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第68話 生存

ドンツクツクドンツクツク


 「国沈を倒す為の戦闘はせず、あくまで裕一奪還までの時間稼ぎ。並の術式ではそもそも国沈に通用しない為、神性を持つ廉と京子殿が適正。特に廉は裕一奪還の鍵として必須……。」





 たえは口元に手を添え、考え込む。既にたえの喉はからからに乾いていた。彼女自身、家の者に心配させまいと気高く振る舞っていたとはいえ、狐の訪問まで何一つ対国沈の解決策を思い付けずに居た。




 「廉、京子殿。お前達は、裕一の為に己を命の危険のある場に置くことが出来るのか?」




 ぽつ、ぽつとたえは言葉を選びながら問いかける。




 「もちろん!裕一君がおじいちゃんだとは知らなかったけど、閉じ込められているのならまずは助けなきゃ。」





 廉はたえの問いかけを聞き、弾かれるように答える。




 「私には返さなければならない恩があります!私にとって裕一さんに恩を返せる数少ないチャンスです!」




 京子もたえの目を見据え、語る。




 

 たえは難しい表情のまま、廉達の言葉を聞く。




 「お前達の言葉は、軽い。普通の人間には、こんなすぐには命をかけると答える事は出来ない。お前達は、死を本当の意味では理解していない。だから簡単に命をかけてしまう。」




 「それはっ……。」




 廉達は言い返そうとするも、言葉に詰まる。たえの放つ、何度も死線をくぐり抜けてきた人間の持つ説得力に気圧されてしまったからだ。




 「どんなに優秀な怪異家でも、戦いの中で死を迎える殆どの者は最期に後悔を抱えて逝く。何人も、ああすれば良かった、こうすれば良かったと考えながら死んでいく仲間を見てきた。」






 たえは思う。私が今こうして、今日この日まで生きているのも偶然に過ぎないのだと。目の前で命を失っていった仲間達の仲間入りをしていた可能性は大いにあったと。そして、廉と京子、かつて死んでいった仲間達にほど近い年齢の若者に同じ思いをさせたくないと。




 「命をかけるな。己の命を最優先事項にしろ。絶対に、絶対に生きて帰るというのなら、その作戦を認めようじゃないか。」





 「本当か!!」




 狐は飛び上がる。廉達は顔を見合わ、ガッツポーズをする。




 「やった!!これで助けに行くことが出来る!!」




 

 「とはいえ、今のあんた達じゃ生きて帰るなんざ夢のまた夢。あんたらそろそろ夏休みだったね?みっちり、鍛えてもらおうじゃないか。決行予定は九月。それまでに基礎的な技術から応用まで身に付けてもらうよ。」





 たえはにこりと、彼らを見る。





 「僕は免除になりませんか?」





 狐はおそるおそる問う。





 「ならないね。」




 


 * * *





 「王手!!」




 「ばーか。そこで王手は悪手だろ。」




 「しまった!!」




 この空間に閉じ込められてからどれ程の時が経ったか。この空間にはどうやら太陽のような恒星も存在しないようで、時間感覚があっという間に失われてしまう。





 この空間に閉じこめられてから随分と長い時の間、国沈に千本組み手に近しい物を相手させられた。この空間では疲労も存在しないようでなんとか相手が出来たが、精神衛生的には宜しくない。




 今国沈と何をやっているのかというと、将棋である。どうやらこの邪神、遊びだったら割と何でも良いようで、提案してみたら割とあっさり乗ってきた。将棋盤も駒も国沈が特殊な術式で作り出したので問題無しである。



 ルールを教えたらそこそこ気に入ったようで、今は戦闘八割、将棋二割くらいの割合の時間の使い方で遊んでいる。




 将棋は昔練習した事があるので、まだまだビギナーの国沈には負けない。





 「ぐわああ!!負けた!!」




 頭をわしゃわしゃと掻き、国沈は子供のように地団駄を踏む。その地団駄は国沈のフィジカルの高さ故に地響きに近い物となるのだが。




 「突っ込みすぎたな。もっと駒同士の連携を考えろよ。」



 相手をしていた裕一はしれっとした顔で言う。




 「何を!勝負は個で強い者が居れば良いのよ!次はわしの駒を全て飛車にしろ!」




 国沈は駒を放り投げふて腐れる。




 「何言ってんだお前。」





 戦闘の方に関しても、体を人間に近しい物とした国沈はまだ動かし方に慣れていないようで、今の所負ける気がしない。時々センスの良い動きするけど。




 「あー、暇だなぁ……。」




 いつ出れるのか分からないが、もう暫くはこの思っていたよりもお茶目な邪神の相手をしなければならないのだろうと思い、裕一は溜息を吐いた。



 



 



 



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