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第36話 日曜日

今は平和です。


 裕一が特A妖怪を見に行った日、春雨寮内。




 廉は談話室に備え付けられた椅子に座り、ぼんやりとある事について思案していた。



 「気のせい……?じゃないよね……?うーーん。」



 廉の最近の悩み。それは、ふとした瞬間視界の端に映り込む何かについてである。



 春雨寮で暮らすようになってから早一カ月、この約一ヶ月間は廉にとって人生で最も濃い一ヶ月といっても過言では無かった。



 初めての寮暮らし、裕一との同居。狐の姿をした神様の乱入、同級生女子の転寮。



 正直狐翁様や市村京子の件についての説明等、完全に納得しきれていない物を挙げればきりが無いが、廉自身、問題がある訳では無いので問題に突けていない。




 廉は市村京子が転寮してくる事についての説明は聞いたが、市村が精霊を飼っている事は聞いていない。




 めぐるましく廉を取り囲む環境の変化に、廉は翻弄されていた。




 「あっ!また居た気がする……。」




 ここ数週間、視線移動の最中に何者かの気配を感じたりする事が多くなった事を廉は実感する。



 「やっぱりまだ、春雨寮の幽霊って居なくなってないのかな。狐さんが帰ってきたら聞いてみよう。」



 廉は思う。



 実際の所、廉の視界の端に映り込む何者かの正体はほぼ春雨寮を清掃し続ける悪魔、シドである。しかし廉はそんな事を知るよしも無い。




 廉はこの約一ヶ月間、裕一や狐翁、精霊等の霊的な存在感の非常に強い存在と近距離で触れあい続けた事によって、宇喜田家の血を引く者としての持ち前の才覚が開花しようとしていた。




 * * *




 「ふっふっふ……。魔方陣も用意できた。後は生け贄を用意するのみよ。」




 誰も訪れない町外れの洋館、その庭で西洋吸血鬼の王は呟く。




 何十年も前に西洋を追われ、日本に渡来してきたこの吸血鬼、リーザ・フェリナの目標は霊的な強い力を持つ者を取り込み、己を強化する事。




 何年間も拠点を持たず、あちこちを転々とするリーザの耳に表には出てこない話、当時既に最強と名高かった裕一の話が入ったのは奇跡であった。



 


 以来何十年間もリーザは裕一を倒す為に策を練り続けた。その準備も、もうあと一歩。




 リーザ単体で裕一を倒す事は難しい事を彼女は理解していた。それならと彼女が用意した策。それは異界より強大な存在を呼び出す事であった。




 洋館の庭、リーザの立つ石畳には血で描かれた魔方陣と羊、豚の肉が置かれていた。




 彼女がかつて故郷で聞いた邪神の召喚方法。後は人間の血肉を祀り、邪神を讃える祝詞を上げるのみ。




 人間の血肉を、それも霊的な力の高い者を用意するのは中々骨が折れるが、これくらいの苦難等、今までの苦難に比べれば安い物だとリーザは思う。




 何十年間と掛けた計画が遂に完遂されようとしていた。




 * * *


 春雨寮、特A妖怪に対応した日と同日。午後。




 「廉~!!晩飯何にする??」



 にこにことした笑顔で裕一は廉に聞く。狐と市村は邪魔しまいと気を利かせてか既に夕飯を食べに外出している。




 「うーーん。何でも良いですよ。」



 あまり自己主張をしない廉。孫の食べたい物が食べたい裕一。夕飯のメニュー決めの譲り合いはまだ暫く続く。





 ある吸血鬼の手によって日本という国家を揺るがす大事件が起きようとしている事は、この時まだ知る者は居なかった。 

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