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ケガレナキアイ  作者: 秋栗実
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好敵手とのガチバトル


 鋼同士がぶつかる鈍い音が響き渡る。

 騎兵(ゴーレム)は重い武器を軽々と両手で持ち猛攻を仕掛けてくる。

 その一撃一撃が重く、鋭く迫ってくる。


 その猛攻をなんとか捌きながら攻めに転じるが守りも硬く決め手にはならない。


 騎兵(ゴーレム)の猛攻に対し、ソウヤが「いいぞ」、「ぶっ倒せ」とか言っているがそれすらも聞く暇すら無かった。


 目の前の敵の次の動きを先読みしわずかでも手傷をつけれるように考えを巡らす。

 正直、作られた兵隊と戦っている感じではなかった。


 達人との一騎打ち。そんな懐かしささえ感じる。そう抜けている記憶が言っている気がした。


 それは『彼』も同じだろう。もはやただの騎兵(ゴーレム)と白竜の戦いではない。剣士と剣士の立ち合いだった。


 そんな感覚に染まる中、正面からメイスが飛んでくる。

 その一撃を左に避けメイスの先端を斬り落とす。

 だがいつの間にかメイスを手放しており、両手で持った大剣が迫る。

 なんとか受け流すが、その全てを防ぎきれずに刀もろとも吹き飛ばされる。

 

 受け身を取れず背中から木にぶつかる。重たい衝撃が体中を駆け巡り口から血を吐く。そしてわずかに遅れて背中への激痛と両腕の痺れが来る。


 今、ミツハの体は人間に非常に近い作りをしている故に本来の姿ならば傷すらつかないようなものでも今の彼には致命傷になりかねない。


 「痛てぇ」


 鋼のぶつかる音以外の久しぶりの沈黙を破る言葉だった。

なんとか立ち上がろうとする。『彼』もまたミツハが立ち上がるのを待っていた。

 ミツハは大きく深呼吸をし、再び『好敵手』に向かい合う。

 風が吹き、木々がざわめきながら再び剣と刀がぶつかる音が鳴り響く。


 大剣は少しずつかけていく。ミツハの刀の方が材質的には分がある。そしてとうとう大剣に亀裂が走る。


 その亀裂を見逃さなかった。


 亀裂に刃を滑らせ両断する。


 そのまま上段からの一撃を食らわせる。


 いつの間にか生け捕りにするということを忘れ、刃の方で斬りかかっている。それほどに手を抜けない相手だった。


 完全に隙を捉えたその一撃を折れた大剣で撃ち払う。

 そして、『彼』は自分の腰のベルトについていた銀の筒を取り出し、その中に入っていた粉状の鉱物から剣を作り出す。


 完全に隙をついたと思ったミツハはその一撃を払われたことで逆に隙を作っていた。

 そして、横から振りかぶられた剣が刀を霞めとる。

 刀は遥か先に飛んでいき、刃から地面に突き刺さる。その現実を把握した頃にはミツハの脳天に一撃が迫っていた。



 「せっかくの立ち合いを邪魔してしまい申し訳ございません。」


 その一撃がミツハを撃つことはなかった。


 ぶつかるスレスレで止まっている。


 ここで辺りを見回し状況を把握する。


 いつの間にかソプラがソウヤの耳元で『魅了』したことでソウヤが『彼』に攻撃中止の命令をしていたのだった。

 緊張が解けたことで急にどっと疲れが込み上げて息づかいも荒くなり、足腰が体を支えきれなくなりその場に座り込む。


 「いや、ありがとうございます。ソプラさんが本体を止めてくれなかったら俺は死んでました。」


 ようやくここでソプラの先程の言葉へ返事をする。


 ホッとしたような納得がいかないようなモヤモヤした気分だった。

 勝ちは勝ちだが『彼』との真剣勝負では負けていた。


 そんなやり取りを難しい顔で見ながら真緒は伊勢じいに電話をする。


 程なくして伊勢じいとミノが到着した。


 「ミツハ。さっきのお前の本来の体毛でこやつら縛ってくれ。」


 「え、真緒さんの術は?」


 「あれは長期は無理じゃ。どのみちこやつらから聞き出すのは明日以降じゃろ。」

 

 ブツブツと言いながら毛を伸ばす。だがその姿に覇気はない。


 「真緒様。」


 「伊勢、後で話す。」


 何かを察したかの様に伊勢じいが真緒に話しかけるがそれを止める。


 「ミツハ。後はこっちでやっておくからお前は帰れ。結月も待ってるじゃろ?」


 「やべぇ。忘れてた。」


 だがこの状態をそのままにするわけにもいかないと食い下がるが皆から帰るように言われ、その言葉に甘え帰路につく。


 帰り道でもモヤモヤとしていた。

 考え事をしながら帰ったら余計に時間がかかってしまった。

 「鍵開いてるかな……」

 結月は寝ていると思い静かにドアノブを下げる。鍵はかかっておらず扉は開いた。音を立てず静かに扉を開け、わずかな隙間からさっと中に入る。


 「遅い。」


 ビクッとして後ろを振り返ると結月が玄関に立っていた。


 「中学生がこんな時間まで外歩いて駄目でしょ。しかも泥だらけで、ボロボロじゃん。」


 「はい。すいません。」


 いつの間にか玄関で正座をして怒られている。普段から怒られている姿ではあったが今日のミツハはいつもと違っていた。それに結月も気づいていた。結月はため息を一つつくと


 「あんまり心配させないでね。とりあえず無事……かどうかは分からないけど無事でよかった。」


 「………」


 「?」


 「遅くなってごめんなさい。」


 「もう、分かったから。この話は終わり。とにかくお風呂入っておいで。ご飯用意するから。」


 「分かった。ありがとう。」


 履物を脱ごうとしたミツハはふと動きを止める。


 「どうしたの?」


 「ただいま。」


 結月はクスッと笑って


 「はい。おかえりなさい。」


 と返す。そしてミツハも中に入る。そこで結月は気付く。


 「ミツハ君、後頭部に十円ハゲ出来てるけど知ってる?」


 

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