第69話 修行
お米美味しい
「はぁっ、はぁっ……、おえっ。」
七月の終わり頃、早朝の宇喜田家の門前で廉はぜぇぜぇと息を切らしながらへたり込む。たえとの面会以降廉達、春雨寮組は宇喜田家の指導の下、怪異に対抗する訓練を積んでいた。
「赤谷!ちゃんと言い付け通りの距離走らせてきただろうね!」
門の前に戻ってきた廉達の気配を察知してたえは転移術式を用いて飛んでくる。
「えぇ。最近はそれなりに付いてこれるようになったもんですわ。」
廉達の教育係としてたえに抜擢されたのは、前回の国沈戦で対策部のまとめ役を任された赤谷鈴であった。
たえ曰く、「基本を丁寧に物にした人間の戦い方をするから教材として最上級。」らしい。因みに廉が最も教材として向いていない人は?と聞いた所、たえは「裕一だね。」と答えたらしい。
廉達と共に走っていたにもかかわらず、赤谷は息切れ一つ起こさずにたえの言葉に受け答えをしている。
「そうかい、じゃあそろそろ次のステップだね。あんたら!朝飯食いな!!」
裕一の編み出した若返り術式を転用したたえは若々しい見た目をしており、熊のような体型をした赤谷の側に立つとさながら裏世界のお嬢様、といった気品が漂う。
「おえっ……はいっ、うぷっ。」
「あー。バカバカ。吐くなよ。」
疲労で動けなくなって地面に転がっていた廉を狐翁が背中を擦りながら介抱する。
元々裕一の元で修行に近しい物を一ヶ月程行っていた市村京子が最も現状修行に付いてくる事が出来ている。次点で神の矜持と言うべきか、狐が動ける。
やはりつい最近まで過酷な運動と縁の遠い世界に居た廉が最も体力面では劣っているように見られる。
しかし、京子も狐も余裕の顔という訳では無く、全員が疲労困憊といった様子であった。
「こんなにキツいとは思わなかったなぁ。」
誰が呟いたかは、分からない。
* * *
「はいはいはいはい!!米食え、米!!」
たえは己の分のご飯を茶碗によそいながら廉達に活を入れる。
廉達がたえの元で修行するようになってから知った事は、怪異家は皆、ご飯至高主義であるという事だった。
一度、京子が白米ではなく食パンを食べたいと言ったところ、たえに食事も訓練の一つであると叱責された。
どういう事なのか廉達が質問を投げかけた所、たえ曰く、日本において米は霊的な力を強く持つ、という伝承がある、という話を聞いた。
内容としては、古くより米は霊的な力を多く込める存在として、人から怪異、はたまた神までが求める大切な物であったという。なんなら米を崇める宗教まであったらしい。
しかし後の怪異家達の研究で、米自体にそんな効力は存在しないと明らかにされた。
だが、霊的存在特有の「信じられ続けた物は実現する。」という性質により、現在では米の中には霊的な力が込められているのだという。
早い話、米を沢山食べれば強くなれる、という事らしい。
「食い終わったら次はストレッチして、術式の訓練じゃな。頑張れよ。」
廉の隣で山盛りの米を食べながら赤谷は廉達へと激励を投げかける。
「あ、はい……。」
廉は力なく頷いた。
* * *
左、左、術式詠んで奥に決め打ち。懐でもう一個術式詠唱したら正面に。ほれ、後ろに下がったな?じゃあおしまい。
「ぎゃあぁあぁあ!?」
背後へと数手前に置いた時差発動術式を国沈はもろに食らい、ぷすぷすと黒煙を体から上げながら倒れ込む。
「これで三千二百四戦中、三千二百四勝だな。」
俺は地面に置かれたノートに勝敗を記録する。出してくれと頼んだら国沈が特殊な術式で作り出してくれた。
「くそう。今の置き技は痛かったぞ。」
国沈は体をぱたぱたと叩きながら悔しそうに言う。
この空間へと来てからどれ程のの時が経ったか。だんだんとこの空間についての理解が進んできた。
肉体は成長もしなければ、損なわれもしない。一度どうなるのか知りたくて術式を使って己の腕を吹っ飛ばしてみたが、直後に新しい腕が生えてきた。
まぁ、生えてきた、というより直前まで空間に残されていた情報に基づいて腕が再構築された、って感じな気がするが。
国沈の核を何度か貫いてみたり、サイコロサイズまで切り刻んでみたりと色々試してみたが、直ぐに損傷が回復した為、この空間で国沈を殺す事は叶わないらしい。
まぁ同じように、俺もこの空間に居る限り死なないようだが。
国沈は俺との戦闘に楽しみを見いだしているらしく、しつこいくらいに延々と戦闘を要求してくる。まるで子供である。無視してると術式を飛ばしてくる為、俺に拒否権は無い。
「さぁ、もう一回!!」
国沈は復活した肉体で構える。一番最初の頃は、俺の肉体を模倣して構築した体を動かす事に慣れていなかったようでかなり弱かったが、最近は慣れてきたようでそこそこ強くなってきている。
術式の精度もそれなりのものとなってきており、成長が見られる。このまま成長されたら一戦辺りに掛かる労力がえげつない事になる気がしている。
「国沈さん、とりあえず一回休憩しましょうや。」
「嫌じゃ!!」
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