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ケガレナキアイ  作者: 秋栗実
15/17

伊勢会議



 戦闘が終わり翌日の深夜。結月が寝たのを確認し、マンションの窓からミツハは飛び出し、伊勢じいの家に向かう。

 すでに全員集まっていた。すでにソウヤに対してはソプラの魅了能力で情報を引き出した上でソウヤの祝福(ギフト)でソウヤ自身への枷をつけているという抜け目のない状態だった。

 騎兵(ゴーレム)機械人形(オートマタ)たちもバイザーが外れて素顔になっている。どうやらあのバイザーは制御装置の様な物だったらしい。


 「すいません。遅くなりました。」


 「おお、ミツハすまんな。こんな時間に。」


 「いえ、結月ちゃんに知られないようにするにはこの時間がベストだと思います。」


 真緒とミツハが話しているとミツハの顔を見て騎兵(ゴーレム)の男が興味を示し近づいてくる。そして、ミツハの目の前に立ち、勝手に右手をとり、握手をしながら話しかけてくる。


 「君だ!!そう、君と話がしたかったのだ。先日の立ち合いはとても見事だった。

 まさかこの地にも『サムライ』がいるとは!!実に素晴らしい!!」


 爽やかで俗に言うイケメンというやつで口調はハキハキしてるし目はぱっちりとしながらもキリッしており女性が好きそうなタイプを全て盛り込んだ様に顔立ちがしっかりとしている。

 内心困惑をしているミツハをよそにそのイケメンは握手している手を上下に振っている。


 「失礼。自己紹介がまだだったね。私の名前はジークロンド•ベルフリード王国騎士団団長さ。」


 肩書きも名前もすごいなと思いながらミツハも自己紹介をする。


 「えっと、倉田ミツハです。」


 「誠に勝手ながらミツハと呼ばせてもらうよ。剣を交えた以上私達はもう友達だ。いや〜、実に素晴らしかった。」


 「ど、どうも。ですがあの後まだ戦っていたら俺の命は無かったですよ。」


 「ははは、随分と謙虚なんだね。だが勝負というのは時の運。私がとどめをさせなかったのも致し方ないことさ。それに、お互いに本調子でも無かったようだしね。」


 「というと?」


 「君自身まだその姿、その剣術に慣れていないだろう。元の姿がどのようなものかは知らないが今の君の姿が変化しているものだということは分かっているさ。」


 驚いた。爽やかイケメンは分析能力も高いらしい。


 「私もこの体の本来の力も出し切れていない。まぁそれを言い訳にするつもりはないさ。君も自分のことを言い訳にしていないわけだしね。

 昨夜の一騎打ちを嘘にしたくはないからね。

 まぁそのうちお互いにベストな状態でまた立ち合いたいものだよ。」


 「すまんが。話が進まないので一旦話を止めてもらっていいかの?」


 真緒が話を遮る。


 「失礼。興奮してこの集まりの目的を外してしまったね。申し訳ない。」


 と、ジークロンドは元の場所に戻り、ミツハも座る。


 「それじゃ、まずソウヤから聞き出したことをミツハにも話すとするか。」


 と言い真緒は話し始める。

 まず、ソウヤの本名は浅倉創也(アサクラソウヤ)。この世界から二年前に異世界へと召喚され、現在はこちらの年齢だと十八歳。人間側の王国に召喚された三人の〈祝福(ギフト)発現者(ホルダー)〉のうちの一人で祝福(ギフト)、『創造(トリス)(メギストス)』を得た。

 どちらかというと後方支援タイプで国の武器や文明の底上げをしていた。


 「そして、これじゃ。」


 真緒はペンダントのような物を机の上に出す。


 「これはソウヤの能力で作ったアイテムで一度だけあっちの世界に戻ることが出来るそうだ。」


 「え……そんなアイテムこんな簡単に手に入れていいんですか?」


 ソウヤが今度は話をする。


 「元々、俺の目的は今のこっちの世界の偵察と騎兵(ゴーレム)とかの試験運用を目的としてたんだ。

 ついでに一人、二人拉致って来れればいいとは思ってたけどな。その任務が終わったらまた戻るためにな。

 その魔導具には異世界召喚魔法が入ってる。まぁ座標固定されてるからあの山の広場から飛んで、王国の中央広場に到着することしか出来ないけどな。」


 「随分と協力的ですね。こいつ。」


 「まぁの。我も驚いてる。」


 「はぁ、お前ら馬鹿なの?どうせ黙っても勝手に喋らされるだけなら協力的な方がお前らも俺を悪いようにはしないだろ。」


 口と性格はなかなか悪そうだが理には叶っている。


 「ジークロンドさんたちはいったい何者なんだ?」


 ミツハが聞くと


 「呼び捨てで結構。マイフレンド!!」


 と、爽やかな声が聞こえてくる。めちゃくちゃスマイルでこちらを見ていた。


 「じゃあ、ジークロンドたちは何者なんだ?」


 「あれは俺の作った体に魂を定着させたものだ。」


 「おい、この際はっきりさせてやる。」


 ソウヤの言葉にミツハが反応する。


 「小生意気な態度は今は見逃してやる。だがな、お前が生み出したかもしれないが彼らを『あれ』だとか物を扱うように言うのは止めろ。」


 いつの間にかミツハの目は紅く髪は白く変わっており冷たい風が吹く。真緒はコソッと笑っていたがソウヤはゾクッとその威圧感に震えていた。


 「分かったか?」


 「あ、ああ。気をつける。」


 その言葉で姿も戻り威圧感も消える。


 「すいません。話の途中で。」


 「じゃ、じゃあ話を続けるぞ。まず騎兵(ゴーレム)機械人形(オートマタ)の違いからだ。

 騎兵(ゴーレム)には錬金術も使える様になっていて武器の精製や己の体にも変形させる能力がある。最大で十八メートルぐらいの騎士の姿にもなれる。

 機械人形(オートマタ)騎兵(ゴーレム)のサポートとして生み出した。人間と同じ様な大きさだけど武器を使い……」


 言いにくそうにミツハを見る。それにミツハも気付きなんとなく非人道的な要因だと察する。


 「怒らないからどうぞ。」


 「それじゃ、時と場合によって騎兵(ゴーレム)のパーツになるために生み出した。

 前に説明したと思うけど、俺の能力にはその材料となるものがいる。それは騎兵(ゴーレム)にも言えることで巨大化するためあるいは武器を精製するためにはその材料がいる。それが機械人形(オートマタ)の役割の一つでもある。」


 「なんであの者たちには魂がある?」


 今度は真緒が聞く。


 「そんなことも分かるのかよ。

 元々、騎兵(ゴーレム)機械人形(オートマタ)も生身の兵隊の代わりに導入するのを目的として王様から依頼されたものだ。そうすれば敵の人間は殺せるし、味方は死なない。騎兵(ゴーレム)たちはまた生産すればいいという目的で。」


 ここでジークロンドが口を挟む。

 

 「我々は元々、王国の騎士団に属していました。別の任務についていた時に敵の襲撃に遭い瀕死の重傷を負うことになりました。」


 「そう、それでプロトタイプが完成したタイミングでその魂を転生術で騎兵(ゴーレム)の体に移したんだ。

 ジークロンドの戦力を無駄にも出来ないし、騎兵(ゴーレム)でもその戦力を振るえるのかって名目でね。

 結果はご覧の通り。だけどジークロンドたちは王国に不信を抱いてしまった。だから制御装置であるバイザーをつけてこっちでの運用実験として連れてきたのさ。」


 ソウヤとジークロンドの会話が終わると真緒と伊勢じいが口を出す。


 「転生術か。」


 「というよりもタイミングが出来すぎていますね。色々と噛み合いすぎている。誰かが裏で糸を引いているやもしれませんの。」


 「真緒さん。転生術っていうのは?」


 ミツハも聞く。


 「擬似的な死者蘇生の術とでも言っておこうかの。

 そもそも死者を完全な形で蘇らす術は存在せん。転生術は中身は同じでも外見が違ったり、逆に外見が同じでも中身が違ったりと何かしらの違いが出てくる。

 死者を蘇らせたいと思うのは人間だけだから我は詳しいことは分からんしそもそもそんな術があることも風のうわさ程度しか知らなかったわ。」


 「悪いけど転生術を使った奴とかは分からないよ。俺は作っただけで詳しいことは聞かされてないし。」


 「お前は今後はもう少し疑いを持ってその力を使うべきじゃな。

 次の質問じゃ。お前たちは偵察に来ていたと言っていたが目的は?」


 「なんとなく分かってるんじゃないの?」


 真緒の質問に対しソウヤは意地悪そうに聞き返す。


 「そうじゃの。じゃあ聞き方を変えるか。お前たちはこちらの世界を侵略するつもりじゃな?」


 「そうだよ。」


 悪びれる感じでもなく開き直ってソウヤは言う。


 「だって分かるでしょ。ここは平和だ。何でもある。文明なんてはるか先をいってる。そのくせ平和ボケしてるからまさか戦いが起きるなんて思ってもない。魔術は愚か自衛の術すらもっていない。そりゃ欲しくなるよ。」


 ソウヤからどんどん言葉が出てくる。


 「あっちから来れる術がある以上アドバンテージは有利だし戦力も十分。しかもこの国は島国だ。他の国が異常を知るのだって遅い。この国の支配が出来たら他の国さ。そうしてこの世界の全てを支配するんだ。

この世界を支配出来れば支配者の俺たちはいいようにこき使える。大人も、権力者も親も、同級生の奴らだって。

 ……俺を馬鹿にしてきた奴らだって顎で使えるんだ。気に入らなければ殺したっていい。全てが俺たちの気分次第だ。」


 一通り話終わると


 「……そうなるはずだったんだお前らさえいなければ……簡単な仕事だったんだ。」


 ソウヤはグスッと鼻をすすり、半分泣いている。ソウヤが少し落ち着くのを待ってからミツハが口を開く。


 「お前の他に召喚された人で浦道という人はいなかったか?」


 ミツハの問いに我関せずだった薫が反応する。


 「浦道?誰なの?」


 「お前同様に異世界召喚された人だ。俺もそれ以上は分からんけど。」


 「俺のいた王国にはあと二人召喚されたのはいたけどいないと思う。」


 「その二人の名前は?」


 「タカヤとミカ。名字は忘れたけど。同い年。」



 今日の『伊勢会』はこの辺でお開きという形になった。

 魔導具は伊勢じいが預かり、とりあえず今すぐに使うということは無くなった。

 伊勢じいは明日役所に行って浅倉創也について調べて来るそうでついでに『タカヤ』、『ミカ』で同年代の人物も調べられる範囲で調べてくるとのことだった。


 「シークロンドたちはどうすんですか?」


 「まぁ、伊勢じい宅で預かりじゃろ。とりあえずソウヤもな。」


 「ジークロンドはそれでいいのか?」


 「何がかね?マイフレンド。」


 「いや、王国騎士団団長でしょ。王国とは十中八九戦うことになると思うけど……」


 「そうだね。だが話を聞いていると少し王国の動きに不信もあるしね。まぁ国王には機会があれば問い正すことにするさ。その時までは君たちと一緒に戦わせてくれ。

 国王に問い正し、その結果君たちに剣を向けることになった時には君の手で私を倒してくれ。

 何よりジークロンド•ベルフリードは死んでしまった。

 今の私は騎兵(ゴーレム)の……フリード、フリードさ!!」


 「じゃあ、これからよろしく。フリード。」


 「ああ、こちらこそよろしく頼むよ。マイフレンド。そういえばまだ彼女たちを紹介していなかったね。」


 そう言うと機械人形(オートマタ)のメイドたちがやって来る。『ヘレン』、『ドロシー』、『レベッカ』、『ヒルダ』、『エリーゼ』と名前だけの簡単な自己紹介だったが済ませる。

 ミツハも帰ろうとする。すると薫が声をかけてきた。


 「あの、」


 「は、はい?」


 「ありがとうございます。私の夫のことを聞いてくれて。」


 「い、いえ。」


 初めて話したからそれ以上言葉が出ない。山田のオカンと伊勢じい、結月ちゃん以外の人間以外はまだ慣れず、相変わらず距離がある。


 「それだけです。では失礼します。」


 「は、はい。お疲れ様です。」


 伊勢じい宅の別室へ薫が戻っていくのを見てからミツハも帰路につく。

 




 

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