第十四話 三年前と何も変わらない彼との再会
※綺月楚乃芽視点
私の人生の中で、一番大好きな人は、間違いなく大樹だった。
離れたくないと思った、あの日したキスは、間違いのない私の気持ちだ。
だけど、私はまだ十四歳だ、恋愛に生きるには、早すぎる。
「楚乃芽」
「大丈夫」
「すまないな、あのまま、あの町に住めたら良かったのだけど」
「お父さんの仕事の方が大事、お母さんなら、絶対にそう言うから」
「……楚乃芽、ありがとう」
車を運転しながら、お父さんが私の頭を撫でてくれる。
心配させないようにしないといけないのに、涙が止まらない。
大樹のことが大好きだった、大好きで大好きで、たまらなかった。
だから、別れを選択した。
そうじゃないと、いつまでも引きずってしまうから。
新しい場所で生活するのに、前を引きずるのは、一番ダメだから。
「大樹にはね」
「うん」
「大樹には、幼馴染の女の子がいるんだよ。だから、私がいなくても、大丈夫」
無理にでも理由を付けないと、心が壊れそうだった。
お母さんがいなくなったのと同じぐらいに、ずっと涙が出てくる。
止まらなくて、止められなくて。
(あぁ)
こんなにも人を好きになることってあるのかなって思うぐらい、大好きだった。
忘れられない気持ちのまま、私は、彼との全てを断ち切らないといけない。
そんなこと出来るのかなって、思えてしまう程に。
新しい中学校での生活は、半年もせずに転校となってしまった。
お父さんの仕事が忙しいことは、とても良いこと。
関東にいたり、九州にいたり、北海道にいたり。
いろいろな場所に移り住んでいたけど。
(……かに座)
同じ夜空を、大樹も見ているのかな。
ううん、きっと見てない。
見ていたとしても、それはきっと、他の人と一緒だ。
あんな別れ方をしたのだから、期待するだけ間違ってる。
スマートフォンを手に取り、シャドモンを起動する。
ランキングの中に彼の名前が無いのを確認して、そのまま画面を消した。
(もう、遊んでないのかな)
そしてもう一度、夜空を見上げてしまうんだ。
一生、頭の中から消えないのかも。
そう、思いながら。
特に思い出のない中学校を卒業すると、近くの高校へと入学することになった。
希望の学科とかは別に何もない、一番近いから選んだだけ。
それでも、中学生の時とはやっぱり何かが違う。
周りの皆が少しだけ大人になったような、不思議な感覚。
まだ、隣の人の名前すら覚えられない中で、私は信じられない名前を耳にした。
それは入学してすぐ、自己紹介の時だ。
「渡会流星と申します。特技は特にありません、宜しくお願いします」
自分の耳を疑った。
中学一年生の彼が、同じ教室にいる。
振り返り見てみると、中学の時とは違って、彼は痩せていた。
向こうは私に気づいていないみたいだけど、そもそも声を掛けていいのか悩む。
(引っ越しした理由、お父さんのせいだもんね)
彼が引っ越しした後、クラスメイトが言っていたのだから、間違いない。
だけど、彼がそのことで怒るとは、今でも思えなかった。
優しくて、遊びに夢中で、ずっと笑顔を絶やさない人。
それが、私の中にいる渡会流星君だ。
高校に入学して、半年が経過した。
またすぐに引っ越しだろうなって思って、部活にも入部していない。
奇跡的再会を果たしてはいるものの、流星君と私の距離は相変わらず遠い。
彼も部活には入っていないみたいだし、そもそもが男女なんだ、近いはずがない。
クラスでお喋りしただけで噂される、そういうのはもう、面倒に感じる。
(お父さん、今日帰らないんだ)
スマートフォンに残るメッセージを確認した後、なら夕飯を作らなくていいやと、ハンバーガー屋さんへと足を運んだ。食費を気にする主婦のような懐事情ではないし、一人でいいのなら買って済ませるが一番楽でいい。
「いらっしゃいませ……って、楚乃芽?」
「へ?」
スマートフォンばかり見ていたから、カウンターの先にいる店員さんが誰なのかに気づかなかった。
ハンバーガー屋さんの制服に身を包んだ彼は、間違いなく流星君だ。
こんな場所でバイトしてたなんて、全然、知らなかった。
「楚乃芽も、こういう場所で食べたりするんだ」
「ううん、今日は夕飯作る必要なくなったから、だからここで済まそうかなって、思って」
「そうなんだ、てっきり間食か何かかと思ったよ」
「ハンバーガーを間食になんか出来る訳ないじゃない。これは立派なご飯でしょ」
「そうかも、その細身の身体なら、確かにそうだと言えるね」
目を細めると、流星君はあの日のままの笑顔を見せてくれた。
「変わってないね」
「俺は変わったと思っていたよ。同じクラスなのに全然話しかけてくれないし」
「だって、教室は何かダメだと思うし」
「確かに……はい、打ち込みOK、後で席にお持ちしますね。今日、夕飯を一人で食べるってことは、少しは時間あるってこと? 俺、今日短時間シフトだから、後三十分くらいで終わるんだよね」
「まぁ、あるけど」
「じゃあさ、ちょっと待っててよ。久しぶりなんだ、ちょっと話しようぜ」
ちょっとぐらいならいいかなって思って、席で一人待つことに。
持ち帰りのポテトを摘まみながら、待つこときっかり三十分。
「お待たせ……って、まだ食べ終わってなかったの?」
高校の制服に着替えた流星君が、私の前に座った。
途端に視線を感じる。周囲の女子の目が、流星君に向けられていた。
今の流星君、かっこいいもんな。
「私、食べるの遅いの。流星君、ポテト食べる?」
「食べていいの? じゃあ遠慮せず貰うわ」
ニッコニコの笑顔でポテトを食べるとか、なんか可愛い子犬みたいに見える。
「流星君ってさ、前は太ってたよね」
「ん? ああ、でも、実は中学一年の頃から体重は変わってなかったりするんだぜ?」
「そうなんだ」
「そ、身長だけ伸びた感じ」
「今って何センチくらいあるの?」
「百八十かな、中学の頃とくらべたら、二十センチ以上伸びたんじゃないかな」
モデル並みの身長に、柔らかい笑顔に、優しい性格。
女の子が好む三要素、全部兼ね揃えている訳か。
「流星君、女の子にモテるでしょ?」
「いや全然、というか俺、恋愛に興味ないし」
「そうなの?」
「前に俺と遊んでたから分かるでしょ? 俺、楚乃芽に惚れてる素振り見せたことある?」
「言われてみれば、ないかもね。ずっとシャドモンしてた」
「あははっ、そうそう、シャドモンしてたな。楚乃芽、俺よりハマってたし」
「だって面白かったから。流星君はシャドモン、もうしてないの?」
「さすがに、あれからいろいろあってさ、でも、アプリ自体は残してあるぜ?」
「じゃあ、久しぶりに対戦する?」
「だな、三年ぶりにシャドモン、してみるか!」
優しい笑顔と共にスマートフォンを取り出すと、彼は以前と同じようにアプリを起動した。
「あ、俺アップデートからだ。うわ、八ギガもある」
「ホントに、全然遊んでなかったんだね」
「ごめん、ちょっと待てる?」
「大丈夫。その間にポテト、食べちゃいなよ」
「お、そうだな。じゃあ遠慮なく」
ぱくぱくぱくって、食べるの早いのも昔のままだ。
何も変わっていない、昔のままの流星君だ。
「そういえばさ」
「うん」
「さっき夕飯どうこう言ってたけど、楚乃芽って、夕飯作ったりしてるの?」
「そうだよ? もう七年ぐらい自炊してる」
「凄いな。あれ? でも、学校だと学食だよな?」
「だって、作るの大変だし。買って食べた方が楽だもん」
「まぁ……そうだよな」
なんだろう? ちょっとだけ、変な間があった。
「お、アップデート終わった、それじゃあやるか」
「うん。最新のデッキで潰してあげるから、覚悟しててね」
「怖いな、まぁ、お手柔らかに頼むわ」
あの間がなんだったのか、少しだけ気になったけど。
「は、なんだこれ、今ってそんなカードあるの?」
「あるんだな、これが。はい、私の勝ち」
「なんだよこれ、ズルくね? あー、カード揃えるところからやり直さないとだなー」
彼と遊び始めると、あっという間に、その違和感はどこかへと消え去ってしまっていた。
次話『無くなった転校、変わり始める関係』
明日の昼頃、投稿いたします。




