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臆病者シリーズ

臆病な俺はそれでも君の笑顔が見たい

作者: ちくわぶ(まるどらむぎ)




 ※※※ 彼女視点 ※※※



「久しぶり、お兄ちゃん」


にっこり笑って言う。

ドアから入ってきた兄は目を見開いた。


「おまっ!探したんだぞ!何ヶ月もどこに行ってたんだ!」


「ずっと気になってた《綺麗な花》を見に?」


「ふざけてるのか?

出かける時は行き先と帰る時間を言えっていつも言ってるだろう!

何してた!」


「んー。《とある国》の王様のお手伝い?」


「………もっとマシな嘘はつけないのか?」


「本当だもん。褒めて貰ったし、《ご褒美》も貰ったもん」


「ハイハイ。本当のことを言う気はないんだな。

………とにかく。こっちは心配してたんだ。

たとえ護衛を連れて、にしても《出かけてくる》って伝言だけでいなくなるなよ」


「いつものことなのに」


「毎回心配してるんだ!

……俺だけじゃないぞ!きっと――」


「――何?《あの人》が心配するとでも言う?

《あの人》が13女の心配するわけないでしょ。

同じママから生まれた《兄妹》でも《あの人》の唯一の息子のお兄ちゃんと私は違うんだよ」


「…………お前」


「あ、いいの、いいの。何とも思ってない。むしろありがたいよ。

なに不自由なくのびのびやらせてもらってるもん。

――それより。隣国の王女様、この国に来たんでしょ?

どうなの?お兄ちゃん。婚姻の申し込み受けてもらえそう?」


「なっ……何言ってんだ!そんな話はいいんだよ!

……愛する人との結婚がなくなって王女様は今、ものすごく傷ついていらっしゃるんだ。

そっとしておいてさしあげないと………」


「ふーん」


「だいたい、王女様の結婚がなくなったのも俺のせいなんだよ。

《隣国の王太子からの婚姻の申し込み》なんて。

………たとえ既に結婚が決まっていても断るべきではないと隣国の王は判断されたんだろう。


だがまさかあの、家族愛に溢れた隣国の王が政略を優先されるなんて。

………結婚を取りやめるなんて。

早々に王女様をこの国に送って来るなんて。


ああ……俺はどうしたらいいんだ。王女様に顔向けできない!」


兄はこの世の終わりみたいな顔になっている。


「そうかなあ……」


「どうしてこんなことになった。

俺は王女様が幸せならそれで良かったのに。


それが!


俺の気持ちを知ったら相手の《状況》も考えず婚姻を申し込んだ父上を恨んで――。


……いや。


……俺のせいなんだよな。


忘れられなくて。父上が持ってくる《話》は全部断って………。

うじうじといつまでも王女様の絵姿が捨てられなかったから………」


「うんうん。それ見つかっちゃったんだよね。

そりゃそうでしょ。枕の下、引き出しの中。あとは額縁の裏だっけ。

誰でも見つけるよ。一番大事な物を隠しちゃいけない所だよね?」


「………なんで知ってるんだ」


「当たり前でしょう。何年、兄妹やってると思ってるの?」


兄は口をぱくぱくしている。

気付かれてないと思っていたのか。


私だけじゃない。

言ってやりたい。この部屋は勝手に綺麗になるんじゃない。

お掃除する《人》がいるんだよ。何故気付かないんだろう。


私はため息を吐いた。


「なあんだ。この宮に王女様がいるって聞いたから、お兄ちゃんもやるなあって思っていたのに」


「………王女様を王宮には置いておけないだろう。

王女様が何を言われるか……」


「あ、なんだ。ここは避難所?」


「そうだよ。せめて静かに過ごしていただきたいんだ」


「うーん。想像はしてたけど。先は長そうだね。

王女様に、ろくに顔を見せてもいないんでしょ?」


「どの面下げて会えるんだ。俺は王女様の幸せを壊した男だぞ」


「毎日、花を届けているだけだとか。今日のは今、持ってるやつ?」


兄が持っている純白の花を見る。

茎のほっそりした、儚げな花は王女様を思い出させる。


兄はその花を慈しむようにそっと撫でた。


「せめてもの慰めになるかと……。受け取ってはくださるし」


「……侍女を厳選してるとか」


「隣国から一緒に来られた侍女殿だけではご不便だろう。

だが王女様とも侍女殿とも気の合う者でないと」


「……隣国の王宮料理人を呼んだとか」


「食べ慣れた物の方が喉を通るだろう」


「……庭師も呼んだとか」


「窓から見えるのはお好みの庭の方が良いだろう」


「はー………噂知ってる?

王太子様は隣国の王女様を溺愛し囲っているって。

女性に入れ上げて将来大丈夫なのかって」


「………知ってる。良いんだよ、俺は何て言われても。

それよりその噂、王女様の耳に入れるなよ。

――たとえお前でも王女様を傷つけたら許さないぞ?」


「あー。やっぱりそれ言う。ハイハイ。わかりました」


私はドアに向かって歩き出した。

後ろから兄の声がする。


「……どこ行くんだ?」


「自分の宮に帰るんだよ。

どうなったか知りたかったけど、年単位で待たなきゃダメそうだしね」


「何言ってるんだ。この宮に部屋があるだろう。そこを使え」


「えー。やめとく。

ばったり会っちゃったらお兄ちゃんに憎まれそうだし」


「は?」


「それにここじゃあ抜け出すの苦労するからね」


「――おまっ!またそんなことを!」


「あはは、じゃあねー」


「護衛は連れて行け!

行き先と帰る時間だけは言え!」



 ※※※ お兄ちゃん視点 ※※※



妹はひらひら手を振って出ていった。


全く心配をかけるやつだ。

すっかり町娘のようになっている。

……護衛と剣の訓練もしてると聞いたぞ。

何してるんだ、あいつは。


………いいか。あいつはあいつらしくすると良い。

《あれ》なら父上も政略に使おうとはなさるまい。


もう少し。

私が王になるまで放っておこう……。


王家に生まれたのだ。

政略も役目であると言える。


だが父上は相手を選ばない。


次代の王になる王太子とは扱いが違う。

王女は敵国の老王にだろうが、名も知らぬ未開の国の幼王にだろうが送り込む方だ。


……隣国の王は父上のような方ではない。


母を亡くした俺と妹を労ってくださった方だ。

隣国の王の、愛妾の一人でしかなかった母の死を悼んでくださった。


そんな方が何故、ご自分の王女様を………。


俺は頭を抱えた。


隣国の王の労りに思わず涙をこぼした俺にハンカチを差し出した王女様。

ただ一度のふれあいが忘れられなかった。


その俺が、あの方の幸せを壊した―――


どれほど謝罪しようが許されるものではない。

しかもその謝罪すら俺はまともに出来ていない。


あの方がどんな顔をされているのか見るのが怖くて

優しいあの方に俺を罵らせてしまうことが怖くて


会えもしないのだから。


今日は庭師が教えてくれたあの方の好きな花にした。

届けて欲しいと侍女に頼む。

臆病な俺にできることはこのくらいしかない。


それでも


何年かかってもいい。

俺に向けてじゃなくていい。


ただ、笑って欲しいんだ―――――




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