第70話
しゃいしゃい
「あの子ですかい?裕一さんの忘れ形見ってのは。」
宇喜田家の敷地内にある、サッカーコート程の広さの運動場の一角。運動場の中心部で訓練を行う廉達を指差し、二人組の怪異家は言う。
「らしいよ。裕一さんが亡くなって暫くしてから訓練をしにくるようになったらしいけど、後継者を育ててるって感じなのかな。」
先輩とおぼしき怪異家は腕を組み、ふむ、と顎をさする。
「にしても、やっぱ才能ってあるんですねぇ。あの子達見てるとそんな気がしますよ。」
「本当にな。」
視線の先には赤谷相手に模擬戦を行う春雨寮組の三人の姿があった。三対一での模擬戦ではあるが、その訓練は既に〝戦闘〟と言えるレベルまで練られていた。
廉達が戦闘訓練を本格的に始めてから一週間。
訓練の初めは狙った術式を戦闘中に発動する事すらも怪しかった彼らは既に、戦闘の流れを頭を使いながら組み立てる事まで出来る域まで到達していた。
「にしても、術式の訓練を初めて一週間で転移術式を覚える奴なんて滅多に居ないよな。」
先輩怪異家は廉を見て感心する。
既に廉は爆発術式、転移術式を身に付けていた。流石に発動速度はまだ他の怪異家達には及ばないものの、それなりの安定感を持ち合わせている。
「あんた達、頼んでた調査は終わったのかい?」
二人組の怪異家は背後に悪寒を感じる。振り返るとそこには若返った宇喜田家の元締め、たえが立っていた。
「あっ!今から行こうと!!」
先輩怪異家は言い訳をする。
「あの子達は特別だよ。あれを見て自分と比べてしまうのは良くない。地に足を着けた訓練をしな。」
たえは怪異家達に語り出す。その内容は、まさに今怪異家達が考えていた事だった。
あの三人は恐るべき早さで成長している。かつての自分があの場に立っていたとして同じ成長が出来たか?出来ていないだろう。
どう見てもセンスにも、フィジカルにも恵まれている。少しの訓練で高い出力を出す事が出来るようになっている。肉体の霊力との親和性があまりにも高いのだろう。
そりゃそうだ。
伝説の怪異家の孫に、精霊を宿したこれまた名家の跡取り娘。さらには神様と来ている。
うらやましい。そうした感情がたえによって見透かされる。
良くも悪くも、生まれによって素質が大きく変わってしまう世界。
ある程度の地点まで行くと、今後自分がどれ程まで進めるのかが見えてしまう。
「大丈夫です。身の程は弁えていますから。おい、調査行くぞ。」
先輩の怪異家はそう言い、後輩を連れ転移していく。
たえも二人が転移していったのを見届け、何処かへと転移していった。
「そういえば先輩。たえさんって何処の生まれなんですっけ?」
転移先で後輩が頭をポリポリと掻きながら問う。
「えぇ?たえさんの出身?あの人洗脳術式とかの繊細な術式が得意だし、うーん。この近くだと与野家とかかなぁ?分からないけど。」
「何処出身なんでしょうねぇ。」
調査をしながらのんびりとした声で後輩が言う。
この二人は、たえがかつて若かりし頃、一目惚れした裕一のプロポーズに答えただけの名も無い一般人であった事を知らない。
* * *
「昔の話を聞きたいだと?かつて一度日本に降り立った時の話?嫌じゃ面倒くさい。そんなのより勝負だ。」
「いやいや、ちょびっとで良いからさ。教えてくれないと俺、勝負で手抜いちゃうかもしんない。」
国沈と俺は押し問答をする。
今は国沈に過去の国沈戦、前回の日本襲来の様子を聞き出そうと説得している所だ。非常に興味深いので、どうせならこの空間で暇な今のうちに聞いておこうという魂胆だ。
「はぁ!?手を抜くだと!?許さんぞ!!」
国沈は勝負において手を抜かれる事を非常に嫌がる。手を抜いても勝てないコイツも悪いと思う。そのくせ負けるとだだをこねるのでたちが悪い。
「じゃあ教えてよ。ちょっとで良いからさ。」
「ぐぬぬ……。やむを得んか。ならば!勝負してる最中だけだ。我が勝負している間のみ答えてやろう。」
国沈は頭を抱えながらも苦渋の決断をする。しかしそう来るとは思わなかったぞ。これじゃお前の話を聞くために戦わなきゃいけないじゃないか。
「仕方が無いか。それで良いだろう。」
「何で貴様が上から目線なんだ。」
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