願いを叶えるのは
町の電気屋さん、町の休憩所のスピンオフです(*´-`)
ずいぶん昔から、この場所を見守り続けている。
始まりは、たどり着いた一人の若者。
続いたのは、荷台から落ちた若者。
混じる人に、増える人。
立ち寄った人に、居付いた人。
この場所は、人が暮らす場所となった。
人の増えてゆく様を、見守り続けた。
人の暮らしが変わってゆく様を、見守り続けた。
人の願いが叶ってゆく様を、見守り続けた。
いつの頃からか、増え続けていた人が減り始めた。
町から若者の姿が消えてゆく。
町から子供の笑顔が消えてゆく。
町にあるのは、老いたものの嘆き。
町にあるのは、老いたものの悲しみ。
町にあるのは、老いたものの諦め。
孤独に世を去る人を憐れに思った。
孤独に世を去らねばならない人を憐れに思った。
古い家屋で、たった一人で世を去る、人。
古い家屋で、たった一人で朽ちてゆく、人。
……私は、人が、大好きであったから。
二匹ばかり、使いをこしらえ、人に混じることにした。
一人でも、孤独に感じる時を減らせるようにと願って。
一人でも、孤独に朽ちていくものが減るようにと願って。
孤独に生きる者たちを、家屋の中から連れ出すことにした。
孤独な人に使いを乗り移らせて、外の世界に連れ出した。
孤独な人が集まる場所を作り、孤独を解消する機会を与えた。
日替わりで孤独な人に乗り移り、情報収集に努めた。
日替わりで孤独な人に乗り移り、集会所に連れ出し、交流を深めた。
日替わりで孤独な人に乗り移り、町の衰退を止める策を練った。
老いた者があふれるこの町に、若い世代を呼び込むことを願った。
私の願いは、届くのだろうか?
人の願いを叶えることしかできない私は、己の願いの叶え方を知らない。
ただ、願い続けるだけの、日々が続いた。
町を変える可能性を持つ誰か。
町に暮らし続けてくれる誰か。
町と共に成長していける誰か。
いつか、必ず、現れるはずと、信じる日々が続いた。
ふわりともたらされた、きっかけとなりうる、人。
言葉を交わし、可能性を感じた。
町に溶け込めそうな、人だ。
共に笑ってみて、期待した。
町で暮らしてほしい、人だ。
親交を深めて、確信した。
共に町を変えてくれる、人だ。
私の願いは、何かに、届いたのだ。
私の願いは、叶ったのだ。
少しばかり念入りに、見守り続けた。
この町に久しぶりに、人が一人、増えた。
町に吹いたのは、新しい、風。
頼れる誰かの出現は、老いた人に活力をもたらした。
頼れる誰かの手助けは、老いた人に喜びをもたらした。
頼れる誰かの一言は、老いた人に前向きな決断力をもたらした。
朽ちた荒地に、新しく場所ができてゆく。
朽ちた場所に、新しく命が生まれてゆく。
町に、人が増えてゆく。
町が、人であふれてゆく。
町にあふれた人々が、私の社で宴を開いた。
境内の中心で輝くのは、燃え盛る、炎。
それを囲んで、人々が、踊り、歌い、騒いでいる。
人が増えるたびに、開かれていた、祭事。
人が減り、久しく開かれていなかった、祭事。
この町に住む人も、この町に住まない人も、共に歌い、踊り、喜びを分かち合っている。
実に、良い。
実に……良い。
若者がこの場所で、燃え盛る火を囲みながら踊って歌った日を思い出す。
老いた若者がこの場所で、燃え盛る火を囲む若者たちを見ながら天に昇った日を思い出す。
……ずいぶん昔から、この場所を、見守り続けてきた。
始まりは、たどり着いた、一人の若者。
あの時、私を食わなかったあの若者。
あの時、一つの木の実を分け与えてくれた、若者。
私の亡骸を、土に埋めた、あの、若者。
若者の行く末を見守りたいと願ったあの時から、私はこの場所で人を見守り続けている。
……ああ、そうか。
あの時、私の願いが、何かに届いて、叶えられたのだ。
私の願いが叶って、今、ここに、いるのだ。
「願いって、叶うものなんだねえ……。」
「なんだ、どうしたいきなり!ああ、酒足りなかった?はい、どーじょ!ぐふふ!!!」
燃え盛る火を眺めながら、ぼんやりつぶやいた私に、カップ酒を差し出す……親友。
いつの間にか空になっていた、私のカップ酒と……交換してくれるらしい。
ぐびり、ぐびりと、酒を、飲む。
燃え盛る炎が、実に見事で……酒を飲む手が、止まらない。
「よっ!!柏君、良い飲みっぷり!!!」
「ぎゅふふ!!僕ねえ、お酒にめっちゃ強いの!」
……おかしなことだ。
こんなにも私の意識ははっきりとしているのに、人の形をとる僕の言動はずいぶんあやふやだ。
こんなにも私の意識ははっきりとしているのに、人の形をとる僕の影響か、いつもの力がぼんやり霞んでいる。
祭りの最中、私の社に願いを届ける人がたくさん並んでいるのが見えるけれど。
今願っても、聞き届けてあげることは、出来そうにない。
……ああ、でも、おそらく、多分。
私が酔っ払っていても、きっと願いは、何かに届くはず。
私が酔っ払っていても、きっと願いは、何かが聞いてくれるはず。
私の願いを聞き届けてくれるほどの、偉大な、何かがいるのだから。
「みっやしったく―ん!いっちょに、おどろー?!」
「おーいいともさ!俺のキレッキレの指先、見とけよ!!」
私は安心して、酒をあおって、人々の踊りの輪に加わった。