第38話 総理
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松からの話を聞いたたえは、出掛けると言い残し転移術式を発動させる。
行き先は東京都の、首相公邸。
* * *
書斎の椅子に腰掛けながら思考を巡らせ、こめかみを撫でる。
学生だった頃からの彼の癖である。
葉山一郎、現内閣総理大臣。世間から見れば、特別飛び抜けた所は無い存在感の薄い総理というイメージの人物であった。
「誰ですか?裕一さん?」
葉山は背後に気配を感じ、振り向かないまま何者かへと話し掛ける。
「残念、私だよ。」
葉山の背後へと転移してきたのは宇喜田たえであった。たえは葉山の視野の中へとゆっくり歩いて移動する。
「なんだ、たえさんですか。裕一さんは元気ですか?」
葉山一郎は宇喜田裕一のファン、狂信者といっても過言では無い程の熱意を裕一へ向けている人物であった。
「あいつは今日来ないよ。ピンピンしとるわ。それよりも少し相談事があって来たんだよ。」
たえも葉山の狂信者具合を既に熟知しているため、面倒くさそうにあしらう。
「何ですか?」
葉山は裕一が来ないと聞き、全身を脱力させ、しおれながらも要件を聞く。
「1288年から1293年にかけて起きた国沈の資料はあるかい?うちには残ってなかったんだ。」
国沈。
現在、一般世界の日本にはその言葉も、事件の内容も伝えられていないが、かつて日本で起きた大災害の事であり、その原因となった怪異の名前である。
時は西暦1288年頃。その内容は当時鎌倉時代であった日本に突如として超大型の怪異が出現したというもの。
伝承によればその怪異の体はトカゲのような形状をしており、三つの山をまたぐ程大きく、その怪異の歩みが地震を引き起こしたという。
突如として現在の京都府付近に出現した巨大怪異、国沈は当時の大きな都市であった京都付近から現在の奈良にかけてを歩き回り、多数の死傷者を出したという。
その後、国沈は国によって招集された当時の怪異家の原型、陰陽師や占い師、兵士等の大勢の人間によって多数の死傷者を出しながらも討伐されたとされている。
「国沈の資料ですか?何ですかね、それ。ちょっと調べてみますよ。」
あまりにも古い話の為、葉山も把握していない。葉山は秘書を呼び、資料の収集を依頼する。
「データベースも追ってみます。」
国には公開されていないが、過去起きた怪異による事件等の資料も保管されている。保管している物は全てデータ化してある為、葉山は己のパソコンでも資料を探す。
「あっ、有りましたね。……ふむ。」
検索にヒットした内容を葉山はもの凄い早さで読む。
「ええと、今印刷しますね。」
たえも見れるよう葉山は資料の印刷を始める。
資料を既に読み終えた葉山は書斎の椅子に座り直すと深く息を吐き出し、「それで、何が出たんですか?」とたえを見据えて語り掛けた。
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