星のひとかけら
流れ星に願い事をすると叶うと言われている。
僕は、これまで、そんなことを気にもとめていなかった。
それはきっと、どうしても叶えたいほどの願い事が、これといってなかったからだ。
でも、その年の冬、僕は初めて流れ星に願い事をしたいと思った。
春が来たら、僕はこの街を離れる。
パパのお仕事の都合で、僕はこの小学校を転校することになった。
もうすぐ、サラちゃんに会えなくなる。
サラちゃんは、隣の家に住む同い年の女の子だ。
幼稚園の頃からいつも一緒だった。
一緒に遊んで、一緒に帰って、それが当たり前になっていた。
ある日、僕はパパとママに連れられて、東京の街に行った。
そこにあったのは、春から僕が新しく住む家だった。
僕はベランダに出て、夜空を見上げた。
東京の夜空は、晴れているはずなのに、何故だか星が見えなかった。
それは、僕が住む街の夜空と、同じ夜空だとは思えなかった。
僕の家の近くには星が沢山見える丘がある。
春が近づくある夜、僕はひとり、丘に向かった。
夜空には、無数に星があって、今にも落ちてきそうだった。
それは少し怖いくらいだった。
僕は思わず夜空から顔をそむけた。
「どうして、東京の空には星がなかったんだろう……」
「それは、東京の街の明かりが眩しすぎるからさ」
「え? 誰?」
「おいらだよ」
「え?」
「顔を上げてごらん」
「え? まさか、お星様!?」
「姿が見えなくても、星はそこにあるってもんさ」
「そうなの!?」
「君は、浮かない顔をしているね?」
「僕、もうすぐこの街を離れなきゃいけないんだ。そしたら、サラちゃんにはもう会えない」
「どこにいたって、空は繋がっている。流れ星は、願いを叶えるために流れるのさ」
「願い?」
「君の願い事はなんだい?」
夜空を流れ星が流れはじめた。
願い事……。
それは、ひとつしかなかった。
『サラちゃんと、また会えますように』
僕は、願い事を3回口にした。
すると、流れ星のひとかけらが、僕のもとへ落ちてきた。
それはキラキラしていて、とても綺麗だった。
「その星のかけらを、サラちゃんに渡してごらん」
お星様は、そう僕に言った。
春が来た。さよならの日だ。
僕はサラちゃんに、星のひとかけらをあげた。
サラちゃんは嬉しそうに、キラキラした星のかけらを、自分の宝箱に入れていた。
さよならは、きっと、さよならじゃない。
大きくなったら、あの丘で一緒に流れ星を見よう。
僕らはそう約束をして、お別れをした。
今夜は、どうやらとても寒い。
僕は10年ぶりに、あの丘を目指す。
丘に着くと、そこには誰かの後ろ姿があった。
振り返った彼女の手には、あの日の星のひとかけらがあった。