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第75話 一矢

パヤパヤ


 まだ慣れてもいない転移術式を連続で発動し続ける。それは廉にとって十分に過酷な事であった。




 廉は現在、一度の転移術式の発動に約五秒を要する。



 とはいえ術式の発動直後、転移の最中に次の転移術式の詠唱を始める事が可能である為、その発動間隔は約二秒前後となる。



 再転移までの二秒間、この二秒間をたえは的確に打ち抜いてきていた。



 「私に一発でも当てる事が出来たらあんたの勝ちで良いよ。」



 

 試合が始まる前廉がたえに言われた台詞である。



 その時、廉は本気でたえに勝てるつもりでいた。



 周りの人達から恐ろしい早さで成長していると、流石裕一さんの孫であると。この数週間前、宇喜田家で修行を行っている最中に言われた数々の台詞が、廉の自信を作り出していた。



 そんなに才能があるのならば、強いとはいえ一撃入れるくらいは出来るだろうと、廉は己の力を過信してしまっていた。




 蓋を開けてみれば廉はたえに一撃入れるどころか攻撃系術式を放つ猶予すら与えられない。廉は容赦なく叩き込まれる爆発術式から身を守る事のみにしか注力出来なくなっていた。




 「あいつ死んじまうよ。止めた方が良くない?」





 他の者と一緒に観戦していた狐は、横に立つ赤谷に心配そうな声色で問いかける。




 「大丈夫じゃ。たえさんの術式精度は裕一さんを凌ぐ程の物。うっかり廉を殺してしまうなんて事は起きんじゃろう。どこに、どれ位の威力で当てるかのミリ単位で狙う事が出来ているのだろう。その証拠にほれ。」




 赤谷は戦闘中の廉達を指差す。




 爆発術式で全身がボロボロになっているように見えた廉の胴体、身体の中心部は無傷であった。たえの放った全ての攻撃は両手両足の四肢に集中していた。




 「嘘ぉ……。」



 狙って四肢に攻撃が集中している事を察した狐は驚きによって間抜けな声を出す。



 約二秒間隔で別の場所へと瞬間移動。大した大きさではない四肢はそれぞれ完全に独立した動きをしている。



 そんな的に対して寸分の狂い無く何発も術式を当てることが出来るのは、神である孤翁から見てもまさしく神の如き技であるように見えた。




 「まぁうっかりやっちまってもここには回復術式が使える人間が沢山居るから大丈夫だろうしな!!」



 そういって赤谷はかっかっかと笑った。




 * * *



 (先を読む!先を読む!!)



 転移術式を詠唱しながら廉は必死に頭を回す。



 別の事を考えすぎて集中力が切れてしまえば転移術式の詠唱は失敗してしまう。とはいえ転移術式の発動のみに集中しては何一つ状況は変わらない。



 「がぁっ!!」



 

 転移直後、転移先の正面に前もって詠唱してあった爆発術式が発動し廉は吹き飛ばされる。



 (やっぱりおかしい!転移先が読まれている!!)



 吹き飛ばされた先で廉は再び転移術式を詠唱しながら思う。




 (心を読まれているのか?)




 「読んじゃ居ないよ。術式が当たりすぎるのは別の要因。」




 試合開始位置から一歩も歩いていないたえは悠々と廉へと語る。




 (いや!今返事してきたって事は読んでるじゃん!!)




 廉は心の中でたえの言葉に反論する。再び転移。



 「そんなに分かりやすく顔に出されちゃ読心術式を使うまでもなく何を考えているか分かっちまうよ。」



 たえは再び爆発術式を詠唱しながら言う。




 「視線、表情、予備動作、あんたは黙っていてもうるさいくらいに情報を零している。そんなんじゃちいと物を考える相手なら歯が立たないよ。」




 (そんな所を読まれて!?嘘だろう!?)



 たえの言葉を聞いた廉は驚愕の思いを抱える。




 「後はクセだね。あんた、足が右に曲がったときはそのまま右、左に曲がった時は左に転移しているね。視線も転移予定の場所一点釘付け。まだ慣れていないとはいえ、そういう読まれやすいクセは出来るだけ潰していくべきだ。もしくはクセを相手を騙すフェイクとして扱えるようになりな。」



 右肩、左足に爆発術式を打ち込まれた廉は堪らず体勢を崩す。辺りは爆発術式によって舞い上がり続けた砂埃によって視界が悪くなっている。




 「そろそろ終わりにしようかね。私もあんたに教えるべきポイントを知る事が出来て良かったよ。」




 たえはそう言い砂埃の先、先程廉が吹き飛ばされていった場所へと爆発術式を連続発動した。




 直後、何かを察知したたえは跳躍する。




 砂埃が晴れる。たえの視線の先には両手足を爆発術式で痛めつけられた廉の姿であった。



 「赤谷、廉に回復術式を使ってやっておくれ。」



 「分かりましたわ。最後、廉の坊、食らいついてきましたね。」




 終結直前、廉は砂埃によって視界が悪い状況を使い己の詠唱術式をカモフラージュ。たえとほぼ同タイミングで、一撃だけ爆発術式を詠唱していた。




 「あの状況で最後賭けられるのは中々良い判断だったね。やる子だよ。」



 たえは砂埃を払いながらそう言った。



 



 


 





 




 

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