ガジュパン
「まず必要なのはデジタル時計。時間はピッタリじゃないとだから、できたら電波時計ね」
そう言ってカナデはリュックから一辺十センチくらいの四角いデジタル時計を取り出し、僕とカナデの間に鎮座する年期の入ったちゃぶ台の上に置いた。
「アラームは午前三時五十五分にセットしてあるから、普通に起きてアラーム止めてもらって大丈夫。そしたら時計から目を離して、体内時計で午前三時五十七分まで数える。ここだ!と思ったタイミングでもう一度時計を見て、それが予想通り午前三時五十七分だったらその場で二回手を叩いて、やることは終了」
「了解。そうするとどうなるんだっけ」
僕はカナデに質問した。
「それが成功するとガシュパンが来て、君は死ぬ」
「あぁそれだ、ガシュパンだ」
僕には自殺願望があった。高いところが苦手な僕が飛び降りるのはトンデモナイので、先日試しに包丁を腹に突き立てたところ、痛すぎて少し引いてしまった。どうにかならないかと悩んでいた時、幼なじみのカナデから偶然ガシュパンの話を聞いた。これしか無いと思って「是非やりたい」と頭を下げて頼んだところ、カナデは大層嬉しそうに笑ってすぐに了解をもらえた。その上準備まで全てやってくれるという。
その日の夜。カナデが家に帰ってからいつも通り眠れない夜を無駄に過ごし、その時間はあっという間に訪れた。
ピピピピピピ。
アラームが鳴ったので予定通り止めて時間を確認すると、午前三時五十五分。全て順調だ。僕は時計から目を離して天井を眺めた。たった二分数えて二回手を叩くだけで死ねるなんて、ものすごく楽だ。そう思ってまったりと心の中で数字を数えていたら、六十を超えたあたりからどうも不安になってきた。
ガシュパンってなんだろう?
そもそも高いところが苦手で、その上痛いのも嫌でガシュパンに頼ることになったが、どうやって僕を殺すのだろう。
そんなことを考えているうちに数字は百を超えた。
ガシュパンが来る、ということは何か形のあるものなのだろうか。お化けか怪獣か。そういったものが僕を食べたりするのだろうか。
百十……
体から魂だけ引っこ抜いたりして殺すのだろうか。それだとしても痛みがないという保証は無い。
百二十……二分経った。
恐らく今時計を見れば午前三時五十七分になっているはずだ。
……いや、もしかしたら数えるのが早すぎて、まだ二分経っていないかもしれない。そうだな。あと六十秒くらい数えてみよう。
六十秒数えた。恐る恐る時計を見ると、ちょうど午前三時五十九分になるくらいを表示していた。
僕はなぜだか少し安心して、もう一度天井を眺めた。やっぱりまだ眠れなかったが、次の日カナデには「二度寝しちゃった。このやり方は僕に向いてない」と説明した。