第44話 裂け
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空に浮かぶ約50m程、縦に裂けた赤黒い裂け目。回らない頭の中、裕一はその裂け目の正体が亜空間への扉である事を看破した。
裕一は裂け目へ向け、爆発術式を放つ。
放った爆発術式は裂け目へ近付くと不思議な力によって掻き消される。
裕一は続けて複数発の爆発術式を詠唱する。全ての術式が空の裂け目へと命中したが、何一つ損傷は見られない。
「あぁ、こりゃ駄目だな。」
裕一は呟き、たえに持たされていた通信機器を懐から取り出そうとする。もたもたとした手つきで取り出そうとしている為、端から見れば酔っぱらいがスマホや財布を探しているようにも見える。
やっとこさで懐から通信機器を取り出した裕一は慣れない手つきで通信機器を起動し、たえへと連絡を行う。
暫しのノイズの後、通信が繋がる音がする。
「見つけた。」
裕一はそう一言伝え、通信を切る。
* * *
通信から暫くして、裂け目の下で待機していた裕一の元へとたえと赤谷が到着する。
「ここにあるんか……?」
赤谷には裂け目が見えない。何も感知できない事にもどかしさを感じているような表情で空を見上げている。
「みたいだね。」
隣で探査レーダーを持ちながらたえは言う。確かにたえの手元のレーダーは怪異の反応を示していた。
「裕一。ここの他に後三箇所同様の反応が出ている。それぞれ確認をして絵に起こしたら一度廉の元に帰って良い。」
「!?」
たえの発言に裕一は全身に生気を取り戻す。
しかし、暫しの思考の後、裕一は顔を伏せ、「いや、やっぱ良い。気を使わせてすまん。仕事はしっかりやる。」と言う。
「そうかい。」
そうとだけ言い、たえは位置を示した資料を裕一へ渡す。直後、裕一は転移術式を用いてその場から立ち去る。
裕一がたえの申し出を断ったのは春雨寮に住む廉達の身を案じての事であった。裕一が春雨寮に帰れていない原因はここにある。
怪異家は一般に怪異に対応している間、家族持ちの人間は特に自宅に帰らない。
時間差で発動するタイプの呪いを知らぬ間に抱えさせられている場合があるからだ。
並怪異なら正直裕一クラスの人間であれば隠匿された呪い等の術式も看破、解除する事が可能となるが今回の相手は情報が少なすぎる故に気を抜けない。
元々認識が困難な波長を持つ怪異である事が予想される以上、廉達の身を案じるのならしばらくは春雨寮に近付かない事が必須であった。
そしてそれを理解しているのは他の誰でもなく裕一本人であった。
「あいつは気分の切り替えがヘタクソだからねぇ。しばらくは集中力もミジンコになっちまってるだろうな。」
裕一の居なくなった空間を見ながらたえは言う。たえもまた、憔悴する裕一の体を案じての提案であった。
* * *
「ここと……あと一カ所か。」
裕一は空に出来た裂け目をスケッチしながら呟く。空の裂け目は写真に写らない為、手書きで絵に残す必要がある。
スケッチをしながら裕一は思う。先程から移動の際に転移術式を発動させようとするが、三回に一回はしくじっているという事を。
どうしても術式の詠唱中に集中しきれない事で発動が阻害されてしまう。これでは実戦では使い物にならないなとも思う。
裕一にとっては今まで経験した事の無い症状であった。
「まぁ……、そのうち治るか。」
しかし裕一は原因をはっきりと理解している為、落ち着いている。この後、裕一はたえから得た情報の場所全てを周り、スケッチを宇喜田家へと持ち帰った。
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