プロローグ1
白髪の侍が林道を早足で帰路についている。
ようやく永遠に感じる長かった「仕事」が終わった。
これで「俺」は自由になれる。
自由になったら、まずこの国を出る。
おそらく追手は来るはずだが「彼女」とならば逃避行も悪くない。
まぁ、とりあえずこの国を出てから全て考えよう。
早足が徐々に早くなっていき、ほぼ全速力だ。
その男の顔は目の下にはクマがあり、表情は強張り、疲れ切っているが少しだけ笑顔であった。
表情とともに緊張も少し緩んでいたのだろう。
「仕事」の最中であればもっと早くに気付けていたはずだった。
「君が、赫辻染君だね。」
林道の暗闇の中から声が聞こえる。
と、当時に風が吹き、その風が鋭く飛んでくる。
なんとかかわすが、その一撃ははるか後ろの土をえぐり、木々をなぎ倒していた。
その技はこの国では見たことのない技であり、相手がかなりの手練れであることが分かった。
そして金属の擦れる音とともに声の主が前方の暗闇から現れる。
その声の主は全身黒い異国の鎧で覆われており、顔も性別も分からない者だった。
「避けるのは流石だけど俺に気づくのが少し遅かったね。」
その見てくれとは裏腹に若い声だった。
「俺」と言っている以上おそらく性別は男だろう。
短時間で分析していると鎧の男は続ける。
「ダメだよ。気を抜いちゃ。『自由』っていうのはその最後の一歩を抜けるのがいちばん大変なんだ。
そこで気を抜いちゃうと『自由』をつかめずに終わっちゃうよ。」
「何者だ?どうやら俺の事をだいぶ詳しく知っているようだが。」
ここで初めて侍も声を発する。
「申し訳ないけど君が『自由』を手に入れるかはまだ先かな。もう少し踊ってもらうよ。」
そう言って鎧の下で微笑み黒い鎧の男は侍に向かって行く。