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ARCADIA BLUES.  作者: 那樹聖一
テレジア編
7/61

逆光

昼時、場所喫茶店。作戦決行は19時。俺は行きつけの喫茶店で珈琲を飲んでいた。テレジア近くで仕事がある日は決まって一人でこの店で珈琲を飲むようにしている。これがここでのルーティーンになっており、そのおかげかマスターに顔を覚えてもらったのだ。普段は窓際の席に座るのだが、仕事前は必ずカウンターに座ることにしている。


「今日はどんな仕事を?」


マスターが珈琲豆を挽きながら僕に尋ねた。手に持った珈琲カップをスープカップに置いた。


「ちょっと悪いやつをとっちめに行くんですよ」


「ほぉ、悪いやつですか。この3ヶ月で増えましたねぇ。私もここで商いをして長いですがここまで国柄が変わるとは。しかも次は悪いやつをとっちめるあなたが来てくれた。ハハ、長生きするものですね」


マスターは笑顔だった。2日前のことなんて起こっていないような顔だった。


「きっと明日にはまた変わりますよ」


「ハハ、私の身体が持ちませんな。はい、これはサービスね。お仕事頑張って来てください」


そう言いながら珈琲一杯とチョコをくれた。俺はこの店の雰囲気が好きだ。静かだが耳をすませば聞こえてくる人の話し声、店内に流れる落ち着いたメロディの音楽、優しいマスター。ここだけは変わらなくてよかった。そう思った。




夜、時刻18時。場所SEVENTH-BLUES。俺は持ち物の確認、荒塊の動作確認を終え、仮眠室へ向かった。そこではティナが幻式『Butterfly』を操作する練習をしていた。


「んんん〜!はぁ、はぁ」


無人機『銀の翼』の操作が上手くいかないようで朝からずっと練習しているようだった。少し違うが俺も初めて幻式をつけた時は魔法を撃つことに苦戦した。その時は団のみんな、特に第4部隊の人たちに教えてもらった。


「銀の翼に魔力の波を送る感じでやって見たら思うように動くかもね。あと、肩の力は抜いた方がいいよ。目は開けたままじゃないと危ないかも」


幻式を使う時は一定の感覚、一定の量の魔力を送り続けるのが一番らしい。特にこの幻式に関しては脳波を受信したり、本体と無人機が魔力のパスが繋がっていることから集中力を必要とするだろう。ティナは早速それを試した。最初は無人機がゆらゆら揺れながら飛んでいたが5分経つと6機の飛行は安定し自由自在に部屋の中を飛びまわった。


「やった、やった。右!左!すごい!やりました!」


ティナは喜んだ。その姿は野原を駆ける少女のようにわんぱくで無垢な笑顔だった。




夜、時刻19時、場所城門前。

俺とティナは兵士の格好をし、ルイスを先頭に歩いていた。


「あ、兵長お疲れ様でーす。相変わらず勤勉ですね」


「お前たちはもっとシャキッとしなさい。城を守る兵士なのですよ?」


「ははは!了解ですよ」


警備兵はゆっくりと敬礼をし、俺たちを見送る。あっさりと城内に入ることに成功した俺たちは早速魔道具らしき物を見つけた。柱の上に水晶のような玉があった。形状的にあの水晶から魔法が撃ち出されるのだろう。


「ティルナシアさん。あれ狙えますか?」


ルイスが聞くとティナは集中し、6機の銀の翼のうち1機を飛ばした。銀の翼はある程度近づくと魔法を発射し水晶を壊した。すると、警報のようなものが場内に鳴り響いた。


「ここからは俺たちの仕事って訳だ!ティナ引き続き魔道具の破壊よろしく!」


「任せてください!翼ちゃんたちお願い!」


ティナの声とともに6機のビットはバラバラに飛び立った。さて、俺の仕事をやるとしよう。正面からは20人近い兵士が目の前に立ち塞がった。普通の兵士なら手こずるだろう。しかし宝玉の力の下では一人一人の戦闘能力は下がり動きも鈍かった。俺は即座に距離を詰め敵の剣を弾き飛ばしていった。武器を失った兵士たちは実験通り目を覚ましていった。


「兵士諸君!君たちは操られている。武器を弾かれた者は武器を拾うな!また操られるぞ!目覚めた者は操られている者の武器を捨てさせろ!」


「兵長!」


「兵長の言葉なら違いねぇ!」


「俺たちの命はルイス兵長と共にありー!」


目を覚ました兵士たちは武器を拾わず操られている兵士と取っ組み合いを始めた。動きは先程の動きとは一転、武器がないというハンデがあるにも関わらず、次々と無力化して行った。俺も負けちゃいられない!水魔法ウォールトを使いながら武器を次々と弾いていった。


「おい、クソ兵士共何やっているんだ!」


その声は聞き覚えのある声だった。そうだ、ゼル何とかさんの配下たちだ。まさかここで会うことになるとは。あの声的に宝玉の力が働いていないな。後ろには傭兵団らしき者たちも見える。


「ルイス兵長、あの山賊と傭兵は任せてくれ!あなた達は引き続き兵士の目を覚ましてあげてください!」


「了解しました!ご武運を!」


俺は敵集団に突っ込んだ。操られた兵士たち中をわざと突っ切り惑わせた。

「やぁ、山賊諸君!今日こそ君たちの最後だ」


俺は荒塊のヒートソードを展開し次々と首をはねていった。その光景は目を閉じたくなるほどのものだった。頭が外れた首たちからは血が吹き出し、城内に血の雨が降り注ぐ。その光景を見た山賊と傭兵はまるでゼル何とかさんを倒した時のような顔をし始めた。


「いけ、いけー!兵力的には俺たちが勝っているんだ。取り囲め!」


リーダーらしき男が命令すると俺を囲むように隊列を組み一斉に攻撃をした。


「そんなので、俺を止めれるかよ!二乃太刀!」


俺は言葉と共に回転斬りと、宙返りを駆使した剣さばきで敵を蹴散らした後、中型炎魔法中型炎魔法(ファレイク)を敵前方に撃ち陣を乱した。ティナのサポートもあってか敵のほとんどが瀕死になり、リーダーらしき男を残すのみだった。


「おい、第一王子とそのお仲間である商人はどこにいる?」


「お、お前なんかに喋るかよ。」


口を割らないか。だがこいつらから情報を聞き出さないと時間がかかる。城の部屋をくまなく捜索するのは愚策に近い。


「ああ、そうか。ではサヨナラだ。せいぜい自分の体と首が離れる瞬間にバイバイするんだな」


「わかった!わかったから俺はまだ自分の体とバイバイしたくねぇ!お、王の間だ!」


「王様は?」


「そこまでは知らねぇよォ!」


情報を聞い終わるとルイスは男を縛りあげ兵たちに見張りをさせた。


「ここからは別行動の方がいいみたいですね。私は国王を探してきます。ある程度の場所は見当がつきますので。ゼフィスさんとティルナシアさんは第一王子を。」


「いや、ティナはルイスさんについて行ってくれ。もしかしたら王様をかばいながらの複数人による戦闘になる」


「それはルイスさんを信用してのことですよね?」


兜から見えた黄金の瞳は真っ直ぐに真剣に俺を見た。俺も正直怖いさ。だがこの人は筋の通った人だ。だからこそ俺はこの提案をした。


「ああ」


ルイスの目が点になっていた。ティナは兜を被ったままだ。自ら魔法を使わない限りバレはしないだろう。それに俺はこのルイスという男を信用している。それが一番の理由だ。


「兵長!俺たちも同行させてください!」


兵士たちは真っ直ぐにルイスを見つめた。


「ダメだ。お前たちは武器を装備していない。そこでお前たちに頼みたい。今デルクーイ前兵長が悪を取り締まるためにお前たちの力を必要としている。その応援に向かって欲しい」


「ハッ!」


兵士たちは一斉に城外へ走り去っていった。この統率力、どれほどこの男が信用されているかがわかった。

「ではご武運を」


「ええ、帰ったら酒を奢らせてもらいますよ。デルクの奢りでね」


「はは、美味しい酒が呑めそうです」




二人と離れ俺は王の間へ向かった。全ての兵士を目覚めさせたのか城内は静まり返っていた。しかし、王の間へ近づくにつれ怒号や笑い声が聞こえてきた。道としてはあっているようだ。目の前に大きな扉が現れる。ここが王の間らしい。あの声もここから聞こえてくる。

ギギギギ……

扉を開けると奥に一人の男がいた。その姿は王族のような出で立ちで右腕には黄金に塗られた幻式を装着していた。


「あなたがこの国の第一王子のザイン様ですね。初めまして、私ゼフィス·ガラースと申します」


「ゼフィス?俺様が雇った傭兵団にそんな名の者はいなかったが」


「雇われた者ではありません。この国を主に戻しに来ました」


その言葉を聞くと王子は高笑いをし、その場立ち上がった。


「この国を戻す?馬鹿を言え。どこにその必要がある。この国を見よ、以前よりも栄えているではないか!」


この王子の言うことは利益だけを見ている発言だった。それは構わない、この国の王としてなら当然だ。


「ではお聞きします。第一王子であるあなたがなぜ王座に座ってなさる?」


「父上は最近床に伏せてしまっていてな。代わりに私が指揮を執っているのだ!どうだ、父上よりも栄えている。父上が国をまとめるよりも俺がまとめた方がいいのではないか!ハッハッハー!」


「あなたかあなたの協力者が毒を盛ったのでは?」


それを聞くと王子は不気味な笑みを浮かべ戦闘態勢に入った。俺も剣を抜き構えに入った。


「それを知られたのでは仕方ない。貴様はここで死ね」

王子が振るった剣を受け止めその剣に彫られた龍の造形を見た。その姿は蛇の様な見た目だった。いや、蛇ではなく龍か。

「まさか、その剣は12の龍装ですか」


「ほう、察しがいいな。この剣は我が王家に伝わる家宝のひとつ『魔剣ヴリトラ』だ。まぁ、能力は見ればわかるさ!」


12の龍装。古代移籍で見つかった12本の武器。12本共通の能力として大地に流れるLエネルギーとパスが繋がっており、それと個別で固有の能力を持つ。刃こぼれや折れることはなく、折れてもまた生えてくる代物だ。王子の剣筋は捌ききれないほどではないが良く、無茶な体勢からの攻撃をしてもけして防御を捨てない動きをしていた。彼の動きはどこかルイスさんの動きに似ていた。おそらくデルクの門下生だったのだろう。個人的には4回ほど剣を弾くか、砕くしている感覚だが、流石12の龍装と言ったところか。全く折れる気配がない。しばらく猛攻が続くも一旦距離を取り剣を振った。そうすると魔剣ヴリトラの刀身はみるみる伸びる。まるで1匹の蛇が宙を這いずりながら獲物へ近づく如く俺に伸びる。俺は緊急回避をし、無事に済んだ。しかし刀身が伸びるとは、近づくことが難しくなる。ここは一旦、回避に専念すべきか。


「それだけではないわ!狂え、『DINOSAUR』!」


王子は幻式を振りかざす。そうすると幻式は鎖のように変形しヴリトラと同じように刀身を伸ばした。これはヴリトラとは違った攻撃だ。ヴリトラが意志のままに動くのに対し、DINOSAURは鞭のようにしならせながらの攻撃だった。回避することが手一杯で近づくことができないでいる。ヴリトラとDINOSAURによる刀身を伸ばした攻撃。ムチのようにしならせた攻撃は徐々に速さを増し、回避を困難にさせる。このままじゃ近づくことすらできず切り刻まれてしまうな。距離も詰めずらいし2本の剣によって回り込むのも難しい。近づくにはあれを使うしかない。できれば使いたくなかったが使わなければ俺が切り刻まれて終わるだけだ!


「ザイン様、降参するなら今のうちです。いえ、する気はないようですね。では使わせて頂こう、この荒塊の力を!」


【アラクレ解放コマンド入力。ユーザーサポートシステム0%、各種事象を固定開始】


俺自身これを使うのは3度目だ。だがこれを使ったあとは必ず俺もぶっ倒れる。それを表すかの如く荒塊は紅く光だし、まるで血にまみれたかのように俺を照らし始めた。


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