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第98話 天才

ウチャ


 (左に二歩避けて、槍状の術式が飛んでくると。割とワンパターンだな。)



 裕一はそんな事を思いつつフードの男と対峙する。現在、裕一は回避に徹し続けている為、中々決着が付かない。



 (神だぞ!!と自称しつつ、この程度の実力であるにも係わらずたえたちが苦戦してたのを見た感じ、やっぱりなんか国沈みたいな神特有の障壁が張られているのか。国沈の時同様神性のある術式であれば貫通するとかそんな感じかな。だけど確実にそうという確証が無い以上、手痛いカウンターを喰らう可能性がある内はあまり攻勢に出たくない。攻めるにしてももう少し情報が欲しい。)



 裕一はそんな事を考えつつ、男の攻撃を回避し続け、情報を集める事を目指し始めた。




 実のところ男にカウンターの手も、これ以上の秘策等は一切存在していなかった。素人でも焦っていると分かるようなこの表情も全て真実。何のブラフも存在しなかった。



 男が眠っていたこの数百年。陰陽師は怪異家へと次第に名前を変えていきながら技術は磨かれ、継承されていった。かつて男が生きていた時代とは文字通り格が違う世界。



 かつて天才と呼ばれた存在といえど、この時代ではせいぜい多少優秀な人間程度に収まってしまうような差があった。



 技術は継承され磨かれ、当然過去の時代のそれよりも圧倒的に効率的な詠唱方法や術式が存在する。男は頭では多少の技術の進歩はあれど、まさか神へと成った己を打ち倒す事が出来る存在までが現れるようになっていたとは思っていなかった。大誤算である。



 実際の所、確かに技術の進歩などはあれど流石に神と成ったこの男を倒せる者は居なかった筈である。



 しかしたまたまこの時代に宇喜田裕一という人間が存在し、たまたま彼のみが常識から外れた強さをほこり、たまたま神となった男はその時代の最強を打ち倒そうと願ってしまっただけである。まさしく不憫、不運という他ない。



 「こんな馬鹿な話があるか!?俺のこの数百年は何だったんだ!?冗談じゃない!!!お前みたいな常識外れの人間が居るせいで多くの生真面目な人間が馬鹿を見る!!」



 男はぜぇぜぇと息を切らしながら裕一へと当たり散らかす。



 「皆真面目にコツコツ学んでいくんだよ!それを何だ!!お前みたいな一部の天才が俺達の一年を一日の勉強で軽く飛び越えていきやがる!!お前みたいな奴を見ていると馬鹿馬鹿しくなるんだよ!!クソが!!」



 フードの男は最早人の目など気にしないと言うように裕一へとキレ続ける。男の鬱憤、これは裕一自身というより、かつて己をせき立てるかのように横に立っていた天才それ自身への怒りのような物であった。



 「才能だけでこの場に立っている訳じゃない。」



 裕一は言う。



 「確かに才能で成長速度は変わるかもしれないが、それだけじゃない。最終的に実力を決めるのは努力量や熱意だ。まぁやみくもに努力すれば良いって訳じゃないけど。己の持ちうる武器を研究して、足りない部分を自分で見つめ続けて、何度も失敗を繰り返した上でやっと一歩実力が伸びていく。俺だってそういう血反吐を吐くような反復訓練を繰り返してきて今この場に居る。」



 裕一はぼんやりと、男を見ているのかどうなのか分からないような目線で語る。



 後にこの言葉を聞いていた宇喜田家の松は、「確かに言っている事はまともですけどあれは並の天才の話です。裕一さんは天才を軽く超越しているので真に受けたら駄目ですよ。」と語ったらしい。



 「はぁ?はぁっ……。クソッ……何なんだよお前……。おい!!邪神!!もう一回だ!!もう一回虐殺を起こそう!!もっと強くなりたい!!この時代ならあの時よりももっと多い人数を殺れるだろ!!なぁ!!」



 男は裕一の言葉を聞き、再び何か憑きものの付いたような表情、憑きものが付いたわけでは無いかもしれない。最早彼自身が引き返せない所まで錯乱した末のその表情で椅子に座り、優雅に二人の戦闘を観戦していた国沈へと叫ぶ。



 「貴様、つまらない奴になったなぁ。」



 椅子に座ったまま国沈は男を見つめ言う。



 「は?」



 男は国沈が何を言っているのか分からないといったぽかーんとした表情で声にならないような呟きを漏らす。




直後、男は何も分からないまま、国沈の生み出した亜空間術式のような物に包まれ、捻じ切られる事となった。



 

 



  

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