第67話 血縁
ドンドコドン
「その笑みは何ですか。気味が悪いね。」
作戦があると言って笑みを浮かべる狐を見て、たえは少々引いたように言う。
「なんだよ。それが神に向かって言う言葉か。」
狐は不機嫌そうに文句を垂れる。
「神は神でも狐翁様、今は力を失ってるようではないですか。そんな状態で威張られてもねぇ。早く作戦とやらを聞かせて下さいよ。」
たえは挑発的に狐に追い打ちを掛ける。
「お前達は夫婦揃って不遜だよな。まぁ良いや、特別に許してやる。それより僕の考えた作戦の話だ。」
そう言って狐は空中に描画術式を発動する。この描画術式というのは空間中に発動者の脳内で描いた文字や、術式を視覚化して表示する事が出来るものである。
狐は己の手元に拙い絵を描く。歪んだ丸に、放射状にこれまた歪んだような棒が四本刺されている。円の中にはにこりとした顔のような物が描かれている。
見た目としては赤ん坊が描く、いわゆる頭足人にそっくりな物であった。
「これ何?」
狐が描画術式で描く絵を横から見ていた廉が口を挟む。
「裕一だよ!見りゃわかるだろ!」
狐は顔を真っ赤にして怒る。
「えぇ……。」
狐の絶望的にセンスが無いと言える絵を見て、たえと市村京子は絶句する。
そんなこんなで描画する事約五分、狐が図を提示してきた。
「それじゃあ僕の考えた裕一奪還作戦の概要を伝えよう!!」
狭い客室の中、狐が大声で描画術式で描いた概要を廉達に見せつける。
「まず今回のキーパーソンは廉と京子、君達だ!何故なら君達は国沈の無効耐性を無視して術式をぶつけられる神性のある術式を扱える筈だからである!」
狐は何処の知識人の真似をしているのか、不思議な口調となっている。
「京子は精霊術式、廉は僕の神聖術式!この前の国沈戦を見てみた感じ、どうやら現代の怪異家には神性のある術式を使える人材が殆ど居ない。だからそもそも国沈と対峙する資格が他の殆どの人達には無いんだよ。」
狐は無い髭を擦りながら言う。
「はいはい。僕は何の術式も使えないし、まして神性なんかある筈無いと思うのですが!」
正座したまま話を聞いていた廉は挙手し、狐翁へと質問をする。
「良い質問だ、廉君。」
「それ何の遊びですか?」
狐翁と廉の遊びに付き合いきれなくなったたえがツッコミを入れる。
「神と人の契約ってのは、実は人対神、ってだけじゃなくて、血と契約しているような物なんだ。人から何か対価を得る代わりに、神は人に対して何代にも渡る加護を授ける。本当は神は人間相手なら何人と契約しても良いんだけど……、今僕は見ての通り力を失ってて、これ以上契約を増やせないんだ。だけど、廉へなら裕一との契約があるから新しい契約を結ばずとも力を貸せる。」
神と人の交流の在り方。時の流れ方が違う存在の間での交流は、自然と家系を単位とした物へと変化していった。何十代にもわたり、その家の者を見守り続ける。
現代では生まれ育った地を離れる者や、土地の開発等によって失われる事が増えた繋がりの一種であった。
「あともう一つ、君じゃなきゃいけない理由がある。廉君。君は国沈から裕一を取り戻す上で、裕一を引き戻す為の鍵なんだ。それは血の繋がり。血、血うるさいと思うかもしれないが、僕達神や、物の怪達にとっての血のつながりは非常に大きな存在なんだ。君が国沈と対峙すれば、ほぼ間違いなく裕一と何かしらの共鳴を起こす事が出来る。」
狐は真面目そうな顔でたえに向く。
「孫達に危ない目に合わせたくないというのは分かる。だけど、これが最適解な筈なんだ。」
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