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第32話 銭湯

平和です。



 市村京子、精霊の処遇を橋口家に伝えてから暫く。高校の入学から約一ヶ月ちょっとが経とうとしていた。






今は土曜日の早朝、天気も良く良い気分の日だ。昨日のうちに購買で買っておいたざるそばを朝飯として食う。旨い。






 既に季節は梅雨を迎えようとしており、生ぬるい気温となっている。





 市村達を春雨寮に迎え入れたあの時、廉の事は洗脳していない。状況の説明の難しさ等を考慮したら手っ取り早く洗脳してしまった方が良いのだが、それでは俺と過ごした春雨寮初期の二人の日々を廉が忘れてしまう。





 それは癪だったので洗脳していない。最悪廉に術式周りの事はバレたとしても、俺が祖父だという事さえバレなければ問題無いと思っているし。




 何とか狐と俺で色々言いくるめたが、多分完全には納得していないな。





 そんな事を考えながら春雨寮の談話室で緑茶を啜っていると、玄関の扉がガラガラと音を立てて開いた。





 「ただいまっす~!」




汗をだらだらに垂らしながら市村が帰ってくる。市村はそのまま玄関にへたり込んだ。




 「前よか体力付いてきたみたいだな。距離伸ばすか。」




そばを啜りながら俺は言う。





 「えぇ!?まだ無理!!勘弁して下さい!!」




 市村には春雨寮へと連れ帰ったあの日以来、毎日5㎞のランニングを言い付けていた。精霊を飼う為の訓練である。他にもちょこちょこ課題は出しているが、まずは基本の体力作りだ。




 「いや、早いうちにどんどんステップアップしていくべきだ。明日から6㎞でいこう。」




 そもそも毎日5㎞は割と普通の人間にとっても常識的な距離だからなぁ。正直まだまだ伸ばせる余地はある。




 「お!帰ってきた?お疲れさ~ん。」




二階のから狐が人間体のままアイスを食いつつ降りてくる。行儀の悪い奴だな。てか朝飯の前にアイスを食うんじゃねぇ。




因みに春雨寮は二階が女子階、一階が男子階となっており、それぞれ住み分けが出来る構造となっている。。





 「あ、狐子ちゃん。ただいま!」




 市村は銭湯の道具を用意しながら返事する。走って汗をかいたので銭湯に行くようだ。




確かに早朝の銭湯は気持ち良いだろうなぁ……。






 「銭湯行くの?僕も行く!!」




 そういって狐はアイスを口にくわえ用意を始める。やっぱ行儀悪いな。というかあれ?あいつオスだよな?一緒に入んの?






 少し疑問が湧いたが考えるのを止める。そんな細かい事どうでも良いもんな。




 「廉ーー!そろそろ起きろーー!」




 俺は談話室から伸びる廊下の方へと大きい声を出して呼びかける。



 

 「はーーい!!!」




 廉はボサボサ頭のまま廊下横の扉から這い出てくる。一緒に暮らすようになって知ったが廉は朝に弱い。可愛い。







 今日は部活のある日なので早めに起こしておく。集合時間までは一応まだ余裕があるが、時間には余裕を持った方が良い。







 「それにしても廉も不思議な部活選んだよねぇ。」






仕度中の狐が言う。




 まぁそうだよなぁ。俺も廉がこの部活にすると言いだした時は意外に感じた。





 「確かになぁ。登山部を選ぶとは思ってなかったわ。」





 * * *





 夕方。





 「あーー!!疲れた……!!!」





 登山リュックを背負ったまま春雨寮の玄関で廉が倒れ込む。まぁ一日中歩いてたから無理も無いかな?






 登山部とはいえ、ガチガチの山を登る事は年に数回しか無いらしい。今日は月に一度あるハイキングの日だった。なだらかな山とはいえ、運動を全然してこなかった人間には疲れるだろう。







 もちろん俺も登山部に入っている。






 「倒れ込んでないで、銭湯行くぞ。」






 結局寮に備え付いている浴室は未だにつかった事は無い。







 いや、シャワーくらいならたまにしているか。しかしあの銭湯の雰囲気がかなり気に入っているので暫くは銭湯一択だろう。







 銭湯の用意をしていると、遠方から念話が届く。波長の歪み具合で大体どのくらいの距離の場所から届いているかは見当が付くのだ。




 『特A、取りに来い。』




 一言。しかしこれだけで十分伝わる。






 この距離でノイズ無しに念話を飛ばす事ができるのは数人しか居ない。話の内容から推測するに、京都に居るたえからだろう。






この前春雨寮で捕獲した特A妖怪の処理が終わったのだろう。






 明日にでも見に行くか。









 

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