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ショートショート4月~2回目

願いを叶えるのは

作者: たかさば

町の電気屋さん、町の休憩所のスピンオフです(*´-`)

ずいぶん昔から、この場所を見守り続けている。


始まりは、たどり着いた一人の若者。

続いたのは、荷台から落ちた若者。


混じる人に、増える人。

立ち寄った人に、居付いた人。


この場所は、人が暮らす場所となった。


人の増えてゆく様を、見守り続けた。

人の暮らしが変わってゆく様を、見守り続けた。

人の願いが叶ってゆく様を、見守り続けた。


いつの頃からか、増え続けていた人が減り始めた。


町から若者の姿が消えてゆく。

町から子供の笑顔が消えてゆく。


町にあるのは、老いたものの嘆き。

町にあるのは、老いたものの悲しみ。

町にあるのは、老いたものの諦め。


孤独に世を去る人を憐れに思った。

孤独に世を去らねばならない人を憐れに思った。


古い家屋で、たった一人で世を去る、人。

古い家屋で、たった一人で朽ちてゆく、人。


……私は、人が、大好きであったから。


二匹ばかり、使いをこしらえ、人に混じることにした。


一人でも、孤独に感じる時を減らせるようにと願って。

一人でも、孤独に朽ちていくものが減るようにと願って。


孤独に生きる者たちを、家屋の中から連れ出すことにした。

孤独な人に使いを乗り移らせて、外の世界に連れ出した。


孤独な人が集まる場所を作り、孤独を解消する機会を与えた。


日替わりで孤独な人に乗り移り、情報収集に努めた。

日替わりで孤独な人に乗り移り、集会所に連れ出し、交流を深めた。

日替わりで孤独な人に乗り移り、町の衰退を止める策を練った。


老いた者があふれるこの町に、若い世代を呼び込むことを願った。


私の願いは、届くのだろうか?

人の願いを叶えることしかできない私は、己の願いの叶え方を知らない。


ただ、願い続けるだけの、日々が続いた。


町を変える可能性を持つ誰か。

町に暮らし続けてくれる誰か。

町と共に成長していける誰か。


いつか、必ず、現れるはずと、信じる日々が続いた。


ふわりともたらされた、きっかけとなりうる、人。


言葉を交わし、可能性を感じた。

町に溶け込めそうな、人だ。


共に笑ってみて、期待した。

町で暮らしてほしい、人だ。


親交を深めて、確信した。

共に町を変えてくれる、人だ。


私の願いは、何かに、届いたのだ。

私の願いは、叶ったのだ。


少しばかり念入りに、見守り続けた。


この町に久しぶりに、人が一人、増えた。


町に吹いたのは、新しい、風。


頼れる誰かの出現は、老いた人に活力をもたらした。

頼れる誰かの手助けは、老いた人に喜びをもたらした。

頼れる誰かの一言は、老いた人に前向きな決断力をもたらした。


朽ちた荒地に、新しく場所ができてゆく。

朽ちた場所に、新しく命が生まれてゆく。


町に、人が増えてゆく。

町が、人であふれてゆく。


町にあふれた人々が、私の社で宴を開いた。


境内の中心で輝くのは、燃え盛る、炎。

それを囲んで、人々が、踊り、歌い、騒いでいる。


人が増えるたびに、開かれていた、祭事。

人が減り、久しく開かれていなかった、祭事。


この町に住む人も、この町に住まない人も、共に歌い、踊り、喜びを分かち合っている。


実に、良い。

実に……良い。


若者がこの場所で、燃え盛る火を囲みながら踊って歌った日を思い出す。

老いた若者がこの場所で、燃え盛る火を囲む若者たちを見ながら天に昇った日を思い出す。


……ずいぶん昔から、この場所を、見守り続けてきた。


始まりは、たどり着いた、一人の若者。


あの時、私を食わなかったあの若者。

あの時、一つの木の実を分け与えてくれた、若者。


私の亡骸を、土に埋めた、あの、若者。


若者の行く末を見守りたいと願ったあの時から、私はこの場所で人を見守り続けている。


……ああ、そうか。


あの時、私の願いが、何かに届いて、叶えられたのだ。

私の願いが叶って、今、ここに、いるのだ。


「願いって、叶うものなんだねえ……。」


「なんだ、どうしたいきなり!ああ、酒足りなかった?はい、どーじょ!ぐふふ!!!」


燃え盛る火を眺めながら、ぼんやりつぶやいた私に、カップ酒を差し出す……親友。


いつの間にか空になっていた、私のカップ酒と……交換してくれるらしい。


ぐびり、ぐびりと、酒を、飲む。

燃え盛る炎が、実に見事で……酒を飲む手が、止まらない。


「よっ!!柏君、良い飲みっぷり!!!」


「ぎゅふふ!!僕ねえ、お酒にめっちゃ強いの!」


……おかしなことだ。

こんなにも()の意識ははっきりとしているのに、人の形をとる()の言動はずいぶんあやふやだ。

こんなにも()の意識ははっきりとしているのに、人の形をとる()の影響か、いつもの力がぼんやり霞んでいる。


祭りの最中、私の社に願いを届ける人がたくさん並んでいるのが見えるけれど。


今願っても、聞き届けてあげることは、出来そうにない。


……ああ、でも、おそらく、多分。


私が酔っ払っていても、きっと願いは、何かに届くはず。

私が酔っ払っていても、きっと願いは、何かが聞いてくれるはず。


私の願いを聞き届けてくれるほどの、偉大な、何かがいるのだから。


「みっやしったく―ん!いっちょに、おどろー?!」


「おーいいともさ!俺のキレッキレの指先、見とけよ!!」


私は安心して、酒をあおって、人々の踊りの輪に加わった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] なんじゃいこれ。守り神みたいな。 [気になる点] そして酒と雰囲気にぐびぐび呑まれるという。 [一言] プッハー、ふいー。これじゃこれじゃぁー、やっぱり酒はやめられんのー。 ▼ そんな場…
[一言] あれ、将棋を打つだけだった柏くんは、神様かなんかでした? まぁ、よくあることですね。 いい人だから、仲良くやってけたんですから。で、うまくいったんですからね。
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