第6話 夜
よろしくお願いします。
春雨寮まで戻ると廉が寮前で待っていた。
狐には一旦姿を隠すよう伝えてある。
「どこ行っちゃってたんですかぁ…」
「ごめんごめん、喋る狐にびっくりしちゃって。」
これから狐が俺の周りをうろつくようになる以上、廉に狐の存在を認知させる必要がある。
そこで我々が春雨寮に入り次第なるべく廉を驚かせないように狐に登場してもらい、廉と狐のコンタクトを図る手筈になっている……が、上手くいくだろうか。
「あれ、なんだったんだろう…。もしかしてあれが春雨寮に住み着く幽霊だったりして…。」
廉はビビっている。そりゃ喋る狐が急に出たらなぁ。
「わからんー」
誤魔化しつつガチャっと春雨寮の門を開く。
2人とも寮内に入ると正面の廊下の奥が淡く光り出す。
「うわぁあぁ!!また出た!!!」
喚いて廉が逃げようとするがそれをされたら何も進まない。
廉の腕をがしりと掴み固定する。
狐よ。お前のその脳みそで極力驚かさないようにした作戦がこれか。
淡かった光は次第に強い光へと変わって行く。
「人の子よ。僕の名は海代之狐翁。神である。恐れるな。」
神っぽい台詞をバカ狐が言う。
折角の威厳ある台詞でもコイツが言うと一気に虚言に聞こえる。
「神…様…?」
廉が逃げ出そうとする力が弱まる。
よしよしよしよし。
「何で神様がこんな所に。」
俺が言う。話を合わせていこう。
棒読みになった気がするが気のせいだ。
「訳あって狐の姿になっている。今日はお前達に頼み事があって出て来た次第だ。」
「頼み事って何ですかー。」
これは間違い無く棒読みだ。
演技だけはいくらやっても上手くならんな。
「僕は人間の暮らしが知りたくなった。よって今日からお前達と共に暮らす。」
狐の顔がだんだん赤くなってきている。
もしかしてこいつ神様感出す喋り方恥ずかしいのかな。
「そうだったんですね!!分かりました!よく見たら狐さん可愛いですね!!」
ちょっっろ。
いや、廉は純粋で良い子だなぁ。可愛い可愛い。
でもおじいちゃんそのちょろさは心配になるぞ。
「そうだろう!?」
狐の顔がぱぁっと明るくなる。
コイツもちょろいな。
という事で我々2人から公認で狐が春雨寮に住み着く事となった。
もう寝ようかという頃、狐が話しかけてくる。
廉は既に寝ている。
「なぁ。お前らは明日から高校に行くんだろ?」
「そうだが。」
「僕も高校生になりたいなー。なんて思うのだけど。良いだろ?」
「お前狐じゃん。」
「人間に化けるぐらい今の僕でも出来る!お前色々と常識外れだろ?僕を高校生にぐらい簡単に出来るだろ?流石に今の僕じゃ書類改ざんとかは出来ないから。」
「うーむ。」
確かに高校にも着いてきてくれたらこの狐の管理も楽だなぁ…。
「分かった。校長呼ぶわ。」
「えっ」
遠隔転移系の術を貼る。
数秒して、春雨寮の談話室に校長が転移してくる。
「えっ、裕一さん?えっ?」
もう日付は回っているというのに校長はまだスーツ姿だ。かなり忙しく働いていたのだろう。
「校長、急で悪いがもう1人入学を許可してやってくれ。」
「え、誰を…。」
「僕だ。我が名は海代之狐翁。よろしく頼むぞ!」
校長は喋る狐をここで初めて認識する。
「えっ、狐翁様!??ここで何を!??」
「えっ、知ってんの?」
「海代グループの初代会長はかつて狐翁様のアドバイスに従い財を築いたと聞いております……。グループ名も狐翁様からと……。」
「そういえば何かそんな事もあった気がする。」
狐はあんまり覚えていないようだ。
それなら話が早い。
「そういう事だ。明日からこいつも高校に行けるようよろしく頼むぞ。」
「訳分からないのですが…!?しかも狐翁様をこいつ呼ばわり…。」
校長は混乱しつつも狐の怒りを買っていないか恐れる。
大丈夫だよ。今こいつそんなに強くないから。
校長は半ば放心状態で俺に転移で元の位置に戻されていく。
忙しいのに仕事増やしちゃって申し訳ないなぁ。
でもいつでも頼れって言ったのは校長だから俺は悪くない。
こうしてとても濃い高校生活の初日は幕を閉じた。
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