別に、彼女になら何と呼ばれても振り向く可能性の方が高かったけど。

 それは恥ずかしくて、口から出ることはなかった。


「それにしても、大樹っていい名前だよね」

「まさか、下の名前で呼ぶつもり?」

「ダメ?」

「ダメじゃないけど」


 にひひって笑う綺月さんを見て、これは言ったところで止まらないなと、一人悟る。


 綺月さんとフレンドになって分かったことだけど、彼女は思っていた以上にゲーマーで、そして負けず嫌い。連敗すると躍起になって再戦を挑んでくるし、新弾カードパック配信の時なんかは、配信と同時に主要カードを揃えてしまうレベルだった。一回千四百円もする課金を普通にするのだから、お金持ちでもある。


「え? だって、全カード使ってみたいって思わない?」

「思うけど、手に入らないし」

「情熱が足りないな、そんなんじゃ大事な時に負けちゃうよ? あ、分かった、だから環境デッキ使わないんだ。大樹のは使わないんじゃなくて使えない、なんだね」


 ナチュラルな嫌味ですらも可愛いと思える。

 それだけの魅力が、綺月さんにはあった。




「大樹、お前、綺月さんと仲良いよな」


 夏休み直前、僕は昔からの友人たちに囲まれた。


「仲が良いっていうか、ゲーム仲間なだけだよ」

「下の名前で呼ばれているのに?」

「それはプレイヤーネームだから……何? 何か問題でもあるの?」


 てっきり、彼女と僕だけが仲良くして羨ましいとか、そんな話かと思っていたけど。

 雰囲気的に、どうやらそんな感じではない。

 もっと剣呑とした、怒りを含む空気を感じ取り、僕も警戒心を増した。


「彼女の親が何をしているか、知っているか?」

「綺月さんのご両親? いや、知らないけど」

「あの子の父親、今度出来るショッピングモールの開発の責任者なんだとよ」


 ショッピングモールと聞いて、彼らが何を言わんとするかを理解した。

 高速道路出入口の近くにある、建設中の超巨大ショッピングモール。

 何もなければ「便利になっていいね」と、開発を喜んでいたけど。

 それが死活問題になっている人がいることも、僕は知っている。


「あれが完成したら、ウチは閉店するしかないの」


 クラスメイトの加佐野(かさの)天音(あまね)も、その内の一人だ。


 個人経営の電気屋さんが今も生き残っていられるのは、限界集落だからであり、加佐野電気店しかこの村に存在しなかったからが理由として大きい。建設中のショッピングモールには、系列の大型家電店が入ることが大々的に発表されている以上、顧客離れは確定ともいえよう。


「ウチだけじゃないよ? クリーニング屋さんも、総菜屋さんも、全部閉店するって。閉店したら、私はもうこの学校にはいられないの。お父さんも諦めて、都内の方で職探しするって言ってるし……ひっく……私、寂しいよ。どこにも転校したくない」


 ショートカットが似合う、いつも元気な彼女が、声を上げて泣いていた。

 最近、綺月さんに女子が近寄らないのって、こっちの方が原因だったのかも。

 彼女の親が原因で、他の子が転校してしまうかもしれない。

 だからと言って、まだ中学二年生の僕たちに何が出来る?

 どこぞやの映画みたいに反発して、立てこもりでも計画するか?

 それこそナンセンスだし、全くもって意味がないことだ。

 親がそうしているのなら、諦めるしかない。


 自分が無関係だからだろう、僕はとても冷めた感情で、けれどもそれを悟られることなく、加佐野さんに対して「加佐野さんがいなくなると、とても寂しくなるね」という言葉と共に、悲しみの視線を投げかけることが出来た。


 対立しても意味がないし、ここは無難にやり過ごすことが吉だ。

 そう考えただけのことなのだけど。


「ありがとう、神山君って、ずっと優しいよね」


 なぜか、好感度が上がった。


「天音、この際だから言っちゃいなよ」


 昔からの友達というのは、つまりはこのクラスメイト全員ということになる。

 女子の数人が加佐野さんの背中を押すと、彼女は僕の目の前にやってきた。

 泣き腫らしたから頬が真っ赤になっているのではない、もっと別の理由だと分かる。


「神山君……もしかしたらお別れかもしれないから、言うね」


 昔馴染みに囲まれながら、加佐野さんは潤んだ瞳を、僕へと向けた。


「ずっと、大好きでした。残り僅かかもしれないけど、私と、お付き合いして下さい」

次話『②第二話 夏休み、僕は彼女に尾行されていた。』

本日夕方頃、投稿いたします。

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