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第91話 投擲

ニワメ!


 既に周囲に居た怪異家達は尋常ならざる気配を放つ男を避けるため何処か遠くの場所へと移動していた。




 宇喜田家のチームメンバーと男のみが対峙するこの状況下でたえは思考を巡らせる。




 本来はこの大会の最中で廉達、神性を持つ術式を扱える者達の実力を伸ばし、その他諸々の準備を万全にした上で国沈に対峙する予定でいた。




 しかし予定は栗重家の怪異枠の参加者に大きく狂わされる。明らかに自我を持ち、神の気配を持ち合わせる存在。



 栗重の当主が廉を始末したがっていたのは知っていたが、恐らくこれは栗重家当主の意志など無視した単独行動なのだろう。




 宇喜田全員で総力を挙げてこの男に対峙したとしても勝ち目はほぼ無いだろう。その理由は神特有の性質。国沈も持ち合わせていた神性のある属性の術式しか通用しないという特性は非常に厄介。




 この場で神性のある術式を扱えるのは廉、京子、狐翁、リーザ。



 狐翁とリーザはまだしも、他二人は元来のポテンシャルに任せてきた節のある新人であるため、戦いは非常に苦しくなるだろう。



 宇喜田のベテラン枠であるたえ自身に松、しぐろがほぼ無力化されるのが痛すぎる。




 このまま戦うのは無理筋。となればこの男と共に裕一を国沈から奪還し、即座に裕一と共に男を制圧するのがベストだろうとたえは思考する。




 「とりあえずは提案に乗ろうじゃないか。あんた、名前は何て言うんだ。」




 「今はカサイと名乗っている。協力、感謝しよう。」




 カサイと名乗った男はそう言う。




 直後、カサイの手が目にもとまらぬ早さで動く。反応出来たのはたえと松、リーザのみ。カサイは廉の斜め後ろへと懐から取り出した短刀を真っ直ぐに投擲していた。




 短刀は廉の斜め後ろの空間で宙に浮いたまま動きを止めたかのように見えたが、直後、短刀周囲の空間から赤くどろりとした液体が短刀を包むかのように溢れ出てくる。




 ドサリ、とカメレオンの擬態が解けるかのように廉の斜め後ろの空間は色を取り戻す。色を見れば隠匿術式を得意としていたヒキヤであった。ヒキヤの眉間には先程カサイが放った短刀が突き刺さっている。誰の目に見ても最早助からないと分かった。




 「貴様……?」



 ヒキヤは息を引き取る寸前、思考の回らぬ脳のさなか、ギリギリで口から一言をこぼれ落とす。




 「うちの若造が失礼。お詫びに始末しておいた。」




 カサイはそう言うと何事も無かったかのように振る舞う。




 とはいえ、宇喜田側、京子と廉に関してはそもそも人の死を目の当たりにする事も少なく、ましてや殺人等完全初見も初見なので恐怖に顔を引き攣らせた。



 「ええっと、はい……。」




 廉は恐怖に若干顔を引き攣らせながらも返事をする。何が彼を怒らせるかも分からない故、廉は恐ろしくて仕方が無いと思った。



 「じゃあ、廉、こっちに来てもらおうか。」



 カサイは再び優しそうな表情に戻ると廉へそう言い、手招きをした。




 


 

 

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