~瀬崎蘭子の宵街日記~
ちょいとぉ…そこのあんたぁ。あたしの与太話ぃ聞いてくれないかえ?
あたしがお水デビューしたのは、遅咲きも遅咲きの、三十一歳の春あたりだったかな?
昔の知り合いだった、文香と紗子が立ち上げた【愛鈴】って名前のごく普通のラウンジ。
一年と少しの短い期間だったけど、あたしには、色濃いぃ一年だったなぁ……
あたしのデビュー当初は、連日大入り満員だったお店も、この頃になると徐々に翳りを見せはじめていて、毎日来てくれる常連さんはよかったんだけど、やっぱりここでも、綺麗にお酒呑んでいってくれるのはその筋の人達だけで、カタギ衆っていわれてたたまにしか来ない一般人の方が何かとたちが悪かったような気がするのよねぇ……
さてと、ここから先は、あたしの秘密でもばらしちゃおっかなぁ……
あたし実は、女じゃなくて、男なんだ……
故あって期限付きで女装したんだけどさ、これがまた、思いのほか人気が出ちゃって結局お店が閉店するまで、女だった。
当時はまだ、今みたいにニューハーフなんて綺麗な子は居なくて、オカマさんがほとんどだったかな……告白されたりとかして困った事もあったけど、彼女達との付き合いも結構楽しかったりしたからさぁ……それはそれで、面白かったねぇ……