第十八話 女としての魅力。
オープンキャンパスは、非常に有意義な時間を過ごすことが出来た。
楚乃芽のお父さんが勤めていた会社に就職するにしても、やはりK大学が一番良い。
会社のホームページで綺月壮志郎の名前を見つけた時は、思わず拳を握ってしまった。
取締役にまで名を連ねているのだから、もはや頂点に近い。
その会社に入社出来れば、楚乃芽と再会出来る、そう信じてやまなかった。
「食堂も美味しかったし、講演会も面白かったね」
朝、キスをしてしまって以降、天音はずっと手を握ってくる。
天音は美人だし、気立ても良いし、人とのコミュニケーションも上手い。
聞き上手であり話し上手である以上、一緒にいて気を遣う必要もない。
ただ、男を見る目がないことだけが、彼女における唯一の欠点と言えよう。
それが無ければ、今頃は僕なんかよりも良い男の側に、いることが出来ただろうに。
「この後はどうするの? 入居予定の家を見るとか?」
「そこまでは考えてなかったから、適当に都内を散策かな」
「ホント? じゃあ渋谷とか行ってもいいの?」
「渋谷か、行ったことないし、いいかもね」
「ホント!? やった! 私行ってみたい場所いっぱいあるんだ!」
ぴょこたんとジャンプする天音は、周囲が目を見張るほどに可愛かった。
着地するなり抱き着いてきて、頬にキスをして、そのまま僕の胸に顔を沈める。
「ありがと大樹、えへへ、嬉し、このまま二人だけでずっと一緒がいいな」
「天音、人の目があるよ」
「いいの、ここなら誰に見られても何にもないから」
「そうは言っても、さすがにくっつき過ぎだよ」
「大樹は嫌なの?」
「常識的にね」
「そっか。でもダメ、今日は一日、大樹は私の物だから」
僕の腕に両手を絡め、胸を押し付けるようにしがみついたまま、天音は歩き続ける。
二の腕に触れる彼女の胸の弾力は、なんだか異常なまでに柔らかい。
というか、電車の時と違う。下着の感触が無い気がする。
「天音、もしかしてなんだけどさ」
「……気づいた?」
「さすがに、ねぇ、これは不味いんじゃないの?」
「なんで? 透けるような服着てないよ? 分かるのは大樹だけだよ?」
肩出しが故に、生地が透ける素材ではないのだろうけど。
露出している上部分、さらにはそこから下まで、見えそうになってしまう。
「だとしても、揺れとかで分かるものでしょ」
「いいの、大樹の彼女ってわかる立ち位置にいればいいだけの事だから」
「僕の彼女って」
「……じゃあさ、下着、買ってよ」
「え?」
「お金は私出すから、これから行くお店で、私を綺麗にしてよ」
「綺麗にって」
「上から下まで、全部大樹の好みにして欲しい」
「今のままでも、充分綺麗だと思うけど」
「ありがと。でも、やだ」
子供染みた要求だったけど。
むしろ、それが渋谷に向かう理由になるのならばと、受け入れることにした。
移動中も、電車の中も、ずっと天音は僕に胸を押し付けてくる。
理性の塊の僕だけど、さすがに煩悩が見え隠れしてしまう。
天音の双丘は、それぐらいに魅力的で、小悪魔的要素が強い。
でも、だからこそ、嫌悪感も同じぐらい募るんだ。
「ヤバい、大樹、どのお店も可愛いよ。どれにしよう? 本気で選べないんだけど」
渋谷の代表格、渋谷一〇Qに到着するなり、天音はお店の商品に釘付けになった。
季節は初夏、六月の陽気に合わせた半袖シャツが多い印象だけど。
半袖だけじゃない、肩もへそも全部出す服装が、最近の流行りなのか。
「ほら、見て大樹、これってどうかな?」
「あんまり、僕の好みじゃないかも」
「そうなの? でも可愛いよ?」
「可愛いけど、風邪引きそうじゃない?」
「……そういう視点、なんかおじさん臭いよ」
「別に、おじさん臭くてもいいけど」
「あ、ウソウソ、大樹の好みにするから、これはヤメておくね」
結局、天音が選んだのは(僕が選んだのか?)、少しサイズの小さい、ボディラインが強調される真っ白な半袖シャツと、それに合わせたリボンが左右についたグレーのミニスカート、下に合わせた灰色の鍔付き帽子の、モノトーンコーデとなった。
「どれ選んでも大体おへそ出ちゃうね」
「さっきのよりはマシだよ」
「へへ、マネージャーだったけど、それなりに運動しておいて良かった」
見た感じ、天音は他の子よりも細身だから、スカートにお腹が乗るような事もない。
伸びた髪もおさげにまとめてあるし、かぶった帽子がとても似合う。
「さて、次は下着だね」
「今つけてるよね?」
「だって、このチビTで下着付けないのはさすがに犯罪だよ。大樹が望むのなら外すけど、それって丸見えに近いよ? それが大樹の趣味なら受け入れるけどさ……」
「僕の趣味はそんな下卑たものじゃないよ」
「うん、知ってる。良かった、大樹が変態じゃなくて」
どう受け止めていいのか分からない言葉に関しては、スルーを決め込む。
「それと、このタイプの場合、買う下着ってほとんど決まっちゃうんだよね」
「そうなの?」
「うん。だって今の私見てよ、下着の柄浮いちゃってるでしょ? だから、これを隠すためにチューブトップブラしか選択肢ってないんだ。一応他にヌーブラって選択肢もあるけど、さすがにそれは大樹の趣味じゃないと思うしね」
天音の大きい胸を隠す下着の柄が、確かに浮いてしまってるけど。
それを証明するためとはいえ、あけっぴろげに晒さないで欲しい。
でも、そんな天音ですら霞むような服装が多いのも、渋谷ならではといったところか。
「でもさ」
「うん?」
「朝から肩出しの服だったよね? あれもチューブトップブラなんじゃなくて?」
「そだよ。でも見ての通り柄入りなの。少しでも大樹が喜ぶかなって思ってね」
「そか。じゃあ、買わないとだね。っていうか、お金大丈夫なの?」
「平気、お年玉三年分持ってきたから」
それはまた、結構な金額になってそうだな。
天音は混雑する店内の中、数点下着を手に取ると、どれが良いか僕に選ばせてきた。
白に黒、それとピンクのブラって、シャツが白なんだから白一択でしょ。
「白か……じゃあ、ちょっとここで待っててね」
「待っててねって、ここで?」
「うん、すぐ試着するから、ここで」
ここって、試着室の目の前なんだけど。
というか、この建物全体的に女の子だらけで、正直居心地が悪い。
天音がいなかったら生涯訪れることの無かった場所だろうな。
試着室を出入りする女の子を見ないようにしながら、待つこと数分。
「大樹、いる?」
ようやく、天音から声が掛かった。
「いるよ」
「顔だけ中に入れて」
「顔?」
「うん、早く」
言われた通り中に入れてみると、そこには下着だけの天音の姿があった。
一瞬で顔を試着室から出すも「ダメ」と再度引きずり込まれる。
「ちゃんと見てよ、おかしくない?」
「……全然、おかしくないです」
ブラジャーってよりも、胸だけを隠す服に近い感じがする。
でも、へそ周りは丸見えだし、谷間が目の前にあるし、姿見に映る背中だって綺麗だし。
「でもね、この上にシャツを着ると、こんな感じになっちゃうの」
「……思っていた以上に透けるね」
「でしょ? だから、白にはピンクの方がいいんだよ。見せてあげるね」
「うん」
「……」
「……」
「……えっと、そのまま、そこにいてもいいけど……」
「あ、ごめん」
てっきり、服を重ねたりして見せてくれるのかと思った。
さすがの天音も、目の前で着替えを見られるのは抵抗があるらしい。
いろいろとしてくるから、そういう抵抗は無いものかと思っていたよ。
「いいよ、見て」
試着室の中に顔だけを入れると、そこには先ほどと同じ服装の天音がいた。
白いチビTシャツ、けれどもそこには、透けるものが何もない。
「確かに、ピンクって透けないね」
「でしょ? 透けて見えちゃってたら嫌だし、だらしないからさ、こっちにしてもいい?」
「うん、それにしても天音って、本当に可愛いよね」
「え」
あ、しまった。
つい、素直な感想が口から出てしまった。
「……っ」
一瞬、ビックリしたような顔をした後、すぐさまその顔は真っ赤に染まった。
眉をハの字にし、頬を染め、視線を逸らしながら、髪を耳に掛ける。
次第にその目に涙がたまり、ホロリと落ちた。
「ありがと……大樹、あまり褒めてくれないから、嬉しい」
「ずっと、可愛いとは思っていたけど」
「言葉にしてくれないと、わからないよ」
「ごめん」
手にしていた服で涙を拭うと、目を細めて笑顔を見せる。
「ううん、あははっ、急に泣いちゃってごめんね、ほんと、何してるんだか」
はぁ、とため息を吐いた後、天音は自分の手の中にあるものをぐっと近づけた。
「あ、涙拭いちゃった、これも買わないと」
「僕が出すよ、それぐらい、僕でも出せるからさ」
「ホント? えへへ、じゃあ、大樹からのプレゼントだね」
泣いて笑って、また泣いて。
「ううっ、ダメだ、嬉しくて涙が出ちゃう」
「泣き過ぎだって、ハンカチ使う?」
「大丈夫、汗拭き用のタオルあるから」
しばらく泣いた後、天音は試着室から出ると、僕に抱き着いてきた。
「今日、一緒に来て良かった」
上から下まで、全てが僕の好みになった彼女は、涙で潤んだままの瞳を僕へと投げかける。
天音は目を閉じ、つんと、唇を突き出す。
普通の男なら、天音の一挙手一投足の全てに、喜んでしまうのだろう。
そして当然のごとく、唇を重ねるのだと思う。
「行くよ」
「あ……もう、ちょっと待って」
だけど、僕の心の奥底では。
彼女への嫌悪感だけが、ただただ募ってしまっていた。
次話『奇跡の再会と、変わらぬ二人の想い』
明日の昼頃、投稿いたします。
感想にレビュー、誠にありがとうございます。
作品の雰囲気を壊さないために、敢えて返信はしておりません。
完結後にまとめて返信したいと思いますので、ご理解のほど、宜しくお願いいたします。




