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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

アリスとテレス

作者: 虚々実々

「アリス様、いい加減にしてください。勇者パーティーがまた死んで最初の村に戻りましたよ」


「こんなトラップに引っ掛かるレベルの勇者は私に相応しくないわ」


水晶の中に写し出される勇者だったであろう肉塊(にくかい)を見ながらアリスと呼ばれた女性が溜め息をつく。


「いや、普通に無理ですから。トラップを知ってる魔物達でさえ死んでましたよ」


「両方生き返るんだから問題ないわ」


「あなたは倫理観を母親のお腹に置いてきたんですか?」


「まぁね、あっても良いことないし」


「全く、あなたって人は……」


「テレス、それより朝食にしましょう!」


アリスは、覗き込んでいた水晶から離れテーブルに向かう。


銀髪の長い髪に、可愛らしい顔は『天使の再来』と呼ばれるほどの美貌で、着ている白のワンピースも相まって本物の天使の様だった。

タレス王国の第一王女で、勇者の婚約者である。


「今用意しますからお待ちください」


テレスは呼び鈴を鳴らすと、部屋の入り口に向かって歩き出す。

扉を空けると、紫色の魔物が朝食をカートに乗せて運んできた。


テレスはカートを部屋に運びこみ手際良く準備を始める。

燕尾服に身を包み、長い黒髪を一つに縛っている長身の美しい女性で、アリスの身の回りの世話をしている執事だった。


けれど2人の関係は普通の王女と執事の関係ではない。

アリスは魔王に(さら)われ魔王城に軟禁(なんきん)されている身分で、テレスは魔王からアリスの周りの世話をするよう命じられた悪魔。

つまり2人は本来敵同士といえる関係だった。


「お飲み物は紅茶で宜しいですか?」


「ワインがいい」


「駄目です。一体どういう胃袋してるんですか?まだ朝の8時ですよ?」


「美味しいものはいつでも美味しいのよ?時間は関係ないわ。テレスは時間によって味覚が左右されるの?」


「また屁理屈を……とにかく夜まで待ってください」


「あら、屁理屈も理屈の1つよ?根拠のない話よりは随分(ずいぶん)ましだわ」


テレスは朝食を手際よくアリスのもとへ運びながら、溜め息をつく。

それをアリスは楽しそうに見つめながら、朝食のパンを口に運んだ。


「そういえば魔王様はまだ見つからないの?」


「えぇ、まだです。私達も全力で探しているのですが中々進展はありませんね。

気になりますか?」


「ふーん……別にどうでも良いわ。今の生活結構気に入ってるし」


本当にどうでも良さそうにしながらサラダを食べるアリスを、テレスは横目で見て安心する。

アリスが今の生活を気に入ってくれてるのが嬉しかったのだ。

アリスとのこの生活を守る為ならテレスは魔王さえ消し去っても構わないと思っている。


そう、テレスはアリスに一目惚れしているのだ。


出会いは魔王がアリスを(さら)って来た時だった。

自分とは真逆の可愛らしい真っ白なアリスに一瞬で心奪われたのだ。

そして運の良いことに、世話役を命じられ常に一緒にいられる事になりテレスは心の中で歓喜する。

しかしそれを邪魔しようとする輩がすぐにあらわれた。


魔王である。


勇者に屈辱を味合わせる為にアリスと結婚すると言い始めたのだ。

結婚してしまえば、アリスの横にいつも魔王が居ることになってしまう。

テレスは柄にもなく焦り、悩んだ。

そして前代未聞の方法で解決する。


魔王を魔王城の地下に閉じ込めた。

正確には、二度とバカな事をいわないように殺してしまいたかったが、死なないので応急処置として封印したのだ。

そして、いつか本当に殺そうとテレスは文献を漁り日々研究している。


「それより、勇者様を殺し過ぎじゃないですか?まだ始まりの街から、次の街すらたどり着いてないですよ?」


「暇潰しが他にないんだもの、簡単に来られたらつまらないじゃない。それにテレス達にとっても悪い話じゃないでしょ?」


「それは……そうですね」


そう言いながらテレスが少し笑うのをみて、今度はアリスが安心した。

アリスもテレスとの生活を守る為なら、勇者を何万回殺そうが構わないと思っている。


何故なら、アリスもまたテレスに一目惚れしているからだ。


理由はテレスと一緒で、彼女の自分にはない怪しく格好いい姿に一目で恋に落ちた。

しかも、自分の世話をしてくれることになり毎日一緒にいれることになり、アリスは嬉しくて跳び跳ねたのを今でも覚えている。


少しでもテレスとの生活を長く続けたい。

そう思っていた矢先、魔王が居なくなり勇者側が一気に有利になってしまった。

魔王軍を指揮していたのは魔王で、司令官が不在となれば組織は一気に弱体化するのが常だ。

このままでは、この夢のような日々が早々と終わってしまう。それだけは回避しなければならなかった。

幸い、勇者側はこの事実にまだ気付いていない。


一体どうすれば……悩みに悩みそこで一つの奇策を思い付いた。


『だったら私が指揮をして、勇者を絶対にここまで来させなければ良いんだ!』


アリスが捕らわれの王女から、魔王軍総指揮官にジョブチェンジした瞬間だった。

それからテレスに暇潰しをしたいと駄々をこね、魔王軍を暇潰しと称して指揮するようになる。

今では、アリスを新魔王と呼ぶ魔物さえ現れるくらい魔王サイドに入り込んでいた。


「勇者の復活は明日だし、今日は何しようかなぁ」


朝食を食べ終え、アリスはテーブルに頭を乗せ窓を眺める。


「アリス様、行儀が悪いですよ」


「敵の魔王軍を指揮している時点で、行儀が悪いどころの話じゃないから問題ないわ」


朝食の片付けをするテレスにアリスは屁理屈をこね、窓を見ながら楽しそうに笑う。


「全く、あなたって人は……」


テレスも片付けをしながら呆れつつ、幸せな時間に自然と笑みが(こぼ)れていた。






翌日、アリスはテレスを引き連れ魔王城の廊下を楽しそうにスキップしながら歩いていた。


「アリス様、おはようございます」


「おはよう!今日も勇者戦頑張ってね!」


「任せてください!アリス様の顔に泥を塗るような戦いかただけはしません!」


「頼もしいわね!しっかりぶち殺すのよ!」


すれ違う魔物達と物騒な会話をしながらアリスは楽しそうにある部屋に向かっている。


「アリス様……本当に立派な魔王様になられたな……」


アリスの後ろ姿を見ながら魔物達が感動している。


「前のバカ魔王と違って作戦もしっかりしてるし。本当にアリス様が魔王になってくれて良かったよ」


「それにアリス様の改革でかなり労働条件も改善されたし……あの人は歴代最高の魔王だ」


「あぁ、それに最近はあのテレス様もだいぶ柔らかくなられた。

あの冷血の悪魔と呼ばれていたテレス様がだぞ?アリス様にはそれだけ俺達魔物を惹き付ける何かがあるんだよ」


次々と魔物達はアリスに称賛を送り、尊敬の眼差しでアリスを見つめた。

もはや魔王城では勝手にアリスを新魔王として正式に扱っているのだ。


「ベル、遊びに来てあげたわよ!」


アリスが勢い良く調理場のドアを蹴り開け中に入っていく。


「アリス様、頼みますからもう少し静かにドアを開けてください。何で毎回ドアを蹴破る勢いで入ってくるんですか……」


大きなため息をつきながら濃い紫色の髪の長い女性がアリスをめんどくさそうな目で見つめる。

彼女は蝿の王ベルセブブで、アリスは勝手にベルと呼んでいた。

背はかなり小さく目の下には黒いクマが目立つが、かなりの美少女で魔王の配下の間では『合法ロリの至高』と呼ばれている。ちなみに今年で600歳になった所謂ロリババァだ。


「ベルは今日も可愛いわね。私の娘にならない?」


「常識的に考えてどこに年上の娘がいるんです……一応アリス様より数百年は長く生きているのですが」


「え……数百年も常識にとらわれてるって辛くない?」


「非常識に振り回されるよりはましです」


「なかなか上手い返しをするわね……やっぱりベルとの会話は楽しいわ!」


アリスが楽しそうにベルの頭を撫で、ベルはため息をつきながらそれを受け入れている。


「今日の夕飯はお肉料理がいいのだけれど、何か面白い味付けにして欲しいの!」


「話が相変わらず飛びますね……それに面白いって個人差がありますし、そもそも料理の味付けに使う表現じゃないです……」


「面白いとか、悲しいまで表現できてこそ我が魔王城の料理長と言えるんじゃないかしら?」


「料理長に勝手にしたのはあなたでしょ……しかも蝿が料理を作るとかシュールで面白いとか、訳の分からない理由で。

我が魔王城っていつからアリス様は魔王になったんですか?」


「だって皆私のこと、新魔王様とか呼んでるじゃない?だったら今の城の主は私よ!」


「それ、勇者が聞いたら泣きますよ?」


ベルは溜め息をつきながら、夕飯の仕込みを続ける。アリスは気付いてないようだったが、テレスはベルが魚を食糧庫に戻し、肉を取り出したのを見て小さく笑った。


「それよりベル、今日はあなたも夕飯にいらっしゃい」


「夕飯に?何かありそうなので嫌です」


アリスのいきなりの誘いに、ベルは疑いの眼差しで答える。


「えー、たまには良いじゃない?仲間として親睦を深めようよ」


「その発言も大丈夫ですか?もはや裏切りとかのレベルを越えてますけど」


「これからの魔王軍の話もしたいの!テレスもベルに何か言ってよ」


「ベル、魔王様がいない現状アリス様が最高責任者よ。言うことを聞きなさい」


テレスがベルにもっともらしい事を言って追い詰めようとする。


「テレスさんは本当にアリス様には甘いですね……分かりました」


「決まりね!今日は女子会をしたかったの!そろそろ勇者と我が軍がかち合うからまた後で!」


アリスはベルに抱きつくと、すぐに離れ凄い勢いで次の目的地に向かって部屋を飛び出した。


「軍の方針を決めるんじゃなかったんですか?」


ベルがテレスをジト目で睨む。


「アリス様がそんなめんどくさい事するわけないでしょ。楽しいことにしか興味がないのは、あなたも知ってるんじゃない?」


テレスは軽く笑いながらベルの頭を撫でる。


「あなたの事が好きで一緒にいたいのよ。時間に遅れないようにね」


そう言うとテレスはアリスを追いかけるのに出ていった。


「全く……多めに作らなくちゃいけないじゃないですか……」


ベルは不満を言いながらも、少し楽しそうに夕飯の準備を再開した。





その夜無事に軍法会議という名の女子会が開かれた。


アリスの希望で全員パジャマを着て集まっている。

アリスはホットパンツにブカブカの白シャツ、テレスは黒のワンピース、ベルはブカブカな紫のシルクのパジャマを着ていた。


「やっぱりベルの作る料理は最高ね!食べてるだけで楽しい気分になってくるわ!それに食べる度にソースの味が変わって面白い!」


「アリス様がリクエストしたんじゃないですか……珍しいハーブが必要で大変だったんですから」


ベルがジト目でアリスを見る。


「ベルは本当に120点の結果を出してくれるわね、ありがとう!」


「お礼なら秘境までハーブを取りに行った魔物達へ言ってください。あいつら本当にアリス様の事となると甘いんだから」


「あら、魔王様の為なら魔物が命懸けで動くのは当たり前の話じゃない?」


「テレスさんまで、アリス様を魔王扱いしないでください。本当にアリス様が魔王になるわけないじゃないですか」


ベルはため息をつきながら、肉を頬張った。


「ベル、私は本気で魔王になったつもりよ?」


アリスは当たり前のように言いきった。


「そうは言っても、勇者が辿り着いたらどうするんです?その時に本気で人間の敵として『魔王は私よ!』と名乗るんですか?そんな事出来るわけ……」


「するわよ?むしろ行方不明の魔王が見つかったら闇に葬るし、人間の世界にはもう戻る気はないわ」


ベルの言葉を遮り、アリスは笑顔でベルに答える。


「……本気ですか?いつもの冗談なら笑えませんよ。それに、なんでそこまで私達に肩入れするんですか」


ベルはアリスをまっすぐ見つめた。


「んー……私がそうしたいから。ここには……いえ、ここでしか私は生きたくないと思えたの。

理由は色々あって、面白い話じゃないからしないけど。それにベル、テレス、魔王城にいる魔物みんなのこと大好きだもの」


そう言ってアリスはワインに手を掛けると、ベルとテレスのグラスに注いだ。


「こんなつまらない話は止め!それより次の勇者の殺し方について話しましょう!そろそろ人間達も勇者が死ぬことに慣れてきてるという情報が入ってきてるわ。インパクトのある殺し方をして話題性を取り戻すの!」


「それはアリス様が異常なペースで勇者を倒してしまっているからでしょ。三日に一度死んでれば国民も驚かなくなります」


テレスがワインを飲みながら、ため息をつく。


「痛みがないように即死させてるから仕方ないわよ。必ず一瞬で死ぬように作戦をたててるもの。

さすがに痛いのは敵とはいえ可哀想だし……」


「いや、死ぬ事自体が相当可哀想ですからね……殺人鬼の発想になってますよ?」


ベルはアリスのイカれ方に少しひいている。


「別にいいじゃない、本当に死ぬわけじゃないし!毎回次の日には生き返っているのよ?」


「死の概念まで狂ってるんですか……でもそれなら確かに魔王と呼ばれて当然です」


ベルは笑いながら、ワインを飲み干した。


楽しい時間が続き、いつの間にかアリスは酔っぱらって寝てしまっている。


「アリス様って本当に不思議な方ですよね……来たばかりの時は魚が死んだような目をしていたのに、今では毎日楽しそうに魔王軍の指揮をとってる。

それに、さっきの発言だって……間違いなく本心だった」


ベルが不思議そうな目で幸せそうに眠るアリスを見つめる。


「あっちの国でどんな生活をしていたかは分からないけど、今の生活がアリス様にとって最善ならそれでいいんじゃないかしら?

人間だろうが、魔物だろうが私は何があってもアリス様の味方よ」


「ずいぶん惚れ込んでますね、ガチ恋ですか?」


「えぇ、ガチ恋の激推しだけど」


「え……本気で言ってます?」


ベルは驚きテレスを目を丸くして見てる。


「本気よ?死んでもアリス様だけは離す気はないわ。それが勇者だろうと、魔王だろうと、何者にもアリス様の隣は譲れない。

あら、この話題女子会トークっぽいわね」


テレスはそう言うと、席を立ちアリスをベッドまで連れていくために抱き上げた。


「ベル、もう女子会はお開きよ。来てくれてありがとう、また参加してくれることを期待してるわ」


そう言うと、アリスとベッドのある部屋に消えていった。


「アリス様もとんでもない悪魔に惚れられて大変ね……いや、アリス様に惚れてしまったテレスさんの方が大変なのかしら?

どちらにしても、面白いことには間違いないわ」


残っていたワインを飲み干し、ベルは楽しそうに部屋を後にした。









「アリス様、アリス様!大変です!起きてください!」


「うー……飲み過ぎた……朝から騒がないでよ……」


女子会明けの朝、アリスはテレスではない知らない魔物に起こされた。


「それよりあなた誰?……テレスは?」


状況が全く理解できず、アリスは目を擦りながら魔物に焦点を合わせる。


「あら、エルじゃない。どうかしたの?今日もお手本みたいな男の理想像ね」


「からかわないでください!緊急事態なんです!」


シルバーのショート、巨乳、童顔たれ目、恐らく見た男は全員好意を寄せるであろう見た目のダークエルフが、焦りながらアリスに詰め寄る。


「先ほど魔王様が見つかったんですよ!城の最深部に封印されてたみたいです!」


「……え!?直ぐに連れていきなさい!」


アリスは飛び起きて、エルの後を走ってついて行った。







最深部に着くと、たくさんの魔物が野次馬になり集まっている。

その中心からテレスが誰かと大きな声で揉めているのが分かった。


「テレス!そこをどけ!殺されてぇのか!」


「サラ、あまり同じ事は言わせないで頂戴。やれるものならご自由にしなさい」


「お前……魔王様の封印を解くのに反対してること自体イカれてんだぞ?いい加減にしろ!」


「なにもおかしくはないはずですが。アリス様の方が真の魔王に相応しいから、魔王様には引退して頂きたいだけです」


「だったら封印を解除して、お前が直接魔王様に言えよ。封印を解除しない理由にはならねぇんだよ」


「あの人が、人の話を聞くわけないじゃないですか。めんどくさい事になるのは分かりきっています」


アリス達は魔物達を掻き分け中心部に着くと、テレスとサラマンダーのサラが今にも殺し合いそうな雰囲気で睨みあっている。


サラは赤髪の竜人で、魔王軍の四天王の一人だ。


「あ、アリスじゃねぇか!このバカ女をどうにかしろ!」


サラはアリスを見つけると駆け寄ってきた。


「サラ、久々ね。最近見かけなかったけど元気してた?」


アリスはサラに笑顔で話しかける。


「最高に元気だ!こうやって魔王様も無事に見つけることが出来たしな!探したかいがあったぜ」


サラが嬉しそうにアリスの質問に答えた。


「それは良かったわ!これで魔王様が復活させられるじゃない!」


「そうなんだよ、それなのにテレスが訳が分からない理由でこのまま魔王様を閉じ込めておけって言うんだぜ!?」


「それはひどいわ!魔王様を直ぐに自由にして差し上げないと」


「だろ!ほら、テレス!アリス様がそう言ってんだ!さっさと解除しろ」


「ア、アリス様本当に宜しいんですか?」


テレスが信じられない顔をして、アリスに尋ねる。


「当たり前よ!早く魔王様を助けないと!そして以前みたいに糞な作戦、休みのない勤務、不味い飯を皆さんでまた味わおうではありませんか!」


「そうそう!皆で不味い……え?」


サラがきょとんとした顔でアリスを見る。


「サラ?魔王様が復活すれば指揮権は全て私から移ります。そうなれば今のような生活は送れなくなるのは当然でしょ?テレス早く解除して」


「分かりました……サラ早速封印を解除するわよ」


アリス指示でテレスが封印されているドアに手をかけた。


「ちょ、ちょ、ちょっと待て!テレス、封印を解くのは一旦なしだ!」


サラが大慌てで、テレスを止めた。


「あら、どうして?魔王様を復活させたいと騒いだのはあなたでしょ?」


テレスはわざとらしく首を傾げる。


「いや、よく考えたら魔王様が封印ごとき自分で解除出来ないはずがないと思ってな!

ここは……あれだ!古の禁断の魔物とかが封印されてるんじゃないか!?なぁ、皆もそう思うだろ!?」


サラはわざとらしく魔物達に同意を求める。


「そ、そうだ!魔王様がいるはずないだろ!」


「た、確か古の魔物が封印されてるとか聞いたことがある気がする!」


魔物達も一斉にサラに同意の声を上げた。


「それは封印を解くわけにはいかないですね。では更に私しか絶対に解けない封印魔法をかけておきます」


そういってテレスはいかにも複雑そうな魔方陣をドアに展開させる。


「そ、それは流石に……」


サラが気まずそうに呟くと、アリスはサラの耳元で『今日の夕食はステーキにしようかしら』と耳打ちする。


「テレス!絶対に勇者でも解けない封印かけとけ!お前らもここには近づくなよ!解散!」


サラが大声で魔物達に指揮すると、素早く魔物達は持ち場へ帰って行った。


「テレス、私達も部屋に戻るわよ。サラもたまには遊びに来てよね」


「かしこまりました、アリス様」


そう言うとアリスはテレスを連れ帰っていった。


「これで良かったのか?」


「良いに決まってるでしょ、あんなバカ魔王復活させてどうするのよ」


サラが呟くと後ろからベルが答えた。


「ベル!お前ここの事知ってたのか!?」


「随分前からね。アリス様のお陰で勇者に倒されるはずだった未来が変わったんだもの。

サラの選択は最善としか言いようがないわ」


「そこまで言われると……そういう気がしてきたな!」


サラが少し嬉しそうに微笑む。


「約束通りサラの今日の夕飯はステーキ食べ放題よ。夕飯の時間を他とずらして遅くに食堂に来なさい」


「おい、食べ放題は流石に無理だろ……俺の食う量知ってるだろ……」


サラは残念そうに項垂れた。


「今の魔王軍の資金力は以前の25倍よ。一回あなたを満腹にした位じゃ何の影響も出ないわ」


ベルはそう言い残し帰って行く。


「まじで魔王様が永遠に復活しないようにしないとな……」


サラは絶対に魔王を復活させないことを心に誓った。






「アリス様、あのような危険な賭けは止めてください」


部屋に戻る途中、テレスがアリスを本気で注意する。


「そんなに怒らないでよ……私だって怖かったんだから……」


アリスは落ち込みながら下を向いた。


「ふざけないでください。アリス様が本当に反省してるかどうか位分かりますよ」


「バレてた?でもね危険な賭けをしてでも、私はここでの生活を守りたいのだけは分かって頂戴。

バカな事を言ってると思われるかもしれないけど、私はこの生活を守るためなら命を賭けられるわ」


「……どうしてそこまでするんですか……あなたは人間で私達は魔物なんですよ。

いつまでも一緒にいれる訳じゃない。寿命だって全然違うし、いつ引き裂かれるかも分からない。

それを本当に分かってるんですか?」


テレスは立ち止まり、アリスを見つめる。


「知らないわ。私はつまらない事は考えないの」


そう言ってアリスは、テレスに近づき抱き締めた。


「私はつまらない未来を考える暇があったら、楽しい今を掴む努力をしたいの。きっとそれが私が望む貴方達との未来に近付くから」


「アリス様…………良い感じの事を言いながら、顔を近付けるのを止めてください」


テレスにキスをしようとしたアリスを避けながら、テレスは歩き出した。


「今は完全にキスする流れじゃない!テレスは本当につれないなぁ……私のこと嫌いなの」


「知りません」


「否定はしないと……脈ありね」


「はぁ……冗談は程々に早く部屋に帰って朝食を食べますよ……」


「ワイン!」


「駄目です」




アリスが唇を尖らせながらテレスについていく。

二人とも顔はお互いに見えないが、笑っているのは分かった。


きっとこれからもこんな日が続く事を願って。


シリーズ化したいと思っていますが、日常系の難しさにぶち当たりまして……とりあえず短編で書き上げた次第です


他にも1つファンタジー小説を書いているので、そちらも宜しければ読んでください


ここまでお付き合い頂きありがとうございます


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