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第62話 後悔

あっ


 現代国沈戦調書より―



 「私は渦から東、他の仲間と共に五家の華一さんを援護しながら怪異の処理を行っていました。長い間、渦直下からは裕一さんと国沈が戦う音が聞こえていました。まるで戦車のような轟音です。そして、ある瞬間からピタリと音が止んだんです。最初は裕一さんが国沈を倒したと思ったんです。でもまさか、あんな事になるとは……。」








 * * *




 国沈の頭部へと神聖爆発術式を放ったその瞬間。




 「ふふ……ふ。素晴らしい!楽しいぞ!!まだやろう!!」




 神聖爆発術式で頭部を吹き飛ばしたにも関わらず、何処で喋っているのか国沈は喋り続ける。




 頭部が無くても平気?神であるならそれもあり得るか。




 「裕一!!核を壊せ!!」





 背中におぶった狐は俺に指示を出す。あぁ、そこか。





 探知術式を用い、国沈の体の中心部に核がある事を看破する。追撃だ。国沈の懐に飛び込み詠唱する。




 神聖爆発術式―




 突如、国沈は失われていた両腕を再生し、その腕で俺の放った術式を掻き消す。そして間髪入れず術式詠唱。




 「やべっ。」




 あぁ、しくじった。最後に判断ミスをした。一度離れて仕切り直すべきだった。勝負を急いた。


この距離、このタイミングでは被弾は避けられない。



 その術式は何だ?魔法陣を見た感じ今までの戦闘でも見た事が無い術式系統に見える。しかし陣のサイズを見るにかなりの出力量が予想される。




 「狐!!」




 せめて狐だけは逃す。無限に存在する術式の中で、最も詠唱速度が速い術式は爆発術式。次点で転移術式である。




 転移術式は移動させる物質の質量によって詠唱にかかる時間が変わる。狐だけならギリギリ国沈の術式が俺に到達する前に詠唱が間に合う筈。





 廉に再び会う等、中々心残りは沢山あるがやむを得ん。クソ悔しいがな。ここから先は俺がギリギリ被弾しても生きている可能性に賭けよう。





 「裕一?」




 転移術式の中に吸い込まれていく狐は困惑の表情のまま、ぽかーんといった顔をする。最後までアホ面を晒していくな、お前は。




 そして、転移術式を閉じる。





 直後届く国沈の術式。全力で踏みとどまろうとするが、やっぱり耐えられそうに無い。





 あぁ、負けた。





 こうして宇喜田裕一はこの世から消失した。





 * * *




 国沈出現、消失から三日後。




 対国沈戦の幕引きは実にあっさりとした物だった。




 宇喜田裕一はかつて日本を揺るがした超巨大怪異の再来、国沈と呼ばれる邪神に敗北し、死亡したと思われる。





 終結後、大勢の怪異家が裕一の姿を探したが、現場には裕一の死体はおろか、髪の毛一本すら残されていなかった。恐らく国沈の術式を至近距離で浴びてしまったのだろうというのが対策部の見解である。





 裕一を殺した国沈は直後反応が消失。同時刻に全ての渦から出現していた怪異も消失した。逃げられたのだろう。






 不幸中の幸い、と言うべきか裕一以外に死者は居なかった。





 誰もが国沈出現の瞬間の広範囲落雷や、S級格怪異と立ち向かっている。裕一以外の死人が出なかったのは奇跡だと思われた。





 裕一の葬式は開かれていない。宇喜田裕一の妻、宇喜田たえは五家に葬式の予定を聞かれた所、「あやつは死んでいない。」と答えた為である。精神が憔悴してしまったのだろうと言われている。



 結果として裕一の弔いは怪異家おのおのが黙祷を捧げる形式となった。






 対策部は現在、戦闘参加者への補償等、対国沈戦の事後対応に追われていた。





 また、今回の事の発端と思われる二名の吸血鬼は宇喜田家管理の怪異扱いとなった。処刑を望む声も多い。特に戦闘に参加していない関西圏の怪異家の者からは何故生かすのかと暴動すら危ぶまれた。

しかし、宇喜田たえが吸血鬼の処刑を断固反対し、この処遇に落ち着いた。





 宇喜田裕一の喪失は戦力的喪失だけに留まらない。長年多くの怪異家の憧れとして君臨し続けた彼の喪失は、怪異家界隈全体の精神的支柱の損失を意味していた。




 * * *


 春雨寮内





 国沈戦以降、春雨寮生達はたえに保護され、解散したその日のうちに春雨寮へと解放された。




 春雨寮の生徒、狐翁や市村京子の気分は非常に重く、沈んでいた。この二名は己の自室に閉じこもったきり、出て来る気配が無い。



 


 この二名には国沈戦終結後、裕一の死亡が伝えられている。その場に居た者の中では廉のみ、裕一の願いを汲み何も伝えられていない。




 特に狐翁は裕一の最期の瞬間ギリギリまで共に戦っていた故に、ショックは大きい。神の身でありながら人に入れ込んでしまう狐翁の性質が彼を苦しめていた。




 市村京子もショック故に、ここ二日間春雨寮から一歩も出て来る事は無い。彼女自身、身近な人間が唐突に死ぬという経験をしてこなかった為、中々堪えている。





 廉は非日常の経験をしつつも、その場に居た怪異家に言われた「忘れなさい。」という言葉を信じ、違和感を感じながらも学校には出席している。しかし、あの時の只ならぬ雰囲気と寮の仲間の変わり様、裕一の不在が影響しているのか、近頃不眠症状が続いている。





 「ボクが……、ボクがもっと上手くやれてれば……。」




 自室で毛布にくるまり、己の部屋を片付けるシドをぼーっと眺めながら憔悴しきった表情で狐は呟く。






 この場に彼らを救える者は居なかった。




 * * *





 真っ暗な空間。いや、違うな。




 上を見れば少々赤黒く光る光源が存在する。目をこらし、景色を見る。どうやら相当に高い天井、広さを持つ空間のようであった。




 体は?己の肉体を触り、異常を探す。




 「無いか。」





 ふと、気配を感じる。




 「ようこそ。目を覚ましたか、我が友よ。」












 

 

 




 



 






これにて第2章、吸血鬼編の終了でございます。ここまでお付き合い頂き、誠にありがとうございます!

明日以降も毎日投稿は継続していきますので、生暖かく見守って頂けると嬉しいです。

ということで、良ければ下の評価!ブックマーク!コメント等頂けると本当に喜びます!よろしくお願いします!

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