プロローグ3
「くそったれ」それ以外の言葉が出てこない。
あの鎧男。将軍。何よりもまんまと罠にはまった自分にいらついた。
『華乃家』の女将が「お店が、お店がぁ」とわんわん泣いている。
その声にも腹が立った。
赫辻染は、女将に文句を言おうと立ち上がろうとしたその時に、黒いローブを被った者が自分の隣に座り、
「彼女を助けたいならついて来なさい。急いで!!」
と、だけ言い足早に去っていく。
「はぁ?」と一瞬固まる。
だがローブの者は止まらない。
染は、すぐに追いかける。
遊郭の外れまで早足で歩き。人がいないことを確認してローブの者を木に押しあて刀を抜く。
「お前、何者だ?何を知っている?」
刀を首元に当てながら染は、問いかける。その際にフードが取れ顔があらわになる。
黒髪の長い女だった。刀に一瞬びっくりしたもののすぐに顔をキリッとさせ、
「説明するからその物騒な物をしまいなさい。」
と怒鳴りつける。
「とりあえず自己紹介してる余裕ないから貴方の聞きたいことをまず聞いてちょうだい。」
染自身も時間がないのは自覚していたので彼女の言う通りにする。
「涙は?」
「るい?あぁ藍華太夫の本名ね。異国の変態貴族のところ。」
「あんたらの目的は?」
「貴方達を遠くの国に逃がしてあげること。」
「俺達のことを何故知ってる?」
「この国にもスパイ……貴女達の国で言う密偵がいて大体のことは知ってるわ。」
「何故その貴族のところにいるってわかる?」
「その密偵からの情報。」
「俺達を逃がしてあんたらに何の得がある?」
「戦力が欲しいそれだけ。」
「俺が言うことを聞くとでも?」
「だから貴方の手綱を引くために彼女を救おうとしてる。」
「そもそも俺は契約書のせいでこの国から出られん。」
「これのこと?」
女は契約書を見せる。紐をほどいた瞬間に燃え尽きたがたしかに見覚えのある紙だった。
「………」
「はい。おめでとうさん。これで貴方は自由です。まぁこっから先は私に従ってもらうから主人が変わるだけだけど。」
「これの持ち主は?」
「貴方を契約書で縛っていたお殿様のこと?」
染は無言でうなづく。
「知りたい?彼がどうなったのか。」
女はとても悪い微笑みを見せる。
「いや。いい。」
「そう。懸命だわ。」
「だが解せねぇ。何もかも出来すぎてる。」
「そうよ。計画は計画的に行うものなの。」
「………」
「じゃあ質問終わったってことでいいかしら。」
染は無言になり、女は続ける。
「私のことはクロエとでも今は呼んでおいて。今から、私と貴方はこれで異国まで飛びます。」
と言うと、黒いローブを脱ぎそのローブを広げる。
中心に怪しげな儀式などで使いそうな「陣」が書いてある。
「その円形のところに乗りなさい。」
クロエはその「陣」を指す。
染はあからさまに嫌な顔をする。
「時間がないの早くしなさい。」
しぶしぶ乗る。
乗ったのを確認し、クロエもそこに乗る。
クロエが乗った瞬間それがトリガーとなり、一瞬で二人の姿が消える。
消えた後、残ったローブだった黒い布が跡形も無く燃え尽きた。